R&Bシンガー/ダンサーの三浦大知さんの最新アルバム『OVER』が2月14日にリリースされました。
先行シングル「Sheep」「能動」「Pixelated World」を含む10曲が収録されています。
本作は2020年代前後のR&Bトレンドを、J-POPに向けて再解釈した曲が勢揃いです。現在の新鮮なポップ・ミュージックのスタイルを、優れた日本語ボーカルと共に聴ける一作になっています。
『球体』の実験性から一転、トレンドに突き進む
前作のアルバム『球体』は実験的な作品だったといえます。
Frank Oceanさんの『Blonde』やMoses Sumneyさんの『Aromanticism』を連想させる、余白が多いテクスチャーに長尺の大曲がラインナップされていて、かつ抽象的なモチーフを歌っていました。
新作『OVER』ではおそらくThe Weekndさんを意識し、よりポピュラーな感覚のR&Bサウンドが駆使されています。ネオンサインが輝くようなシンセサイザーを中心にSF世界を描く「Pixelated World」が代表的です。
もちろんトレンドをなぞるだけでなく、一定の“再解釈”がなされているのがポイントで、その真髄は「能動」と「全開」で示されています。
「能動」は早くも迎えるクライマックスです。
鋭利に刺激するノイズ、すばやく突っ走るラテンダンスビート、分厚く衝動するベースドラムが混じる中、ラップとソウルフルなボーカルが行き渡るダイナミックなパフォーマンス。テミンやNCTのようなK-POP楽曲の接近を思い出させます。
続く「全開」では、流行りのジャージー・クラブにラッパーのKREVAさんとヴァースを取り合いながら迫る速度がスリリング。流行りのダンス・ビートを両者のパフォーマンスで圧倒し、自分の配下に置いています。
近来のヒップホップ/R&BではEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)との融合もよく見られる中、『OVER』もそのトレンドに倣っています。
「好きなだけ」ではなめらかな4拍子のハウスビートが、「ERROR」では攻撃的なジャングルビートが使われ、「Flavor」のフューチャーベース、「Light Speed」のドラムンベースなどを通して確認することができます。
そしてピアノと共に全ボーカルをファルセット(高音)に処理した「Sheep」で『球体』を思い出させる瞬間は、後半で再びメリハリをつける部分でしょう。
オルタナティブR&Bとは──現代ポップ・ミュージックの“トレンド”を率いる
こういった方向性の楽曲は近年、“オルタナティブR&B”という名の傾向(ジャンル)で語られることが増えています。
ポップ・ミュージックの中でも古い歴史を持ちながらも長らく愛されているジャンル、R&Bは常に進化を続けてきました。
2010年代、How to Dress Wellさんらをはじめとして出現したオルタナティブR&Bは、アンビエントやロックの手触りを導入し、メランコリックな表現を行ってきました。
記事の冒頭にも名を挙げたFrank Oceanさん、The WeekndさんなどがオルタナティブR&Bの代表的なアーティストです。彼らを中心とした感性的かつ、間ジャンル的なR&Bがポップ・ミュージックのシーンで大きく流行しています。
三浦大知さんの近作は、それらの世界的なポップ・ミュージック及びR&Bの傾向を、自分の表現として昇華した作品だといえるでしょう。
『球体』は実験的なFrank Oceanさんの音楽に、『OVER』はよりポピュラーなThe Weekndさんの音楽に似た感性を駆使しているように思えます。
三浦大知さんはオルタナティブR&Bが出現するより以前から、長らくR&Bダンサーとして活動してきました。『OVER』ではそのパフォーマンス力を土台に、ポップ・ミュージックのトレンドを自分のものにすることに成功しています。
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2件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:9870)
面白かったです
匿名ハッコウくん(ID:9648)
R&Bの深さを知りました。ありがとうございます。