『ドラゴン娘になりたくないっ!(略称・ドラ娘)』というYouTubeアニメを知っているだろうか?
トレーディングカードゲーム『デュエル・マスターズ』のドラゴンたちを、イラストレーター・さいとうなおきさんが美少女化。彼女たちの高校生活を描く『デュエル・マスターズ』のスピンオフ作品である。
2023年8月に制作発表。同年10月に配信開始され、執筆現在YouTubeのチャンネル登録者数は30万人を突破。
これは、本家『デュエル・マスターズ』の公式YouTubeチャンネル・デュエチューブ(執筆現在約14万人)のダブルスコアにあたる数字。新規層開拓へのプロモーション施策として、明らかに大成功している。
では、その要因は一体何なのだろうか──もちろん様々な理由が挙げられるが、その一つとして、2022年冬に大ヒットしたアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』との共通点が考えられるのではないだろうか。
“陰キャ”が仲間と出会い、青春を送る──『ドラ娘』と『ぼざろ』の共通点
まずは、土台となる『ドラゴン娘になりたくないっ!』のあらすじとメインキャラクターの関係性を見ていこう。
【ストーリー】
舞台は架空の都市・栗茶市の私立桜龍高等学校。中学デビューに失敗し陰キャ生活を送ってきた流星アーシュは、エモくて好ちいJKライフに憧れて入学した!でも、校内ではクリーチャーと呼ばれる怪物が人々に取り憑いて暴走させる怪事件が続いていて…そんな中、校長の策略によって新生徒会長を押し付けられたアーシュは、どさくさに紛れてドラゴンに変身する体になってしまう。「ドラゴンなんてかわちくないし、ドラゴン娘になんかなりたくないですっ!」絶望するアーシュは、同じく校長によってドタバタに巻き込まれた同級生たちを生徒会に勧誘するが…アーシュたちドラ娘生徒会の高校生活、これからどうなっちゃうの〜!?株式会社Plott(YouTubeアニメ『ドラゴン娘になりたくないっ!』の制作・運用)のプレスリリースより
注目したいのは、中心に据えられている流星アーシュ(CV:逢田梨香子さん)が、“中学デビューに失敗”した“陰キャ”として設定されているという点だ。
“友達が欲しい”流星アーシュが、真久間メガ、地封院ギャイ、サーヴァ・K・ゼオス、熊田すずらドラゴン娘たちと出会い、ドラ娘生徒会を結成。
生徒会活動を通し、普通とは異なる青春を謳歌する──これが『ドラゴン娘になりたくないっ!』の大枠のストーリーラインである。
“エモくて好ちいJKライフ”という「青春への憧憬」というテーマが、『ドラゴン娘になりたくないっ!』というコンテンツの軸になっている。
そしてこれは、主人公の屈折具合こそ大きく異なるものの、『ぼっち・ざ・ろっく!』も似たようなことが言える。
誰しもが抱く「青春への憧憬」 その普遍性
『ぼっち・ざ・ろっく!』の主人公である“ぼっちちゃん”こと後藤ひとり(CV:青山吉能さん)は、“極度の人見知りで陰キャ”(外部リンク)である。
他の学生のように友だちができず、勉強も運動もできない。そのコンプレックスへの反動として、彼女はギターに没頭していた(※)。
友だちが一人もいなかった後藤ひとりが、伊地知虹夏、山田リョウ、喜多郁代らと出会い、女子高生バンド・結束バンドを始動。
バンド活動を通じ、普通とは異なる青春を謳歌する──これがTVアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の大枠のストーリーラインである。
『ドラゴン娘になりたくないっ!』と『ぼっち・ざ・ろっく!』は、大枠の物語の構造が(どちらも女子高生がメインキャラクターという点でも)相似している。
流星アーシュが抱く憧れという感情と、後藤ひとりが抱くコンプレックスという感情は、表裏一体だ。
もちろん『ぼっち・ざ・ろっく!』がヒットしたのは、音楽アニメとしてのクオリティの高さが評価されたというのもある。しかし、物語の軸に貫かれている「青春への憧憬」というテーマの普遍性も大きいだろう。
きっと、多くの人が経験している/した現実の青春は、フィクションの中で描かれるような理想の青春とはほど遠い。さらに、コロナ禍という、これまで当たり前に過ごしてきた学生生活さえも、変化を余儀なくされた時代もあった。
そういった背景もあり、誰しも少なからず抱く「青春への憧憬」は強さを増しているのかもしれない。
(※)なお、『ドラゴン娘になりたくないっ!』の流星アーシュは、『ぼっち・ざ・ろっく!』の後藤ひとりとは異なり、「成績優秀な生徒会長」であり「周りから高嶺の花と崇拝」されている。
ショート動画ではより「青春への憧憬」を屈託なく全開に
その上で『ドラゴン娘になりたくないっ!』は、より「青春への憧憬」を全開にしたコンテンツを展開している。
「女子高生あるある」や“エモくて好ちいJKライフ”に関連した豆知識・雑学などを、単発ネタとしてショート動画で取り上げているのだ。
児童誌『月刊コロコロコミック』(小学館)が密接に関わるトレーディングカードゲームのスピンオフ作品だからだろうか。
そういった「青春への憧憬」を刺激するネタが、屈託のないライトな作風で描かれるため、手隙の時間でついつい観てしまう。そんな引力を放っている。
従来の『デュエル・マスターズ』のユーザー層を超え、一般層に向けて、普遍的な「青春への憧憬」を、屈託なく全開に描く──それが、『ドラゴン娘になりたくないっ!』の成功につながっているのではないだろうか。
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