漫画としての骨子が完成していた序盤
本作は序盤から終盤にかけて、作風が大きく変わっていった漫画です。
序盤は刃と鬼丸のライバル関係を中心にしつつ、カエル男やクモ男など、ユーモアのある造形をした怪人が多数登場するような、コメディタッチな作風でした。
刃が400年に渡り誰にも使えなかった魔剣の主になる王道の展開や、鬼丸が刃に向けて送り出す怪人たちがみんな間抜けだったりする、明るい「スーパー戦隊シリーズ」のような雰囲気があります。
宮本武蔵や佐々木小次郎といった、実在の剣豪も超展開の力技で登場。コミカルさも兼ね備えた彼らの存在は、名脇役として終盤まで作品を支えました(柳生十兵衛をモデルにしたキャラクターや、沖田総司の子孫も出てきます)。
初期から最後まで活躍する大半のキャラクターも出揃っており、漫画としての骨子は初期で完成していたように思います。
ヒロイン・さやかとのロマンスも描かれた中盤
しかし7巻半ばからの中盤にかけては、シリアスさが増していきます。
火や水の能力を剣に付与するアイテムを探す冒険譚や、能力バトルの様相を呈していくバトルシーンの変化は子供心をワクワクさせる一方、刃の流血がより明確に描写されるように。
大切な仲間との別れというシビアなシーンもありました。刃vs鬼丸の関係図に第三勢力が加わる13巻以降は、シリアスさの度合いがさらに加速。
それまで賑やかし役だったヒロイン・さやかの存在感も強くなっていき、刃とのロマンスも本格的な描写が増えていきます。
刃がさやかに告白するシーンのカッコ良さったら最高です!
地球規模から刃個人にまで、物語のスケールを変化させた終盤
また、この辺りからバトルの規模がどんどん人間離れし、空を飛ぶのは当たり前。大技を放てば大地を削り取り、果てには地球を破壊する威力を持つ豪快な必殺技も出てくるようになります。
いわゆるバトル漫画のパワーインフレです。
豪快な技をぶつけ合う超絶怒涛のバトルは、近年の漫画ではあまり見なくなったものですが、少年漫画といえばコレという豪気な展開は、それはそれで魅力的です。
そして、本作が凄いのが、インフレの元になる魔剣を手放さざるをえない展開にして、キャラクターの戦闘能力をリセットしたことです。
身体能力は超人的であるものの、刃をはじめとしたキャラクターを、自然と人間の枠に収め直すことに成功しました。
剣道からはじまり、地球全体を巻き込む戦いを経て、「本当の侍とは、強さとは何か?」と刃が自分の進むべき道を問う。刃のごく個人的な問題に、物語のスケールが収束していくコントロールは絶妙でした。
鬼丸との最後、原点回帰の戦いに熱くなった読者も多いと思います。
昭和~平成の名作が令和にアニメ化されるとどうなる?
『YAIBA』は、真っ直ぐで、腕白で、ちょっと助平で、誰よりも頼りになる主人公・刃のキャラクター。ライバル・鬼丸をはじめとした手強い悪役とのバトル。ギャグにまみれた日常パートと日本中を旅する冒険。ヒロイン・さやかとの淡い恋愛模様……少年漫画の魅力が全部詰まっています。
爽快なラストで最終回を締めたのも印象的で、シリアスな終盤の雰囲気を一変し、最後の最後に童心を思い出させてくれました。
昭和の終わりから平成の初期にかけて、少年漫画の正道を最後まで突っ走った名作です。
青山剛昌さんのシナリオ完全監修で、令和の今“完全アニメ化”すると、本作はどんな作品になるのか? 旧アニメでは描かれなかったかぐや篇の先まで映像化されるのか? 大いに期待して待ちましょう!
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連載
テーマは「漫画を通して社会を知る」。 国内外の情勢、突発的なバズ、アニメ化・ドラマ化、周年記念……。 年間で数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事とリンクする作品を新作・旧作問わず取り上げ、"いま読むべき漫画"や"いま改めて読むと面白い漫画"を紹介します。
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