連載 | #6 校閲ボーイが観た『地味にスゴイ!校閲ガール』レビュー

現職校閲者による『地味にスゴイ!校閲ガール』5話レビュー 地味? 無駄? 校閲の本質とは

現職校閲者による『地味にスゴイ!校閲ガール』5話レビュー 地味? 無駄? 校閲の本質とは
現職校閲者による『地味にスゴイ!校閲ガール』5話レビュー 地味? 無駄? 校閲の本質とは

画像:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)

2016年10月5日、日本テレビ系にてスタートした連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』。

話題作への出演が続く女優・石原さとみが、ドラマの題材としてはなじみの薄い「校閲者」を演じることでも話題の本作。2日に放送された第5話では、「校閲」の本質をテーマに据えたストーリーが展開された。

本記事では実際に新米校閲者として働く筆者が、実際の業務内容の紹介や現場の実情、業界に対する愚痴を交えつつ、前回に引き続きドラマの見どころをレビューする。 文:結城紫雄

不本意ルーキー型主人公・河野悦子

憧れの作品を校閲することになり喜ぶ悦子(画像:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』<日本テレビ系>)

憧れのスタイリスト・フロイライン登紀子(川原亜矢子)のエッセーを担当することになった悦子(石原さとみ)。喜びを爆発させる悦子だったが、登紀子の傍若無人とも思える振る舞いを目にしてしまい失望の色を隠せない。一方、ファッション誌編集者・森尾(本田翼)は仕事に恋にと迷走中で──。

以上が第5話のあらすじ。第3話において「好きな作家の校閲は禁止」という景凡社校閲部の独自ルールが登場しましたが、悦子のスーパーポジティブな行動は会社の慣習すら変えてしまっていたのです。

フィギュアを愛おしそうに並べる坂下(麻生かほ里)。筆者所属の校閲事務所でも、社員の趣味が仕事に生きることは多々ある(画像:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』<日本テレビ系>)

時を同じくして、景凡社ファッション誌編集部に撮影のため訪れたフロイライン登紀子。売れっ子スタイリストとなった彼女は、徹底的に無駄を省く超・合理主義者になっていました。登紀子の無茶な要求に応え、森尾が苦労して集めた小道具を「無駄」と一刀両断。それを目にした悦子は「そんな人とは思わなかった」と失望してしまいます。

自分の叶わなかった“夢の職”に就きながらも悩む森尾は、悦子の目にどう映ったのだろうか(画像:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』<日本テレビ系>)

あたしは先輩みたいに、好きでこの仕事やってるわけじゃないから。みんながみんな、先輩みたいに夢とか、やりたいこととかがあるわけじゃないんだよね。 『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』5話 森尾の台詞より

従来のお仕事ドラマ主人公といえば、その道のプロを除けば「憧れの職場で奮闘するルーキー」か、「別業界で培ったスキルを駆使するスペシャリスト転職者」のどちらかがほとんどです。しかし悦子はどちらでもありません。本意ではない職種に就いてしまった上、別業種の特別な技能もないという珍しいパターン。

その上、仕事を頑張る動機が「異動」という主人公は、歴代お仕事ドラマでもかなり異色だといえます。「好きなことを頑張る」ことが無条件で賞賛されていた従来の風潮と異なり、「望まなかった環境でどう生き抜くか」というテーマは、非常に現代的な問いかけだと感じました。

校閲者の「指摘出し」が採用(反映)されるかどうかは、編集者と著者によって決まる(画像:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』<日本テレビ系>)

それでも悦子が主人公たりえるのは、その愚直なまでの実直さ。今回も悦子は、登紀子の「イタリアをテーマにしたエッセー」の校閲で、東京・浅草でイタリア人に聞き込み調査をするという行動に出るのです。すべてはファッション誌編集部への異動のため!

さすがにここまではしない、けど

盲目の剣士の立ち回りを、実際に目隠しして検証する悦子(画像:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』<日本テレビ系>)

物語後半、校閲部で“地味な”事実確認作業に勤しむ校閲部員を目にした登紀子。一見無駄に思える作業を黙々とこなす彼らを目にした登紀子は、それまで「無駄」と切り捨てていた行為を省みます。そして、(一度は切り捨てた)森尾が用意した小道具を、撮影用プロップに抜擢。彼女は森尾の仕事ぶりに、かつての自分の姿を重ねていたのでした。

今回、悦子が繰り返し口にした「無駄なことなんてない」という言葉。テーマとしては陳腐に見受けられるかもしれませんが、日々「一見無駄に思える作業」に勤しむ校閲者・悦子(5話冒頭では悦子自身「(校閲の指摘出しが採用されなければ)無駄になっちゃいますよね」と発言している)が発言することに大きな意味があります。

華やかに思えるファッションや雑誌編集の職場でも、裏では地味で無駄な作業の積み重ね。それを、悦子の行動によって再確認する登紀子(スタイリスト)と森尾(編集者)。悦子が目指すファッション誌編集と校閲のコントラストを強調しつつも、根底には共通点があることを描いてみせたのでした。

ちなみに、ここまで大がかり(小説に登場する家屋を模型で再現するなど)な「事実確認」を行なうことは、実際の校閲ではほぼありえません。

しかし放送前レビューでも記した通り、校閲者は小説という「現場」を調査し、誤りや不自然な点がないか精査する「鑑識官」みたいなもの。だとすれば、「現場検証」さながらの事実確認も、ドラマの演出としては的確かつ正しい脚色といえるでしょう。

ちなみに劇中で悦子が使用しているタンブラー(写真左)は現在、番組公式サイトで販売中だ(画像:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』<日本テレビ系>)

物語終盤では、同僚・森尾と作家・折原幸人(菅田将暉)の同棲が、悦子にバレてしまう急展開。恋模様も風雲急を告げる本作、次回以降の三人の関係にも注目です。 本記事では『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』オンエア開始以降、全話にわたってレビュー記事をお届け予定です。本作は毎週水曜22時より、日本テレビ系列にて放送中。

今週の校正ギア!

水筒「真空断熱ベビーストロー マグ」(サーモス / 税抜3,500円) 校閲者にとって水はゲラを濡らす天敵。しかし一方で座りっぱなしの作業のため、血栓予防のための水分補給も欠かせません。

そこで登場するのがタンブラー。おしゃれ大好き河野悦子のマイボトルはハリスツイード生地のカバーつきですが、筆者はこのストローつきマグを使用。完全に横倒しにしてもほとんどこぼれず、また仕事中にちゅーちゅー吸っているとなんだか優しい気持ちになれる優れものです。
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放送情報

地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子

次回放送
2016年11月9日(水)22時〜
放送
日本テレビ系列
原作
宮木あや子「校閲ガール」シリーズ(KADOKAWA・角川文庫刊)
脚本
中谷まゆみ/川﨑いづみ
音楽
大間々昂
チーフプロデューサー
西憲彦
プロデューサー
小田玲奈/森雅弘/岡田和則(光和インターナショナル)
演出
佐藤東弥/小室直子 ほか
制作協力
光和インターナショナル
製作著作
日本テレビ

【キャスト】
河野悦子:石原さとみ 折原幸人:菅田将暉 森尾登代子:本田翼 米岡光男:和田正人 藤岩りおん:江口のりこ 尾田大将:田口浩正 今井セシル:足立梨花 波多野 望:伊勢佳世 佐藤百合:曽田茉莉江 青木祥平:松川尚瑠輝 正宗信喜:杉野遥亮 東山:ミスターちん 西田:長江英和 北川:店長松本 坂下梢:麻生かほ里 目黒真一郎:高橋修 本郷大作:鹿賀丈史(特別出演) 亀井さやか:芳本美代子 貝塚八郎:青木崇高 茸原渚音:岸谷五朗

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校閲ボーイが観た『地味にスゴイ!校閲ガール』レビュー

2016年10月5日、日本テレビ系にてスタートした連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』。 話題作への出演が続く女優・石原さとみが、ドラマの題材としてはなじみの薄い「校閲者」を演じることでも話題の本作を、現役の校閲ボーイが校閲者視点から全話レビュー! 『校閲者は小説という「現場」を調査し、証言や状況(≒キャラクターの言動や行動)に整合性がとれているかどうか、徹底的に証拠を洗い出して(≒事実確認を行なって)精査する「鑑識官」みたいなもの』だと語る筆者が、タイトル改変に秘められた意図から作品のテーマまで、校閲者ならではの視点から読み解く。

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