連載 | #5 校閲ボーイが観た『地味にスゴイ!校閲ガール』レビュー

そのサイト、本当に信じられる?『地味にスゴイ!校閲ガール』4話レビュー

そのサイト、本当に信じられる?『地味にスゴイ!校閲ガール』4話レビュー
そのサイト、本当に信じられる?『地味にスゴイ!校閲ガール』4話レビュー

画像:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)

2016年10月から日本テレビ系にてスタートした連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』。

『シン・ゴジラ』はじめ話題作への出演が続く女優・石原さとみが、ドラマの題材としてはなじみの薄い「校閲者」を演じることでも話題の本作。26日に放送された第4話ではまたしても主人公・悦子が暴走、校閲部に波乱を巻き起こした

本記事では実際に新米校閲者として働く筆者が、実際の業務内容の紹介や現場の実情、業界に対する愚痴を交えつつ、前回に引き続きドラマの見どころをレビューする。 文:結城紫雄

ちゃんと見抜ける人でないと(Wikipediaを使うのは)難しい

アワード関係は「受賞」「授賞」「受章」が入り乱れて神経を使うところ。ちなみに12月の授与式が終わるまで「ノーベル文学賞受賞のボブ・ディラン」ではなく「ノーベル文学賞受賞が“決まった”ボブ・ディラン」と書かなければならない(画像:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』<日本テレビ系>)

人気女優・杉本あすか(南沢奈央)の自叙伝の校閲を担当することになった悦子(石原さとみ)。しかし杉本に隠し子がいることがゴシップ誌記者によって明るみに出てしまい、自叙伝は発売中止の危機に陥る。校閲の過程で、杉本が娘に注ぐ愛情の深さを知った悦子は、釈明会見の現場に駆けつけるのだが──!?

珍しく、悦子が作家に呼び出されなかった(際どいシーンはありましたが)第4話。校閲にあたり、作者である女優・杉本あすかのプロフィールをWikipedia(がモデルと思われるWebサイト)で調べる悦子に、校閲部の先輩・藤岩りおん(江口のりこ)はこう忠告します。

インターネットの情報を鵜呑みにするのは危険です。現実問題インターネットをすべて排除しろとは言いませんが、情報が信頼に値するサイトかどうか細心の注意を払うことが必須です。
『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』4話 藤岩の台詞より

本当にそうなんですよねー! 特に筆者は、(2ちゃんねるが生まれた)90年代後半にインターネットと出会ったこともあり、基本「ネットに書いてあることは疑ってみる」というスタンスが抜けません。

ただし現在はインターネットで新聞も読めますし、テレビ番組を見返すことだって可能。ネットが玉石混淆なのは相変わらずですが、以前に比べて「玉」=「信頼に値するサイト」が増えてきた、というのも事実です。正しく使えば、ライターや編集者、そして校閲者の強力な味方になることは間違いありません。

含みをもたせての退場となった記者・山ノ内(山中聡)。『週刊新潮』記者の最終面接に落ちて校閲事務所で働くことになった筆者としては考えさせられるシーン(画像:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』<日本テレビ系>)

特に「Wikipedia」は曲者で(正しい使い方をすれば非常に便利なのですが)、出典が明記されていない記事などは要注意です。例えば下記、プロ野球・広島カープ所属の内野手、菊池涼介選手の記事を見てみましょう。

出典:Webサイト『菊池涼介 - Wikipedia』スクリーンショット(2016年10月26日閲覧)

記事内(画像中央部分)に「ベストナインに5回選ばれるなど」という出典が明記されていない一文がありますが、正しくは6回。ドラフト候補としてピックアップされた時点の選出回数が、訂正されずに残っているものと思われます。

しかしネット上の記事では、いまだ「大学時代に5回のベストナインに輝く」と記載されているものが多数存在します。Wikipediaと同じ間違いを犯すと「ははーんWikiだけ見て書いた記事だな」と勘ぐられることもあるので注意が必要です。

景凡社校閲部にある大量の書籍はなんのため?

右手に『感じる言葉 オノマトペ』『王朝文学入門』が確認できる。いずれも原作となった小説『校閲ガール』を刊行しているKADOKAWAのものだ(画像:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』<日本テレビ系>)

逆に筆者のような新米校閲者からすると、「ネットがない時代の校閲はどうやってたの?」と疑問に思いますが、当然書籍で事実関係を調べていたんだそう。

劇中の校閲部でも、『角川類語新辞典』をはじめとするスタンダードな辞書から、『日本史辞典』や『角川日本陶磁大辞典』、『漆工事典』といったマニアックな事典まで確認できます。

ネットの情報がすべて眉唾ものとは限らない。ネコミミ少女が登場する作品の校閲では、生態の事実確認に大手目薬メーカーWebサイトが役立ったりする(出典:Webサイト『参天製薬』スクリーンショット)

筆者の勤務する校閲事務所でも、各種国語辞典から地図(昔はGoogle マップもありませんでしたから)、時刻表(時刻表トリックをネットなしで校閲すると思うと気が遠くなります)、助数詞を調べるときに使う『数え方の辞典』(鎧は◯領、神様は◯柱などなど)、『差別語辞典』なんてのもあります。

必ずしも「書籍が正しい」「ネットは怪しい」というわけではありませんが、ネット記事と異なり刊行に莫大なコストがかかる書籍は、それだけ手間暇かけられている≒その分信頼に値する、といえなくもないでしょう。

裏を返せば、筆者も書籍に携わっている新米校閲者として「たとえ恋に浮かれていようともひと文字たりとも気を抜けないな」と改めて実感した4話でした。自分の携わった本が、藤岩さんが言うところの「信頼に値する」情報源になる可能性が多分にあるのですから。

筆者も恩を返したい(小並感)。ちなみに、iOS版辞書アプリ『大辞林』には、「小並感」を含む新語も収録されている(画像:連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』<日本テレビ系>)

思い立ったら現地調査という初志貫徹を徹底しつつ、校閲の基礎知識を地道に学び、大きなミスもなかった4話目。

が、無難に業務をこなしつつある悦子の知らないところで、景凡社の同僚・森尾(本田翼)と憧れの折原幸人(菅田将暉)の仲が急展開! 5話以降、こんな複雑な恋模様の中、まともに校閲業務ができるのか。他人事ながら非常に心配です。


本記事では『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』オンエア開始以降、全話にわたってレビュー記事をお届け予定です。本作は毎週水曜22時より、日本テレビ系列にて放送中。

今週の校正ギア!

定規「直尺 ステン 15cm 赤数字入 JIS」(シンワ測定 / 税抜310円) ゲラを読むときに、原稿の行に沿って置き“目が滑らない(単純な誤字を見落とさない)”ようにしたり、袋とじを破くのに使用したりといった使い方がメインです。

よって本来の「定規」として使用することは少ないのですが、本体の端から目盛りが振られているため、細かなものの計測にも便利。ペンギンのマークがキュートです。


参考:『広島ラッキーボーイ菊池の足で4位浮上 - プロ野球ニュース : nikkansports.com』『毎日新聞・校閲グループ (@mainichi_kotoba) | Twitter
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放送情報

地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子

次回放送
2016年11月2日(水)22時〜
放送
日本テレビ系列
原作
宮木あや子「校閲ガール」シリーズ(KADOKAWA・角川文庫刊)
脚本
中谷まゆみ/川﨑いづみ
音楽
大間々昂
チーフプロデューサー
西憲彦
プロデューサー
小田玲奈/森雅弘/岡田和則(光和インターナショナル)
演出
佐藤東弥/小室直子 ほか
制作協力
光和インターナショナル
製作著作
日本テレビ

【キャスト】
河野悦子:石原さとみ 折原幸人:菅田将暉 森尾登代子:本田翼 米岡光男:和田正人 藤岩りおん:江口のりこ 尾田大将:田口浩正 今井セシル:足立梨花 波多野 望:伊勢佳世 佐藤百合:曽田茉莉江 青木祥平:松川尚瑠輝 正宗信喜:杉野遥亮 東山:ミスターちん 西田:長江英和 北川:店長松本 坂下梢:麻生かほ里 目黒真一郎:高橋修 本郷大作:鹿賀丈史(特別出演) 亀井さやか:芳本美代子 貝塚八郎:青木崇高 茸原渚音:岸谷五朗

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校閲ボーイが観た『地味にスゴイ!校閲ガール』レビュー

2016年10月5日、日本テレビ系にてスタートした連続ドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』。 話題作への出演が続く女優・石原さとみが、ドラマの題材としてはなじみの薄い「校閲者」を演じることでも話題の本作を、現役の校閲ボーイが校閲者視点から全話レビュー! 『校閲者は小説という「現場」を調査し、証言や状況(≒キャラクターの言動や行動)に整合性がとれているかどうか、徹底的に証拠を洗い出して(≒事実確認を行なって)精査する「鑑識官」みたいなもの』だと語る筆者が、タイトル改変に秘められた意図から作品のテーマまで、校閲者ならではの視点から読み解く。

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