連載 | #21 漫画百景 いま読むべき漫画たち

漫画『よふかしのうた』は煙に巻く 浮遊する謎が導く最終話の“それから”

キャラクターは全員、“信頼できない語り手”

まず大前提として、『よふかしのうた』で語られる吸血鬼の生態や情報はすべて疑うべきものです。

これは筆者がうがった見方をしているとかではなく、作中の台詞で暗示されています。

「吸血鬼は実のところ吸血鬼についてあまりわからないんだ」「人間だって本当は人間のこと良く知らないでしょ? 頭の良い人が教えてくれたからなんとなく知ってるだけで理解はできていない」出典:コトヤマ『よふかしのうた』5巻収録 44話「あるものが有ること」(83ページ)より

この台詞が示すように、吸血鬼は、吸血鬼についてよく知らない

さらに、「人間だったころの私物」が吸血鬼の弱点とされていましたが、途中でその前提が崩れます。

「そもそもの『人間だったころの私物』という解釈自体に誤りがあるのか…?」出典:コトヤマ『よふかしのうた』14巻収録 136話「行ってきます」(120ページ)より

そんで最も象徴的な台詞が以下です。

「なんか多分とかだろうとかわからないとかおそらくとか結局全部憶測じゃん」出典:コトヤマ『よふかしのうた』11巻収録 104話「絶交」(87〜88ページ)より

そう、結局、吸血鬼に関する生態や情報はすべて憶測の域を出ないのです。ゆえに吸血鬼に言及する時、本作のキャラクターは全員、“信頼できない語り手”となります。

読者に回答を委ねる『よふかしのうた』の作風

作者のコトヤマさんは、あえて吸血鬼の情報をはぐらかすように小出しして、時には複数の解釈ができるように提示してきます。

謎が謎を呼んで、どんどん真理から遠ざかっていく。

星見キクはその最たる例で、探偵さんこと目代キョウコや彼女の父・目代キョウイチとの関係には特に謎が多い。明確な答えを見つけるには情報が足りず、完全に迷宮入りです。

『よふかしのうた』13巻の書影。作中で最も多くの謎を持つ吸血鬼・キク/画像はAmazonから

他方でこのような作風は、読者が様々な解釈をつなぎ合わせて、いろいろと想像を膨らませられる余地が大きいわけです。翻って、読者に回答を委ねてくれているとも言えます。

自分なりの『よふかしのうた』の物語を創出しやすい(言うまでもありませんが、コトヤマさんによる本編へのリスペクトが大前提です!)。

ですのでここからは、筆者なりの、最終話「それから」からの“それから”の物語を想像してみたい。

『よふかしのうた』最終話をおさらい

『よふかしのうた』は最終話で、一緒にいられなくなって別れたコウとナズナの再会で幕を閉じました。

2人が一緒にいられなくなった理由はやや複雑なので仔細を省き、端的に記すと、ナズナがコウを吸血することで、2人とも死ぬ可能性があったからです。

『よふかしのうた』20巻の書影/画像はAmazonから

でも、ナズナはコウへの吸血衝動を抑えきれなくなっていた。だから別れるしかなかった。ナズナがコウへの想いを断ち切るまで会えないはずでした。まあコウが会いに行っちゃったわけですが。そんで、死ぬまで追いかけっこする?と軽口を交わして……その後を想像する余地が大いに残った、味わい深い終幕でした。

なんにせよ、ずっと一緒にいることはできないことを示唆していました。しかし、筆者は、コウとナズナは死ぬまで一緒に添い遂げることができると考えています。

1
2
3
この記事どう思う?

この記事どう思う?

ポップな漫画をもっともっと知る!

原子力少年の憂鬱──『呪術廻戦』虎杖悠仁の末路を、東京都民の私は見届ける義務がある

原子力少年の憂鬱──『呪術廻戦』虎杖悠仁の末路を、東京都民の私は見届ける義務がある

『呪術廻戦』(2018–)の主人公・虎杖悠仁はあまり主人公らしくないな、と感じることがある。あくまで個人的な印象にすぎないと思っていたのだが、試しにインターネットで検索してみると、似たような感想がいくつかヒットする。一部の読者のあいだではある程度共有され...

premium.kai-you.net

関連キーフレーズ

連載

漫画百景 いま読むべき漫画たち

テーマは「漫画を通して社会を知る」。 国内外の情勢、突発的なバズ、アニメ化・ドラマ化、周年記念……。 年間で数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事とリンクする作品を新作・旧作問わず取り上げ、"いま読むべき漫画"や"いま改めて読むと面白い漫画"を紹介します。

0件のコメント

※非ログインユーザーのコメントは編集部の承認を経て掲載されます。

※コメントの投稿前には利用規約の確認をお願いします。