アニメ制作経験者が語るCHOCOLATE「異世界転生した気分」
——『KILLTUBE』の特徴として、非常に個性豊かなスタッフ陣が揃っている点がありますが、率直にどのように選定されたのでしょうか?
栗林和明 大事なのは「視点をどれだけ最大化できるか」ということだと思っています。
たとえば、キャラクター設定で参加していただくARuFaさん。ARuFaさんはアニメの専門家ではないと思いますが、普段の創作を見て、「面白いキャラクター」を常に考えている人なんじゃないか、と勝手に推察してました。
そんな人にキャラクター設定を担当していただくことで、今までとは違った視点でキャラクターをつくることができる。
そのように視点が増えることで、よりベストな回答に繋がると思います。他の領域でも、同じような考え方で一緒につくってもらいたい方々を考えていきました。
——各分野でポジションを築いている“個”が集結している印象ですが、スタッフ選びにあたって何か基準はあったのでしょうか?
栗林和明 基準という意味では、まず「僕らの思想に賛同してくれる」、そして「専門性のある方」がベースになっていると思います。
でも、明確に何かを決めていたというわけではなくて、単純に一緒にものづくりをしてみたい人を誘っていったという感じですね。「一緒に作品をつくったら絶対に面白くなりそう!」みたいな。
——野田さんとしては、この異例な陣容をどう感じられましたか?
野田楓子 最初の頃は、どうしても自分の経験や考え方に当てはめてしまうんですよ。「この人のポジションは、今まで私がやってきた座組だと、たぶんこういうことを担当するのかな?」みたいに。
でも、直接お話させていただいて、実際の制作を進める中で、「実はもっと広い領域でいろんなことができるのかな」というのがどんどん見えてくるのが楽しいですね。
野田楓子 もちろん、スケジュールや予算の問題を考えたり、今までの経験が通じなかったりと、難しい面もあります。同時に、挑戦する楽しさも感じています。
毎日がそんな感じなので、知り合いに「CHOCOLATEに入ってどう?」と聞かれると、「異世界転生した気分」と答えているくらいです(笑)。
脚本家、キャラクターデザイナーらを巻き込んだ混沌──監督は反省
——野田さんの言う通り、これだけ異業種の方々が集まっていると進行もかなり大変なのではないでしょうか?
栗林和明 野田さんに加わってもらう前は本当にカオスでした。如実にカオスになってしまった代表的な事例としては、最初期の実験である「現物ブレスト」ですね。
——現物ブレスト?
栗林和明 いつもは言葉でブレストしているんですが、「何かプロトタイプ(現物)を用意した方が発想が広がるんじゃないか」と思ってやってみたことです。
たとえば、脚本家やキャラクターデザイナー、コンセプトアーティスト、作曲家の方などにも集まっていただいて、一斉に各担当分野のプロトタイプをつくってもらいました。
その際、基本設定として「①2026年まで江戸時代が続いている世界線 ②侍が動画配信者となって決闘している ③身分の低い3人組が成り上がる」という3つを伝えたんです。
——つまり、それぞれが同じ設定を共有しつつも、まずは互いのつくる内容は気にせず制作してもらうと?
栗林和明 そうです。すると、最初に出来上がったプロトタイプを見せ合うことで、シナリオやキャラクターデザインなどそれぞれを調整していくことができました。
仮に、最初の設定に一番合っているものが音楽だった場合、コンセプトアートをそれらに寄せていく、次はストーリーにも音楽やコンセプトアートの要素を落とし込んでみる、そしたらキャラクターも──と、インスパイアの連鎖が起きていきました。
栗林和明 結果的に、この現物ブレストでしか生まれない発想を得ることはできました……が、それぞれを同時に調整するということは、修正したものを再び修正するという作業が無限に続いてしまう。
パイロットフィルムをつくるにあたって、作業をひと段落させるまでに、皆さんに迷惑をかけてしまいました。反省しています。
そういうぐちゃぐちゃになっていた部分を、野田さんに整理してもらったんです。
SF時代劇×動画配信×鎖国が続く日本──が生まれた理由
——『KILLTUBE』はifの歴史を辿った2026年が舞台です。SFや時代劇のテイストに加えて、動画配信や実況といった現代の要素が組み込まれているのがユニークですが、こうした世界観はどう設定されたのでしょうか?
栗林和明 多くの人にとって当たり前の存在と未知の存在との組み合わせには、人をワクワクさせる力があると思っています。例として適しているかはわかりませんが、世界的に人気の『ハリーポッター』も、学校と魔法の組み合わせですよね。
そうした組み合わせの中で、まだ扱われていないものは何かと考えた時に、「動画配信」と「鎖国が続いた世界」という設定から思い浮かんだのが『KILLTUBE』です。
ネット上での動画配信はどんどん身近になっていますし、鎖国が続いていた世界線は個人的に元々興味があった設定です。2つの要素の間に距離があればあるほど組み合わせた時に面白くなると思ったので、今回はこの両者をリンクさせようと思いました。
作品を通して伝えたいことはめちゃくちゃ明確に決めていて、「できない理由は一つもない」ということを主人公が主張し続けます。
——パイロットフィルムを含め、全体のトーンがかなり明るく、多彩な色づかいが印象的です。
栗林和明 コンセプトアートを見てもらったらわかると思うんですが、こういう一目でいろんな情報が飛び込んできて、作品世界に対して想像が膨らむような感覚が好きなんです。
見てもらう人たちにもその感覚を味わってもらうために、色が多めでカオスな雰囲気を意識しているところはあります。
——YouTubeのコメント欄を見るとすでに海外からの反応も多く見られました。
栗林和明 想像以上の反響がありました。こんなに早く海外に届いたのは本当に驚きですね。実際に国別の視聴率を見ても、日本は約25%で、残りは全部海外で、本当にいろんな国の方々に見てもらえました。
ほとんどストーリーが伝わらないような内容だったにもかかわらず、いろいろと感じ取ってもらえて本当に嬉しいです。
——全世界公開を目標とされていますが、具体的な海外へのアプローチは考えられているのでしょうか?
栗林和明 海外といってもどこの国にリーチすべきなのか、そこで受け入れてもらうためにどうすればいいのかなど、アプローチの仕方は今まさに考えているところです。もちろん、海外展開のプロセスも全て公開していく予定です。
ただ海外といっても範囲が広すぎるし、方法としてまだまだ謎な部分があまりにも多い。正しい海外進出の仕方はしっかりノウハウとして持ち帰りたいなと思っています。
VTuberや著名人も出演? 声優キャスティングにおける実験
——謎といえば、発表されたスタッフや実験の中に、声優についての言及がないのが不思議でした。
栗林和明 声優のキャスティングに詳しい方に相談していたんですが、単純にまだ考案中、という理由です。
たとえば、「新しいアドリブの引き出し方を考える」とかはぜひやってみたいんですが、まだ僕の中でベストな形がイメージしきれていなかったので、実験には組み込んでいません。
でも、何もしないというわけではなくて、今後これまでにない切り口でチャレンジできるチャンスも出てくると思うので、そのためにまだ控えているような状況です。
——実験の中に「VTuberの方に出演オファーしてみる」や「嘘みたいな著名人の方に出演オファーしてみる」もありますが、こちらはどのような形での出演をイメージされていますか?
栗林和明 VTuberの方に関しては、劇中キャラクターとしての出演をオファーしたいと考えています。著名人の方については、同じくキャラクターとしての場合もあるでしょうし、声優としてという形も考えています。
もちろん「著名人の人気にあやかってやろう」みたいな安易な声優起用は反発されると思います。一方で、限界突破すれば受け入れてもらえるんじゃないかとも考えていて、たとえばディカプリオを呼んでみるとか……。
——それらを含む「108の実験」。現時点では48個公開されていますが、残りは今どれくらい決まっているのでしょう?
栗林和明 現時点では48個+αが決まっているくらいで、あとはまだ決まっていません。
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栗林和明
『KILLTUBE』企画・監督
CHOCOLATE Inc. CCO / プランナー。映像企画を中心として、空間演出、商品開発、統合コミュニケーション設計を担う。JAAAクリエイターオブザイヤー最年少メダリスト。カンヌライオンズ、スパイクスアジア、メディア芸術祭、ACCなど、国内外のアワードで、60以上の受賞。米誌Ad Age「40 under 40(世界で活躍する40歳以下の40人)」選出。様々なエンターテイメントに関わる様々な領域の知恵を越境して、融合させることに可能性を感じ、その新しいつくり方を実践している。
野田楓子
『KILLTUBE』アニメーションプロデューサー
アニメーション制作スタジオを経てCHOCOLATE Inc. に所属。TVシリーズ、劇場作品にてアニメーションプロデューサーを務める。
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