話題作への出演が続く女優・石原さとみが、ドラマの題材としてはなじみの薄い「校閲者」を演じることでも話題の本作。12月7日に放送された最終回では、悦子、幸人、森尾がそれぞれの道を歩み出す。
本記事では実際に新米校閲者として働く筆者が、実際の業務内容の紹介や現場の実情、業界に対する愚痴を交えつつ、前回に引き続きドラマの見どころをレビューする。 文:結城紫雄
どうして校閲者になったんですか?
雑誌『Lassy』での校閲作業が編集長・亀井(芳本美代子)の目にとまり、ファッション誌企画のプレゼンを任された悦子(石原さとみ)。夢のLassy編集部への異動に情熱を燃やす悦子だったが、時を同じくして作家・本郷大作(鹿賀丈史)に盗作疑惑が浮上する。プレゼンの準備に追われつつ、本郷の潔白を証明するため奔走する悦子だったが──。
以上が最終回、10話のあらすじ。開け未来への扉ーっ!
執筆活動による寝不足をたしなめられても、喜々として次回作の構想を語る幸人(画像:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』<日本テレビ系>)
話は変わります。最近ドラマの影響で、筆者も「校閲者」として取材していただくことが何度かありました。あるとき「どうして校閲者になったんですか?」と聞かれ、答えが浮かばず返答に詰まったのですが、ふと思い出したことがあります。筆者は中学生時代、『月刊宝島』(宝島社)という雑誌の企画「VOW」の愛読者でした。
単行本『VOW』(左)と、ネタが掲載されたときにもらった靴下(右)
誤植でキャッキャと喜んでいた自分が、十数年後に血眼で誤植を探すサイドになるとは因果なものです。
本郷大作、盗作疑惑?
盗作疑惑を晴らすため、校閲作業を洗い出す悦子たち(画像:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』<日本テレビ系>)
しかし、本郷作品の初校が校閲部に届いたのは、Web小説が公開されるより前のこと。つまり、「ゲラが何者かに持ち出され、内容がコピーされて、出版前にWebにアップロードされたのでは」と推理する校閲部メンバー。Web上の小説と本郷の作品との「突き合わせ(照合)」を行ない、「初校・再校・念校のどの時点のゲラが盗作されているのか」を探ります。
解決の決め手は藤岩(江口のりこ)の「事実確認」(画像:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』<日本テレビ系>)
態度を硬化させる本郷に一度は引き下がる貝塚。しかし本郷はひとり密かに、目星をつけていた作家志望の友人・岩崎(本田博太郎)宅を訪れます。本郷の姿を見てすべてを悟った岩崎は、「順風満帆なお前な人生に、何かしらの汚点を残してやりたくなったんだ」と告白。
画像:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)
作家という華々しい職業に就き、一見順風満帆に見える本郷。しかしそんな自分でさえ、ひとつの夢のために諦めたものがあると本郷は告げます。ここまでご覧になった視聴者の方は、本郷が当初目指していた純文学では芽が出ず、「エロミス」で新境地を開拓したことを思い出した人もいるでしょう。「夢が叶わなかった」って言ったな? お前、結婚式で泣きながら言ったよな、「家族を持つことが夢だった」って。夢はいくつあってもいい。全部いっぺんに叶えようなんて、虫がよすぎる。俺は仕事を手に入れた代わりに、家族を犠牲にした。今必死にそれを取り戻そうとしている。『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』10話 本郷の台詞より
それを聞いた悦子も「全部いっぺんに手に入れようなんて虫がよすぎるのかも」と、校閲業務とLassy異動の間で揺れる自分の心境を見つめ直すのでした。
「俺が大学を卒業できたのは、お前が……ボツにした論文を……ま、勝手に……拝借して出したからだよ///」(本郷の台詞より/画像:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』<日本テレビ系>)
ドラマで頻出した「ゲラ」の語源は意外にも
再び話は変わります。ほとんどの視聴者の方は、本ドラマで「ゲラ」という言葉を初めて知ったのではないでしょうか。筆者も校閲事務所に入社して初めて知りました。ガレー(画像:物書堂『大辞林』)
そしてまだ書籍が活版印刷で作られていた時代、活字を並べた木枠を船に見立てて「ガレー」と呼んでいました。これが変化したものが「ゲラ」。なんとも風流なネーミングですね。 本とは(改めて例えるまでもなく)文字通り、幾千もの文字たちを乗せ大海原に挑む「船」としての役割を古来より担っていたということがわかります。
作家や編集者が「ガレー船に乗って勇ましく戦う戦士」だとするならば、校閲は戦史に刻まれることなくせっせとオールを動かす漕ぎ手のようなものでしょうか。
河野悦子は編集ガールになれたのか?
プレゼン期限が迫り、「私の企画書を代わりに提出して」と詰め寄る森尾(画像:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』<日本テレビ系>)
実は、ファッション誌編集部への異動話は森尾と悦子の早とちりで、悦子は今まで通り“地味な”校閲部で働くことに。浮かれていないで「事実確認」をしておくべきでしたね。
執筆作業の疲れから、モデルの仕事をすっぽかしてしまった幸人。森尾はプロ意識のなさを叱りながらも、作家一本に注力するよう背中を押す(画像:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』<日本テレビ系>)
ちなみに文芸編集・貝塚はブログ本からエロミス、ノンフィクションに児童向け雑誌と、なんでも担当しているので、地味にめちゃくちゃ敏腕だと思われます。
“地味にスゴイ”職業は、番組公式サイトでも紹介されている。いずれも実はドラマに関わっている人たちだ(画像:WEB『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子|日本テレビ』スクリーンショット)
地味な「校閲」という職業をテーマに、「与えられた環境で、いかに楽しくポジティブに生き抜くか」を、さまざまなキャラクターを通して描き出した全10回。堂々の大団円にて完結です。
「悦」が使われる単語の大多数は「よろこぶ」という意が含まれるが、文章が華麗なさまを表す「悦沢(澤)」という言葉も(画像:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』<日本テレビ系>)
読者の方々、そして本連載のため尽力してくださったすべての“地味にスゴイ!”人たちへ、感謝をこめて。
今週の校正ギア!
鉛筆削り「TSUNAGO」(中島重久堂 / 税込1,620円)ジョイント部の境目がおわかりいただけるだろうか

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放送情報
地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子(放送終了)
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- 放送終了
- 放送
- 日本テレビ系列
- 原作
- 宮木あや子「校閲ガール」シリーズ(KADOKAWA・角川文庫刊)
- 脚本
- 中谷まゆみ/川﨑いづみ
- 音楽
- 大間々昂
- チーフプロデューサー
- 西憲彦
- プロデューサー
- 小田玲奈/森雅弘/岡田和則(光和インターナショナル)
- 演出
- 佐藤東弥/小室直子 ほか
- 制作協力
- 光和インターナショナル
- 製作著作
- 日本テレビ
関連リンク
連載
2016年10月5日、日本テレビ系にてスタートした連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』。 話題作への出演が続く女優・石原さとみが、ドラマの題材としてはなじみの薄い「校閲者」を演じることでも話題の本作を、現役の校閲ボーイが校閲者視点から全話レビュー! 『校閲者は小説という「現場」を調査し、証言や状況(≒キャラクターの言動や行動)に整合性がとれているかどうか、徹底的に証拠を洗い出して(≒事実確認を行なって)精査する「鑑識官」みたいなもの』だと語る筆者が、タイトル改変に秘められた意図から作品のテーマまで、校閲者ならではの視点から読み解く。
1件のコメント
ねりまちゃん
毎週めちゃめちゃおもしろかったです!