グーテンベルグが「キリストの血」であるワインのかわりにインクを「プレス」した時、活版印刷は産声をあげ、それまでの神に替わる仕組として近代(”規格化された”標準語、ジャーナリズム、教育、ひいては国民そのもの)を生み出したというのはマクルーハンの言ではありますが、そんなものはとうに過去の話。今や保守右派の響きにすら似た印刷(複製)技術否定派(ベンヤミン「そんなんだめだわーオーラないわー」)を反転して印刷で芸術さえ複製しうるとしたウォーホル等ポップアートの右カウンターを超えた情報化時代、もはや「所有」することや「見る」ことすら情報化されてしまった現代の「右クリック(保存)」によって、いまや印刷は「音楽をあてる」「アニメ化する」と同じような「紙に落とし込む」という二次創作やメディアミックスの一つとして理解したほうが腑に落ちてしまう時代です。
現在楽紙館ホールで行われている『和紙道展』はそのような現代的な意義から出発し、現在pixiv等インターネットで人気を博している二人のイラストレーター「げみ」「けーしん」氏を招集し、氏のディスプレイ上で描かれたデータを和紙上に印刷、展示するという試みです。げみ氏のリアルな日本の情景や、けーしん氏のシンプルな曲線、そして言うまでもない二人の描く少女の美しさが、和紙の上に乗ることで独特の光の反射、そしていうまでもなく作品に「触れる」ことが可能になり、気に入った作品は購入可能、という所有を可能にしてくれます。
とはいえ少し苦言がないわけでもなく、今回の印刷形態は箱紙(中サイズ)、掛け軸(大サイズ)という展開をとっているのですが、この大小をそのまま情報の多少と比例して決めてしまったようなところがあり、とくに今回展示された作品の白眉であるけーしん氏の「カラータイツ」(画像右)などはシンプルな絵柄からか箱紙販売をとっているのですが、こういうシンプルさこそ掛け軸で飾るのが和の美しさではなかろうか、などというのは野暮かもしれませんが、もし今からでも可能なら掛け軸販売も行って欲しいという私の勝手な願いであります(これは友人であるC氏も同意してくれました)。とはいえそんなものは小さなこと。是非皆様も紙の質感、そのイラストの美しさに「触れて」来て頂きたいと思います。会期は来月3日まで、京都楽紙館ホールにて開催中。
『和紙道展』
2013/3/19(火)〜4/3(水)
10:30~18:00(月曜休館)
@楽紙舘ホール
京都府京都市中京区泉正寺町331
楽紙館本店4F
075-221-1070
執筆者
神野龍一
https://twitter.com/shen1oong
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