連載 | #8 コミックマーケット105特集

「コミケは年寄りだらけは大間違い」代表が噂に反論 コミケに起きた変動とは?

スペース大幅増の冬コミ、変化し続ける対応

──「コミックマーケット105」についてもうかがっていきたいと思います。まずサークルスペース数が前回から5000増の29000スペースと大きく増加しましたが、要因についてはどう考えていますか?

市川孝一 申し込み数が今回で大きく増えた実感はあります。コロナ禍以降の施策として、1サークルで2スペースまで申し込めるようにしていますが、そうした新たな取り組みが認知されてきた結果なのかもしれません。

一方で、最近は夏がものすごく暑いので、冬の方が参加しやすいといった気候的な要因も考えられると思います。

──今回参加サークルに対して「スペース番号に加えてホール名も明記して告知してほしい」とアナウンスされていました。実際、夏コミで10代の参加者に取材した時に「サークルの位置がわかりづらい」という話も聞いていたので、そういった声を反映してのことなのかなとも思いました。

市川孝一 サークルスペースの配置やその番号付けには、いろいろご意見をいただいていますし、今のアルファベットやカタカナを用いた方法に対してブロック数が増えて色々問題もあるのも重々わかっています。

ただ、ビッグサイトに来て何十年とずっと同じように振ってきたやり方なので、ガラッと変えると違う混乱も起こりかねないというのが現状です。

例えば、アルファベットにも大文字と小文字があるので、ブロックが増えたので、小文字も使っています。

「C104」設営日の様子/撮影:コミックマーケット準備会

市川孝一 「大文字のAは東1ホールなのに、小文字のaは東7ホールで、間違えたら全然違うところに行ってしまう」みたいな問題はもちろん把握していますが、今までの東1〜6に振ってきた振り方を全部やり直すのは、それはそれで影響が大きいわけです。

様々な事情を全て勘案するのは難しく、我々としても誰か良い解決策があったら知恵を借りたいくらい。その中での苦肉の策として、自分のスペースを紹介する時にはホール名も入れていただくようにお願いしました。

──課題を抱えつつ、現状の最適解を目指していると。他に「コミックマーケット105」で何か新しい取り組みはありますか?

市川孝一 取り組みというより、そもそも10年ぶりに大晦日に開催しないというのが大きいと思います。

やはり大晦日は参加しづらい面があると思い、曜日の関係なども踏まえながら、30日・31日(月・火)よりは29日・30日(日・月)の方がいいんじゃないかという話になりました。

加えて、企業ブースについては1日目の閉会時間を17時まで延長しています。もともとコロナ禍前は企業ブースの最終日以外の終了時間だけ1時間遅くしていました。

例えばそれで、サークルを巡り終えた方々が、最後に企業ブースを見て帰るという流れもありました。

近年はサークルも企業も同じ時間に終了していて、なおかつ参加者の滞留時間も長くなった関係上、帰りの混雑が集中してしまう課題がありました。

人の流れを分散させる施策としての効果も期待しつつ、企業ブースの閉会時間を延ばしています。

2022年の夏コミ「C100」で入場規制が発生したりんかい線の国際展示場駅/編集部撮影

──確かに、近年は帰りの時間帯が集中しがちで、最寄り駅によっては入場制限が発生するケースもありました。

市川孝一 併せてコスプレエリアの時間も延長しています。1日目は16時30分まで、更衣室も17時30分まで使えるようになりました。

何より長く遊んでもらいたいという思いからですが、冬場はもう暗くなる時間なので、これまでとは雰囲気が異なる写真を撮れるかもしれません。寒さ対策だけは忘れないようにお願いします。

赤ブーと日程重複の夏コミへはどう対応する?

──次回の「コミックマーケット106」についてですが、赤ブーブー通信社主催の「GOOD COMIC CITY 31 大阪」と日程が重複しており、何らかの連携を行うと発表されていました。

市川孝一 本当に両方のイベントに参加されている方々に申し訳なく思っています。会場の都合なので、我々としてもどうしようもなかったというのが正直なところです。

しかも、参加者の方々に加え印刷会社さんなど、関係各所にも大きな負担をかけているのは事実です。

両方に参加しようと考えられているサークルさんの荷物をどう運ぶか、物流をどうするのかが一番の問題になってくると思っています。

過去にも日程が被ったことがあり、その時は企業さんに頑張っていただきましたが、今は状況も異なり、1日あたりの運転時間が規定されている中で物流会社さんたちもかなり厳しい。

同じようにはできないまでも、どうにかできないか──赤ブーさん他と相談しつつ考えているというのが現状です。

コミケ50周年──同人誌即売会という文化の盛り上がり

──「コミックマーケット107」が開催される2025年12月には、いよいよ50周年を迎えますが、大きな節目を前に感じていることはありますか?

市川孝一 50周年なんですけど、コミケの開催期間は東京ビッグサイトの大規模改修工事が決まっているので、その対応が喫緊の課題です。

早めに会場の図面がもらえるようにお願いしているものの、どこが使えてどこが使えないのかを把握して、導線計画を考えなくてはなりません。

──半世紀という節目でも、そればかり考えてはいられない状況ということすね。

市川孝一 思い返すと、直近で大きな節目となった100回目の「コミックマーケット100」もコロナ禍でした。

今回も、工事の関係で使用できるスペースが限られる中で、50周年記念のためにスペースを割き、その分参加サークル数が減ってしまったら本末転倒。

大変な状況ではあるんですが、スタッフの間でも何かできればとは話しています。

──コミケの50周年に加え、2024年はコミティアが40周年、文学フリマは初のビッグサイトで開催と、同人誌即売会周辺でメモリアルな出来事が続いています。そうした全体の盛り上がりはどのようにご覧になっていますか?

市川孝一 同人誌即売会という文化が発展してきた結果だと思っているので、喜ばしい限りです。それぞれのイベントが盛り上がることで、相乗的に参加者が増えていくと思います。

例えば、コミティアでオリジナル作品を描いてきたけど、アニメやゲームにハマって「パロディ作品を描きたいからコミケットに出てみよう」と考える人もいるだろうし、その逆もある。双方に良い効果が生まれるように、これからも頑張っていきたいです。

──これは余談なんですが、そうしたオタク文化に深く関わるコミケットの事務所が秋葉原や池袋などの縁の深い土地ではなく、下北沢にあるのはなぜなんでしょう?

市川孝一 たしかに同じ即売会という意味では、コミティア実行委員会は池袋、博麗神社例大祭の運営は秋葉原(千代田区外神田)なので、意外に感じる人もいるかもしれません。

最初は、当時学生で一番柔軟に動きやすかった米沢嘉博(準備会二代目代表)の家で事務をやっていたのですが、規模が大きくなるにつれて、追っつかなくなり、米沢の住んでいた下北沢界隈で事務所を借りて、そのまま下北沢近辺で続いている形です。

下北沢にあるコミックマーケット準備会の事務所/編集部撮影

──なるほど。非常に属人性の高い決め方だったんですね

市川孝一 以来、米沢もこの地に住んでいたんですが、その後は決してしょっちゅう事務所に来ていたかというとそういうわけではなく……(笑)。

僕らが捕まえようと思っても全然捕まらないし、携帯電話も持ってくれなかったので、連絡がつかないことが多かったんです。

むしろ、本人行きつけの喫茶店を回った方が見つかるなんてこともありました。

今後のコミケ「伝統を守りつつ、新しいものを受け入れて」

──そうした歴史の今後を担う今の新しい世代についてもお聞きしたいです。一般参加者同様、準備会スタッフにも若手が増えているのでしょうか?

市川孝一 そうですね。コロナ禍で続けられなくなってしまう人もいて、一時は少し減少した時期もありました。でも最近、ようやくコロナ禍以前よりスタッフが増え、さらに若いスタッフもたくさん入っています。

まだ経験が少ないスタッフもいるので、皆さんにご迷惑をおかけするかもしれません。それでも我々としては非常に頼もしく思っています。

11月に公開された大塚製薬さんのCMでも、若いスタッフをフィーチャーしていただきました。そういうところからも準備会スタッフに興味を持ってもらえるとありがたいです。

イベント当日に動くスタッフ以外にも、設営や終了後の撤収作業はもちろん、事前の集会や関係各所とのやり取りなど、いろんなところで日々みんなが頑張っています。

コミックマーケット準備会が協力した大塚製薬のCM

──例えば、カタログの表紙を誰に描いてもらうか、といった部分も若手スタッフの意見を聞いたり?

市川孝一 そうです。若いスタッフに推しのイラストレーターさんを聞くこともあります。

どんな表現でも受け入れるという理念に基づいて、なるべく間口は広くしたいので、いろんな意見を踏まえて決定しています。

「C104」設営日の様子/撮影:コミックマーケット準備会

──スタッフや参加者をはじめ、各所に新しい世代が加わってきています。次の世代に受け継いでほしいものや、逆に変えてほしい点はありますか?

市川孝一 やはりコミケットの理念──すべての表現者を受け入れ、継続することを目的とした表現の可能性を拡げるための「場」である──はしっかりと受け継いでいってほしいと思っています。

ただ、我々も以前の理念から読みやすく変更を加えたり、その時の問題意識を追加したりもしています。なので、次の世代も理念として普遍的な部分以外は、必要に応じて伝わりやすい形に変更したり、新しいことを足してもいいというか、時代に合わせて受け継いでほしいと思います。

それから、特別に何かを変えてほしいことはないですが、自然と変化していくものだと思うので、“その時”が来たら怖がらずに、伝統を守りながらも、新しいものを受け入れていってほしいです。

※記事初出時、一部記述に誤りがございました。お詫びして訂正いたします。

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イベント情報

コミックマーケット105

開催日
2024年12月29日(日)~30日(月)
サークル
10:30~16:00 (サークル入場時間 8:00~9:30(予定))
企業ブース
10:30~17:00 (1日目のみ・最終日は16:00)
場所
東京ビッグサイト・全ホール

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2件のコメント

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onda

恩田雄多

KAI-YOUの恩田です。コメントありがとうございます。
ご指摘いただきました件、失礼いたしました。
誤解のないよう、先ほど記述を修正いたしました。
ちょっとしたご褒美……気になります!
僕もいつか有志として参加してみたいです。

匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:11852)

1番最後の写真に設営日にあつまった「スタッフ」とありますが、それは一般参加者の有志の方達です。
机や椅子を並べた後にお疲れ様会でちょっとしたご褒美がありますが基本的に無償で参加してくれています。ありがたい事です。