バンドマンをやっているだけでは売れない時代
──近年は、スマホ上での聴き映えを確保するために、音数少なめ&超低音のアレンジメントが世界的に流行っていますよね。バンド音楽的には逆行していると思うのですが、そこに対抗していくために考えていることがあれば教えてください。池田光 たしかにグローバル的には、カントリー系のリズム隊が出てこない音数の少ない楽曲がすごく流行っていますよね。だけど、日本人に聴き馴染みの良い楽曲とイコールかと考えると、必ずしもそうじゃないと思っていて。
日本人はわかりやすいサビ、聴き取りやすいリズムが好きな人が多いから、バンドの形でも通用していけるのではないかと僕は思っています。メンバーと話し合いながら、今の流行を踏まえつつ、いろいろアレンジしています。 山本武尊 俺は、世界のトレンドには対抗せずに取り入れられればいいなと思っていて。超低音でいうと最近はバスドラの役割をシンセベースでやっている楽曲も多いですけど、アタック感やパッドの取り方が気持ち良いんですよね。だから、バスドラの音程をいじれるように打ち込みにしてみる。
そうやってできることはいろいろ挑戦してみようと。ライブで再現できるかは一旦置いておいて、インパクトのある楽曲をつくるために何をすべきかは、デモの段階でよく話し合っています。
深澤希実 武尊の言うように、バンドサウンドじゃないから流行りを取り入れない、という選択肢はないですね。何でもトライできるならトライしていきたい。
それに流行りのアレンジを取り入れたとしても、光のつくるメロってすごくストレートでキャッチーでわかりやすいから、光が書けば“YENMAっぽい曲”に絶対なるんですよ。だからこそ、私たちもアレンジでいろいろチャレンジできるというのはあります。
山本武尊 本当にそう。光のつくるメロはキャッチーでサビが強いから、それに乗っかって自由につくれる。
池田光 当たり前ですけど、武尊はドラム、希実は鍵盤の知識やスキルが僕より圧倒的にあるから、デモの段階で全振りして任せたいくらい信頼しているのは大きくて。曲づくりにおいても、僕が決め切るのではなく、どんどん2人流にアレンジしてもらえたらなと思っています。
例えば、昨年リリースした「ロン・ロン・ロマンス」では初めてEDMの要素を取り入れたのですが、これは武尊がEDM好きでずっとやってみたいと言っていたから。実際につくってみたらいい感じに仕上がったんですよ。この楽曲がキッカケで、メンバーみんなでもっと流行りの楽曲をどうバンドに取り入れていくかを考えるようになりました。
深澤希実 バンドマンがバンドをやっているだけでは売れない時代になったと思います。若い子はテレビで地上波を見ずにスマホでYouTubeを見ていて、SNSの普及で芸能人という枠がなくなってきた。むしろ、メディアで宣伝してもらわなくても、SNSでお金をかけずに誰でも宣伝ができてしまう。
そんな時代なので、バンドマンだからと曲だけつくって宣伝はメディアに頼りきりではダメだなって。音楽だけで売れる人ももちろんいますけど、私は音楽だけで売れていく才能はないから、TikTokを使って個人の知名度を上げる方向に舵を切ったんです。
池田光 希実が言うように、音楽も頑張りつつTikTokを含めたSNSで知名度を上げる活動も同じくらい頑張っていかないと取り残されちゃうんだろうなと、ここ1年ですごく感じています。
それってシンプルにやることが2倍になるので大変ではあるのですが、楽曲を聴いてもらうためにも楽曲制作以外の部分に力を入れていく。それはバンドのあり方の変化なのかなと思っています。
深澤希実 TikTokで曲がバズっても誰が歌っているかわからないこともあるみたいで。曲は知っているのにアーティストは知らないという人も多いんですよ。逆に考えると個人の知名度を上げて好きになってもらえたら曲も聴いてもらえると思うので、そこは意識し始めた変化ですね。
深澤希実 1人よりも人数が多くなる分だけアイデアが増えるのは、やっぱり強い!
池田光 その通り。曲のデモをつくっているのは僕だけど、2人に助けられることばかり。
山本武尊 個人的には、バンドのステージが面白い。生楽器の演奏ってステージ映えすると思うんですよ。
深澤希実 それは本当にそうだよね!
池田光 バンドはドラムの振動とか感じられるから、ライブ感という意味でも生楽器の演奏ってかなり大きいなと思いますね。
『ぼっち・ざ・ろっく!』ブーム、影響は?
──それでいうと、オンラインで何でも見られる時代でありながら、オフラインのライブの価値ってどこにあるのでしょうか。池田光 今言ったようなライブでしか体感できない音や振動、熱気があると思っていて、オフラインでは体験できないことなんですよ。ただそれって、ライブに来てくれた人にしかわからないので、まずはライブに足を運んでもらって体感してほしいなと思っています。来たら確実に生のライブの良さがわかるから。
山本武尊 特に俺らがライブをするような小さいライブハウスって音圧がかなり強いから、イヤホンで聴いている音と全く違う印象を受けると思うんですよね。TikTokユーザーとかまずは音楽を楽しみたい人たちに、ライブハウスでの生演奏を体感してもらってビックリしてほしい(笑)。
深澤希実 たしかにTikTokを見ている人って、超有名なアーティストのライブなら行ったことはあるけど、いわゆるインディーバンドのライブに行ったことない人も多いと思う。ライブハウスに来る子たちってライブキッズみたいな常連者の人たちばかりで、それ以外はライブハウスを怖いと思っている人たちが多い印象がありますね。
池田光 たしかに、SNSで「ライブハウスって1人で行ってもいいんですか?」と質問が来たことはありますね。そのたびに「友達とか誘って来てくれ!」と言っています。
深澤希実 そういう怖いイメージを崩していきたいよね。
──一方で最近、アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の影響で、聖地である下北沢が音楽ファンとは別の層でにわかに賑わっていますね。
深澤希実 『ぼっち・ざ・ろっく!』、私も観ていました!
山本武尊 「『ぼっち・ざ・ろっく!』観た?」は俺も聞かれたな。『チェンソーマン』の影響で「KICK BACK」叩ける? とか。
池田光 アニメで火がつくことも多いもんね。
山本武尊 10FEETも、映画『スラダン』(『THE FIRST SLAM DUNK』)の影響でまた別の層にも火が点きましたよね。
池田光 それこそ『推しの子』の主題歌の「アイドル」は、グローバルランキングで最近ずっと1位で。あとは、コナンの主題歌であるスピッツの「美しい鰭」がグローバルランキングにいるので、アニメのパワーはすごいなって思いますね。
深澤希実 私は音楽系だと『パリピ孔明』が好きでしたね。号泣しました(笑)。
──アニメによるバンドブームという意味だと、皆さんの世代的には2009年放送の『けいおん!』もどストレートだったのではないでしょうか?
深澤希実 『けいおん!』も大好きです! 当時軽音部でみんな演奏していましたよね。ゆいちゃんの声真似を、ひたすら家で1人で練習していました(笑)。
池田光 『けいおん!』の曲はカバーしたな。わかりやすい派手なギターで楽しかったですね。
深澤希実 『ぼっち・ざ・ろっく!』もそれくらいの盛り上がりらしいですが、ブームが来てから私たちあんまりライブができていないんですよ。実際どうなんだろうね?
池田光 聖地巡礼で下北沢に来る若い人たちはたしかに多いみたい。その一環で、ライブハウスにも行ってみようと思う人が現れてもおかしくないよね。
山本武尊 そうだよね。聖地巡礼ついでに俺らのライブにも足を運んでほしい(笑)。ライブハウス初体験を奪いたいですね!
深澤希実 飲み会に行くくらいの値段で楽しめるからね!
池田光 本当にお酒も飲めますよ!
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