トラディショナルな音が持つポップさ
──クラブミュージックから生音へアプローチされる方は、ハイパーポップの影響もあって、激しいギターの音を入れる印象が強いです。そんな中で、TEMPLIMEでクラブミュージックを通過したKBSNKさんが、Limreでは歪んだギターの少ない爽やかなバンドサウンドで曲づくりをしたのはなぜですか?KBSNK いわゆるハイパーポップ的なものをそのままつくるのは憚られるな、と思ったからです。ハイパーポップもコロナ禍から流行って2年3年経つので、ハイパーポップで多用されている激しいギターの音をそのまま取り入れるというよりは、クリーンギターでやろうかなという気持ちがあります。
──『ロキノンサンセット』がハイパーポップとクリーンギターを往復するみたいな曲だったのも、ハイパーポップを直球でやらないようにしようという意識からでしょうか?
KBSNK そうですね。アルバム全体としてはトラディショナルなポップスをつくろうという意識がありました。『ロキノンサンセット』の最初のデモがハイパーポップすぎたので、なるべくJ-POPに寄せています。
今流行ってる音楽が3年とか経つと古く聴こえてしまうということはどのジャンルでもあると考えているので、ハイパーポップに寄りすぎないようにという気持ちはありました。
KBSNK そうです。小学生ぐらいから聴いてきた音楽がそこら辺でした。自分のメロディーとか詞の感じとかはそういった音楽が軸になっているかもしれません。いつもずっと聴いてて、電子音楽をつくる上でも、この曲のメロディはあの曲、歌詞とかはこの曲、みたいに曲の骨格の部分で参考にしている時はありますね。
あと、Men I Trustとかthe 1975も聴いていました。「なつやすみ’22」という曲は、Men I Trustみたいな曲にしようとして、結果的にはその意図からは離れて生まれた曲です。
TEMPLIMEの新しさと、Limreの普遍性
──逆にTEMPLIMEにおいて、クラブミュージックのフォーマット上で実験を繰り返しているというのは、Limreのマインドとはまたわけているのですか?KBSNK TEMPLIMEはM3で年に2回アルバムを出しているので、その中である意味流行を捉えた曲もやってみたりしています。普遍的というよりは、いろいろ実験して、皆の反応を見てみたいと思っています。
──TEMPLIMEでは毎回M3に出展されていますが、LimreではM3へ出展される予定はありますか?
KBSNK Limreは出ないと思います。もともとLimreを始める上では、締め切りを気にせずに、普遍的なポップスをつくり込む場を用意したいという意識もありました。Limreのアルバムも実は5月にリリースする予定だったんですけど、伸びて伸びて、7月になりました。
──逆にTEMPLIMEだと、時代性を掴んでいくような感覚ということでしょうか?
KBSNK TEMPLIMEの方も長く聴いてくれるならそれに越したことはないというか、一過性にならないものをつくりたいという気持ちはあります。
──KBSNKさんの曲だと、クラブミュージックでもコードがループしなかったり、AメロBメロサビがあったりと、ポップスらしさを感じます。
KBSNK トラックをがっちりつくっているんですけど、歌は重視しています。クラブミュージックとして聴いてくれる人もいるんですけれど、僕の曲をカラオケで歌いたいという意見の人も多かったので、歌は大事にしています。
クラブに頻繁に通っているようなリスナーじゃなくても聴きやすい親しみやすさは意識しています。
Limreは「今までの活動の総集編」
──歌を重視されているということですが、KBSNKさんは特徴的な声をされていますね。KBSNK 通りづらい声だったりするのでミックスの処理は大変でしたが、TEMPLIMEで培った経験の蓄積があったので、ミックスは上手くなったと思います。
──クラブミュージックとバンドでは音の処理も変わってくると思うのですが、その点はいかがですか?
KBSNK サブベースをちゃんと意識してミックスするようになりました。意外と昔の曲を聴いてると、キックの帯域が結構上の方にあってウーファーが鳴らないみたいなことがあったりして、そこはきちんと鳴らすようにしました。
──ドラムも自分で録音されていますよね。
KBSNK そうですね、マイクを立てるところから。スタジオに自分でインターフェースとマイクを持っていって録りました。
──マイクの立て方などは、自分で取得されたんですか。
KBSNK 1回バンドでドラムを録音したときに、スタジオのスタッフの人に教えてもらったことがあって、その経験も活きていますね。
Limreは今までの活動、TEMPLIME以前の活動も活かしながらできた、総集編のような作品です。
「ポップスをつくりたい」KBSNKの見据える未来
──お話をうかがっていると、戦略を立てて音楽活動をされている印象があります。それも、今流行りのものに乗っかるというよりも、少し先を見越して楽曲制作をされているように思えます。KBSNK 普遍的な音楽をつくりたいという気持ちはずっとあります。美味しいけど賞味期限がすぐ終わっちゃうものは良くないと思っていて。
今はサブスクで、80年代の曲もいつでも聴ける状態じゃないですか。今、2022年に出した曲を、2050年に知ったときにどう聴こえるのか、考えたりはします。長く末永く愛される曲をつくりたいという意識です。
──永く愛されるような普遍性を追求する上で、KBSNKさんの言う「ポップスをつくりたい」という意識に繋がるのでしょうか?
KBSNK そうですね。バンドサウンドはもう古典のような印象になっていると思いますが、何周かしてまた新しいと思われるかもしれないというイメージを持っています。
──トラディショナルだからこそもうそれ以上は古びないし、逆に新規性のあるものはどこかのタイミングで1回古びてしまう可能性がある?
KBSNK そうかもしれないと考えています。もしかしたら、また30年したら戻ってくるような気もしますが。
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