神椿の新鋭「Empty old City」初インタビュー “作品ファースト”は現代で通用するか?

「主人公の感情や世界観のイメージを聞き手に想起させたい」

──では、今回の新曲「Astronomy」のこだわりについて教えてください。

新曲「Astronomy」MV

Neuron 僕は強い音をひとつバーッと鳴らしたりとか、めちゃくちゃ太いベースの音の上に最小限の楽器とボーカルが乗っかっている、みたいな楽器編成の曲も好きだったりするんです。

だけど今回の「Astronomy」は逆に、すごく細い、いるかいないかわからないような繊細な音を重ねて塊にしているのが特徴かなと思っています。

いろんな音を集めて一本の束にしているという点で、オーケストラのような音づくりをしているような感覚です。

──kahocaさんは、歌入れの際に意識した点はありますか?

kahoca 今回の曲に限ったことではなく、Empty old Cityの楽曲全体を通して意識していることなんですが、小さいころに読んだ絵本を大人になって読み返したときのような感覚が味わえるような作品にしたいと思っています。

絵本を大人になってから読み返すと、可愛いイラストや子どもでも読めるようなテキストに隠されていたものに気づいたり、「こんなに深みのあることが書いてあったんだ」みたいに思うことってありませんか?

そうやって、一度聴いただけで楽曲の裏にある主人公の感情や世界観のイメージがすべて伝わる作品ではなく、聴けば聴くほどリスナーの中で解像度が上がっていき、感情が動かされていくような作品をつくりたいんです。

そのために、ストーリーテラーとして、物語を朗読するように歌うことを意識しています。

例えば、悲しい感情を分かりやすく歌声で表現するのではなく、あえて淡々と歌ってみたりだとか。物語の主人公ではないからこそできる表現で、歌に色付けをしています。

KAMITSUBAKI STUDIOに所属するようになって、リスナーの存在を意識するようになったのも関係しているかもしれません。そういう感覚は、最近やっと掴めるようになりました。

──歌の主人公の立場になって、その感情を直接的に表現するのではなく、ということですね。

kahoca 実際にあった例として、Neuronがボーカルディレクションの際「悲しいところは可愛らしい声色でカモフラージュして、一回聴いただけじゃ分からないようにしたい」みたいなことを言ってくれたことがあるのですが、最近はそういった婉曲的なディレクションの意図が掴めるようになってきました。

Neuron  kahocaは、歌詞の意味を捉えてどう表現するかというアプローチをしてくれるんですが、トラックをつくっている僕は、どうしてもボーカルも音として捉えてしまうんですよね。どこにフォーカスするかが違うので、レコーディングのときも考え方や感じ方が正反対になってしまうこともあります。

ただ、それはお互いに得意な部分が違うということなので、kahocaに任せるべきだと思う部分は任せつつ、僕は音楽的な側面を中心にディレクションしてますね。休符を活かすために音符の長さを調節するとか、トラック全体のリズムの構成を説明してそこにボーカルも合わせてもらうようにするとか。

他にも、ここは子どもっぽい雰囲気にしたくて音づくりをしているから、ボーカルも可愛らしい感じにしてほしい、みたいにリクエストをすることもあります。僕は最初から頭の中で楽曲のイメージを固めがちなので、kahocaがいろんな歌い方に挑戦して歩み寄ってくれていますね。

──違う感性を持った同士のユニットだからこその化学反応が生まれているのでしょうか?

Neuron 僕が気がつかない部分をkahocaがこだわってくれるし、逆にもある。お互いを補い合って、楽曲全体のクオリティを高められているのかなと思いますね。

kahoca 本当にその通りで、私も良いバランスでできているなと思います。

──English Ver.の英訳はkahocaさんが担当されていますが、訳す上で意識されたところはありますか?

kahoca 最初のころはNeuronがつくった物語をいかに英語で書き直すかみたいなところにフォーカスしていたんですが、今は聴き心地の良さをいかに出せるかを意識しています。

日本語Ver.と同じくらい解釈の余地や空白を残した上で物語の本質みたいなものを伝えつつ、メロディーやリズムに合う言葉を選ぶというか。日本語Ver.の語感や言葉の響きもなるべく残したり、同じ音でも違う意味にしたり、そういう遊びの要素も取り入れています

──なるほど、本日はありがとうございました。最後に新曲「Astronomy」を聴くリスナーに向けて一言お願いします。

Empty old City

Neuron 「Astronomy」は、三拍子だったり四分の五拍子と四分の六拍子が交互に出てきたり、結構拍子が独特になっていたりと、あまりポップスでは馴染み深くない要素で満たされているんですが──目を閉じて没入できるような音楽をつくれたと思います。

ただサウンドに浸ってもらうだけでもいいですし、歌詞の意味から物語を想像してもらってもきっと楽しい体験をしてもらえるはず。ぜひ音楽に没入できる準備をして、深く味わってもらえらたらと思います

kahoca 細部の細部までこだわりが詰まった作品にできたので、いろんな楽しみ方で聴いてもらいたいです。言葉の響きにもこだわったEnglish Ver.とも比べながらたくさん聴いてみてください。

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作品情報

Empty old city「Astronomy」

作詞・作曲・編曲
Neuron
歌唱
kahoca
ストリングス
釣俊輔
ミックス・エンジニア
NNZN
マスタリング・エンジニア
Takeo Kira(TEAMS Studio)
イラストレーション: konya
ジャケットデザイン・映像ディレクター
kkmfd

関連キーフレーズ

Neuron

コンポーザー/音楽プロデューサー

Empty old Cityのコンポーザー/プロデューサー。ユニットとしての活動に加え、外部アーティストへの楽曲提供も行う。花譜へ「アポカリプスより」「ホワイトブーケ」、明透へ「illumina」、Albemuthへ「Replica」を提供。

kahoca

ボーカル

Empty old Cityのボーカルとして活動。KAMITSUBAKISTUDIOとKazuhide Okaさんがタッグを組んだゲームと音楽のプロジェクト「ANMC」に参加。

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