アダルトビデオ業界が対策に乗り出せなかった原因とは
──アダルトビデオの違法アップロード者が書類送検となるのは、今回が初のケースとなります。これまでも数多くの違法アップロードによる作品がネット上に蔓延している中、なぜ大きな動きはなかったのでしょうか?竹村弁護士 やはり、違法にアップロードされる違法サイトの大多数の運営元が海外であることが大きく関係していると思います。先ほども申しました通り、運営元が海外であると、情報開示請求等の違法アップロードの調査において、多額の費用と時間がかかってしまいます……。
アップロード者の取り締まりを積極的に行う企業がいる一方で、費用や時間の問題から、十分な情報収集と特定につなげられず、泣き寝入りせざるを得ない状況があるのも事実です。
また、アダルトビデオ制作というコンテンツの一般的な特性として、制作に関わる企業が一社ではなく複数にわたることも、情報収集を行う上での障害になっているようにも感じています。
担当者 弊社の場合は、自社で手がけているコンテンツが多く、コンテンツ毎に警察や裁判所などへ権利証明を行うための書類を用意したりと、事務的な手間がかかってくることが負担となっていました。
そうなれば当然、人員の増加や外部の協力を要請することとなり、結局は金銭的な問題※2へとつながってしまうことが多くなります。そのため、アダルトビデオメーカーだけでなく、コンテンツホルダー全体が、金銭的な理由から違法アップロード者への取り締まりを断念しているケースが多く、実際に取り締まった場合の前例がほとんどありませんでした。
つまり、前例もないので、多額の費用を投じて違法アップロード者を取り締まることで、果たしてどこまで大きな効果があるのか──そこが見えづらく、なかなか対策に踏み切ることができなかったのではないかと考えています。
──やはり、金銭的な問題がネックになってくるんですね。
担当者 アダルトビデオでいえば、そもそも違法コンテンツが蔓延している状態でも、一定の売上や利益を計上できてしまっています。これが、アダルトビデオ業界全体の、違法コンテンツに対する危機意識の低下につながってしまい、メーカーがなかなか対策に踏み出さなかった原因の1つになっていたと思います。
しかし、いくら売上を計上できていたとしても、正規に購入していただいている方が違法コンテンツに流れてしまったらどうなるか。将来的には競合他社との価格競争に陥り、コンテンツの価値が下がり、最終的にはコンテンツが死滅してしまう。
そうならないためにも、業界全体のことを考え、時間と費用をかけて対策を行おうという方針を決めて動き出しました。もちろんこれからも、違法行為に対して厳しく対応していきます。
※2 同社が違法行為対策に投資している費用は月間1千万円。年間で1億円を超えている
利益を削ってでも、コンテンツの未来を守るために対策しなければならない
──CAさんは2014年から多額の費用をかけて対策を続けていますが、費用対効果についてはいかがでしょうか?担当者 弊社では、毎月複数の新作を発売しており、過去に発売した作品との単純な比較ができないため、対策の正確な効果は計りかねますが、現状、対策にかけた費用以上に利益を計上することができています。
弊社としては、違法コンテンツの存在を知りつつ放置する行為は、極端に言ってしまうと、自社のコンテンツを捨てることだと考えています。
また、対策を行うことは、単に違法アップロードを撲滅することが目的ではなく、正規にコンテンツを購入していただいている方々に対して、制作側としての真摯な姿勢を見せるという意味合いも大きいです。
違法コンテンツが当たり前になってしまうと、弊社に限らず、コンテンツ自体が消滅してしまいます。端から見れば、先行きのない取り組みに見えるかもしれませんが、現在の利益を削ってでも、コンテンツの未来を守るために対策を続け、違法アップロードを撲滅していかなければなりません。
竹村弁護士 今回の書類送検により、著作権法違反に対してきちんと罰則が科されうること、および民事裁判では多額の損害賠償の請求がなされうると周知される大きなきっかけとなりました。
違法アップロードを行って得た利益がリスクに見合わないという認識が広がり、それが違法アップロードの抑止になるのではないかと、私自身、大きく期待しています。
違法アップロード者が問われる罪
──違法アップロード者は、具体的にどのような罪に問われるのでしょうか?竹村弁護士 違法アップロードは、著作権法119条1項※4に違反することになります。同項は、著作権を侵害する行為を罰する法律。罰則としては、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するという内容になっていて、懲役刑としては窃盗罪と同等ですが、罰金に関しては著作権法侵害のほうが圧倒的に重くされています。
著作権には複製権など、さまざまな権利(支分権)が認められていますが(著作権法21条ないし28条)、違法アップロード者はそれら支分権の1つである同法23条1項の「公衆送信権」を侵害した者として、同法119条1項に違反することになります。
──実際には、示談になるケースも多いとうかがいました。
担当者 謝罪と損害の賠償に応じ、誠実な対応をしてくだされば、和解に応じることもあります。あくまで目的は違法アップロードの撲滅と損害を補填すること。必ずしも法的措置を取ることが目的ではないため、違法アップロード者を特定した場合は、その方に対して最初に警告※5を行っています。その警告に応じない方に対しては、弁護士を通じて、断固とした法的措置を取らせていただいています。
※4 著作権法は親告罪。著作者が告訴することで、初めて侵害者を処罰することができる
※5 2014年1月から2015年4月の間で、514人に対して個人宅へ弁護士より警告書を送付。うち、40件は示談でまとまり、その合計賠償金額は¥42,282,800にものぼる。残りの示談に応じなかった方については、刑事事件として手続きを進めている
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1件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:3263)
書類送検は逮捕ではない。