25%と5% 監督とプロデューサーで進捗状況に乖離?
——現状での制作状況は何パーセントくらいでしょう?
栗林和明 僕としては、25%くらいで……(笑)。
野田楓子 マジっすか?!(笑)。
栗林和明 あくまで僕の感覚なので(笑)。みんな的には、5%くらい……?
野田楓子 5%くらいです……。
——……少なくない乖離がありました。
栗林和明 弁解するわけではないですが、完全にゼロベースから携わっている僕としては、世界観や設定が組み上がった時点で結構出来上がったような感覚になっていました(笑)。
野田楓子 まだまだ越えなくちゃいけない山がめっちゃあります!
栗林和明 そうですよね! 具体的には脚本が一通りできて、絵コンテが半分くらい進んでいるという状況ですね。
——そう聞くと25%とはいかずとも、10%くらいにも見えるのですが。
野田楓子 工程だけで見ればきちんと進んでいます。
ただ、新しいチームで新しいものをつくっているので、まだ我々が見えていない課題がたくさん出てくるだろうなと思っているんです。
それに映像のクオリティやそれ以外の部分も含めて、この企画の到達点はもっともっと高いところにあるはずです。それらを踏まえて全体の進行度は5%くらいかなと。
野田楓子 だからと言って、公開への道筋が全く見えてないのかというと、もちろんそんなことはありません。
日々、各セクションがとても素晴らしいものをつくっているし、目指すべきゴールに向けて、参加するクリエイターからたくさんのアイデアが出てきています。
それらに対して、栗林さんは「できない」とは絶対に言いません。全員が一丸となって「もっと面白いこと」を考えてくれるのが、このチームのいいところです。そういう実感もあり、ゴールはまだ遠くにあると思いますが、全く見えてないわけではないという感覚ですね。
——ここまでの話にもありましたが、改めてこの異業種が集まったチームで作品づくりに挑む難しさや面白さはどのように感じられていますか?
野田楓子 良い作品をつくる上では、トライ&エラーを繰り返す時期がものすごく重要だと思っています。だから、プロデューサーとしては「もうトライできません」とはなるべく言いたくありません。
ただ、それを『KILLTUBE』という新たなチーム・制作方法の中で実践しようとすると、そのつど作品にとってベストな形を考え直さないといけない。
加えて、それぞれの共通言語や経験値が異なることで、互いに感じる問題点や懸念点を共有・理解し合うことも意外と難しい。
具体的には、エフェクトの演出について、「そもそも私がなぜこう考えるのか?」「エフェクトとは?」といった、自分が“当たり前”と考えていたところを全部分解して伝えました。
——とてつもなく大変な作業のような気がします。
野田楓子 でも、やってみるとすごく楽しくて、めちゃくちゃ自分の脳みその整理にもなりました!
クリエイターの方々と考え方のギャップを擦り合わせることで、自分の制作としての知見も上がったと思います。それらを一つひとつまとめて議題に上げていくのは大変ですけど、お互いの知識が繋がっていく感覚がすごく面白いですね。
栗林和明 エフェクトの話の時は、野田さんが講義みたいな資料をつくってくださって、僕らもめちゃくちゃ勉強になりました。こういう刺激が日々めちゃくちゃあるのはやはり良い点だと思います。
監督がリアルなお金の話をする意義
——制作プロセスの公開は意義のある取り組みだと思いますが、現状での手応えはいかがでしょう?
栗林和明 そもそもこのプロジェクトは、面白い作品をつくることと同じくらいに「“新しいつくり方”をつくる」という思いが根本にあります。僕らがこの作品を成功させるだけでは意味がありません。
ここから続くいろんな人の可能性をつくらないと価値がないと思って、制作プロセスなどの発信をしているわけですが、手応えは正直まだ全然ないです(笑)。
——作品がまだ世に出てない中では難しい部分もあると。
栗林和明 やはり『KILLTUBE』が世界中の人の心を動かして、初めて新しいつくり方に可能性があることを証明できるので、そのために粛々とやるしかないと思っています。
発信方法の一つとしてYouTubeで動画を公開しているんですが、今のところは再生数も多くありません。そうした動画の意義や意味は10年後くらいに評価される……と思うので、未来のために頑張っています。
栗林和明 このプロジェクトは「いろんな人の力を無限に借りる仕事」だとも思っていて、チームメンバーにもいろいろ教えてもらっているし、いろんな会社のアイデアによって『KILLTUBE』はどんどん育っている実感があります。
それに対する還元ができないのは不均衡だと思いますし、うまく回らなくなっていく要因にもなると思うので、得られた学びは必死に言語化していきたいです。
——意義深い一方で、リアルな裏側の話、特にお金の話には嫌悪感を抱く人もいるのではないでしょうか?
栗林和明 通常なら、監督という立場の人は、お金の話を表立ってしない方がいいとは思います。
でも、やはりこのプロジェクトの目的は、「新しいつくり方」を提示して可能性を広げていくこと。なので、お金の話を切り離すことは絶対にできないと考えました。
栗林和明 これまでも、良い作品なのに、お客さんへの届け方やお金の部分の考え方が足りず、光が当たらなかったことが本当にたくさんあったと思うんです。
だからこそ、嫌われてでもお金周りの話は積極的に発信していかないといけないと思っています。
一番傷ついた反応「代理店っぽい」 Netflixには実写化を打診
——こうした新しい取り組みの数々を、野田さんはどうご覧になっていたんでしょう?
野田楓子 どの取り組みも面白いと思ってます。お金の話もそうですけど、YouTubeコンテンツを自ら企画し、発信する監督には初めて出会いました。
そうした試みが誰かに迷惑をかけるなら話は別ですけどそんなことはない。そこにちゃんと意味と意図があるなら、今までされてこなかった裏側の話も悪いことでは全然ないと思います。
栗林和明 最初はめちゃくちゃ悩んだんですけどね。
これまでも、ものづくりと発信の仕方をセットで考えていると「広告代理店っぽい」って言われることがあって、それが一番傷つくんですが(笑)。
やると決めたからには、根本にある思いを忘れずにやっていきたいと思います。
——作品的にメディアミックスがイメージしやすく、実験の中にもいくつか関連したものがあります。具体的な問い合わせはあるのでしょうか?
栗林和明 ゲーム化やグッズ化の話は少しずつ生まれていますし、想像していなかったような大きな企業からも問い合わせがありました。
ほかにも、e-Sportsキャスターに『KILLTUBE』内の決闘配信を実況してもらうとか、グッズとしてペットボトルキャップをつくるとか、『KILLTUBE』のパチンコとして“キルパチ”をつくるとか。
特に実現したいと思っているのが、リアル『KILLTUBE』。劇中と同じように決闘動画が投稿される動画サイトをつくって、そこでは過去の配信が視聴できる。作品の世界観を現実でもシームレスに体験できるようにしたいんですよ。
『KILLTUBE』という世界で一緒に遊んでほしい
——『KILLTUBE』では現状、アニメ制作会社はチームに加わっていないようですが、KASSENとWACHAJACKと共に立ち上げられたSTUDIO DOTOUがメインで制作を担っているということでしょうか?
栗林和明 そうですね。特に意図しているわけではないんですが、僕らは今までの慣習や業界の垣根を越えて実験することをアイデンティティにしています。
なので、賛同していただけるアニメ制作会社さんがいらっしゃれば、今後チームに加わっていただく可能性もあると思います。
——気が早い話ですが、『KILLTUBE』のあとにもSTUDIO DOTOUとして作品を制作していく構想はあるのでしょうか?(※)
栗林和明 死ぬ気で実験して、その過程や結果をオープンにしていくという約束を果たせる時にDOTOUと名乗りたい。DOTOUと名乗る時はそういうスイッチでやろう。
そう決めているので、まずは『KILLTUBE』をやりきって、その後もっと実験しないと開拓できないような島を見つけたら、また改めてDOTOUとして取り組む可能性はあると思います。
ただ、毎回このテンションでやっていくと本当に大変なので……。
野田楓子 次の世代を育てていかないといけませんからね。
※編注:取材は5月下旬に実施。その後7月に、CHOCOLATE、KASSEN、WACHAJACKの3社は合同で「STUDIO DOTOU」を設立。また、ポニーキャニオンとの業務提携も発表した。
——新しい取り組みの数々とその結晶としての『KILLTUBE』の公開、楽しみにしています。
栗林和明 『KILLTUBE』では、エンターテインメントの新しいつくり方を提示すると同時に、劇場アニメはこの作品世界のプレゼンテーション的な役割としても捉えています。
公開に至る過程も楽しんでもらいたいですが、公開後やその5年後10年後にも、作品がどんどん拡張していくことをぜひ楽しみにしていてください。
栗林和明 とにかく『KILLTUBE』の世界でみんなに遊んでほしい、想像/創造してほしい。制作プロセスの共有なども、すべてはそのために、皆さんに楽しんでもらうための取り組みです。
あと、一つの僕の目標として「スティーブン・スピルバーグに楽しんでもらう」があります。それくらい世界中で面白がってもらいたいので、本当に達成できるか皆さんに見守っていてもらいたいです。
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栗林和明
『KILLTUBE』企画・監督
CHOCOLATE Inc. CCO / プランナー。映像企画を中心として、空間演出、商品開発、統合コミュニケーション設計を担う。JAAAクリエイターオブザイヤー最年少メダリスト。カンヌライオンズ、スパイクスアジア、メディア芸術祭、ACCなど、国内外のアワードで、60以上の受賞。米誌Ad Age「40 under 40(世界で活躍する40歳以下の40人)」選出。様々なエンターテイメントに関わる様々な領域の知恵を越境して、融合させることに可能性を感じ、その新しいつくり方を実践している。
野田楓子
『KILLTUBE』アニメーションプロデューサー
アニメーション制作スタジオを経てCHOCOLATE Inc. に所属。TVシリーズ、劇場作品にてアニメーションプロデューサーを務める。
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