連載 | #35 KAI-YOU COMIC REVIEW

性欲がエネルギーになる世界──SFアクション漫画『その炎の名は性癖』が打ち出す新機軸

七つの大罪を八つに増やした称される主人公コンビ

1話のラストで、主人公コンビの成人向け漫画家・戌井アキラと強化人間・辰見ハルミが、後に世界中を震撼させる“史上最強最悪なNTR制作ユニット”になることが示唆されている『その炎の名は性癖』。

その所業は、七つの大罪を八つに増やした称されるほど。どんな未来なんだ。本作はまだまだ序盤ですので、2人が大罪人になるまでの過程はわかりません。

しかし、その道程が国家権力や規制との戦いになるのは明白です。1話序盤からNTR作品を巡ってハルミと警官が派手な肉弾戦を繰り広げており、今後もバトル/アクションシーンは豊富に描かれると思われます。

面白いのが、バトルで主役となる強化人間が、前述の「性欲リアクター」によって強くなる点です。

リビドーを開放し、性欲を感じれば感じるほど強くなる。頭の中が性欲で染まれば染まるほど強い。文字にするとめちゃくちゃシュールなのですが、作中のキャラクターたちが、真面目にそこへ向き合うロジックが存在しています。真面目に性を欲している。面白い。

「人の性癖が人の心を打つ」創作における力強いメッセージと……

また、作中には「人の性癖が人の心を打つ」とのセリフがあり、誰に何を言われようとも自分の好きを、創作を信じ貫こうというメッセージ性も感じます。

反面、誰かの信念が生み出した創作に嫌悪を示す者がいることも忘れずに描写しています。創作と規制、エゴと理性、自由と責任など、背反する要素のぶつかり合いも、今後描かれるのでしょう。

リアルでも議題に上がり続ける創作の自由と責任について、性癖やアダルトコンテンツといったセンシティブな題材を扱う本作が、どのような答えを提示するのか。

その点にも注目して、連載を追っていきたいと思います。

1
2
この記事どう思う?

この記事どう思う?

ポップな漫画を紹介! KAI-YOUの漫画レビュー

クトゥルフ系ホラーギャグ『SAN値直葬!闇バイト』がすごい 邪神を弄ぶ“きらら”の異端

クトゥルフ系ホラーギャグ『SAN値直葬!闇バイト』がすごい 邪神を弄ぶ“きらら”の異端

『ご注文はうさぎですか?』や『ぼっち・ざ・ろっく!』を掲載する漫画誌『まんがタイムきららMAX』が、この9月に創刊から20周年を迎えました。吸血鬼に悪魔、亜人にアンドロイド、妖怪に神様と、『まんがタイムきらら』姉妹誌の中でもバラエティに富む作品を掲載してき...

kai-you.net
漫画『路傍のフジイ』が揺さぶる価値観 なぜかときめく、冴えない中年の生き様

漫画『路傍のフジイ』が揺さぶる価値観 なぜかときめく、冴えない中年の生き様

今回は筆者が今一番友達になりたいおじさんを紹介します。年間数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事に沿った漫画を新作・旧作問わず取り上げる連載「漫画百景」。第四十七景目は、鍋倉夫さんによる『路傍のフジイ〜偉大なる凡人からの便り〜』です。これからをさらに盛...

kai-you.net
漫画『ひゃくえむ。』が活写したスポーツの本質 相対するアマチュアリズム/プロフェッショナリズム

漫画『ひゃくえむ。』が活写したスポーツの本質 相対するアマチュアリズム/プロフェッショナリズム

単行本の刊行も危うかった作品が、ついに劇場アニメ化まで上り詰めました。年間数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事に沿った漫画を新作・旧作問わず取り上げる本連載「漫画百景」。第三十九景目は『ひゃくえむ。』です。劇場長編アニメーション化が決まり、2025年に公...

kai-you.net
作家のためならパンツを脱ぐ 「マンガワン」編集者・千代田修平 インタビュー Vol.1.jpg

作家のためならパンツを脱ぐ 「マンガワン」編集者・千代田修平 インタビュー Vol.1

地動説をテーマにした前代未聞の漫画『チ。ー地球の運動についてー』が漫画好きのあいだで絶賛され、ネットを中心に大きな話題になったことは記憶に新しい。その作者である魚豊はかつてデビュー作「ひゃくえむ。」でもSNS上に旋風を巻き起こし、本来予定のなかった単行本刊行を勝ち取った実績を持つ。 地動説というテー…

premium.kai-you.net

関連キーフレーズ

0件のコメント

※非ログインユーザーのコメントは編集部の承認を経て掲載されます。

※コメントの投稿前には利用規約の確認をお願いします。