批評・考察を拒絶した、藤本タツキの短編作品
これも勝手な解釈だが、藤本タツキさんの短編『ルックバック』『さよなら絵梨』では、そういった読み方は根本的に無粋であり、フィクションはフィクションだからこそ何をしてもいいし、現実以上の美しさを持つことができるということが描かれた。さらに『フツーに聞いてくれ』ではよりストレートに分かりやすく、目の前の表現を過剰に解釈しないで、描いてあることをそのまま受け取ってくれという願いが描かれている。
だからこそ、上記の3作を読んだ時には「藤本タツキさんにとって自分はお呼びじゃないんだな」と思ったし、それでかなりヘコみもした。
藤本タツキ作品についての座談会では、「(僕のような)屈折した自意識をくみ取り、美しく昇華してくれるのが本当にすごいんだ!」とはしゃいでいたが、自分なりに社会のことを勉強していった結果、問題意識ばかりを募らせ、自分とエンターテイメントとの距離が離れていってしまうのは正直かなりキツかった。
そういった葛藤もあり、露悪的なノリをそのままに楽しみ「イェイイェイ」と言っている読者が不真面目に見えることもあったし、「やりやがった…!」「藤本タツキィィィ!」とか奇声を発してSNSでバズっているのは、楽しそうに映ったし、嫉妬すら覚えた。あの、下に見てた相手がすごい奴だったっていうモヤモヤも、雨の中で良いことがあって、ちょっと踊りたくなっちゃうような部分も、他人に見せるような部分じゃないけど、みんな持ってる要素じゃないですか。
そういうみんなが抱えている自意識の傷みたいな部分をああいう形で、インパクトを伴って出されると僕はもう「うおお! 流石俺たちの藤本タツキだぜ!!!」ってなっちゃう。だからこそみんなSNSで拡散するんだろうなって。 【ネタバレ全開】藤本タツキ座談会 『チェンソーマン』『ルックバック』が異常に面白すぎる理由内の自身の発言
加えて、正直な話、今回の話でも読んでいて苦しくなる部分はあった。私は、『タコピーの原罪』について、明らかに虐待を受けている子供を助けようとする大人が登場しないことについて否定的だったタイプだ。児童相談所の存在などが描かれていない、と。
その立場からすると、「コケピー」を保護しようとした教師が生徒に手を出すようなしょうもない人間であり、「正義」は誰かが自分に都合よく事を運ぶための暴力だという今回の描写を見ると、どうしても自分が攻撃されているのかと勘ぐってしまう部分はあった。
流行りに乗れない主人公に、救われた
一方で、今回描かれた第2部の主人公と思われるキャラクター・三鷹アサは、流行りに乗ることができないが、どこかでそれを羨ましく思っているというキャラクターだ。藤本タツキさんの描く作品では、クラスの日陰者的なキャラクターが主人公をつとめることも多い。短編では、上記のように「お呼びじゃないんだな」と思ってしまっていたためあまり感じなかったが、エンタメ性の高い『チェンソーマン』では、三鷹アサは「もしかしたら自分に近いのかもしれない」と思うことができた。
三鷹アサが学校の屋上でパンをかじっているシーンは、自分がもやもやしたものを抱えながらベランダでタバコを吸っているとき、たぶんこういう顔をしてるだろうなと、自分みたいなやつの自意識もくみ取ってくれたのかもしれないと、思わせてくれた。
一方で、自分のようなタイプの人間がこうして勝手に自分を重ね合わせ、勝手な解釈をすることは、藤本タツキさんからしたら非常に迷惑かもしれないという不安はいまだにぬぐえない。
というか多分迷惑なのだろう。だけど、この話を読んだことで、勝手に少し、救われてしまった。
しかし、三鷹アサは1話で死んでしまったし、「戦争の悪魔」にその身体を明け渡した現在、自我があるのかすらわからない。
なんなら特有の露悪的なノリに乗れるかといわれると、正直乗れないような気がしてならない。それでも、勝手に救われてしまったので、勝手に来週も読んでいこうと思う。
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連載
2019年1月より『週刊少年ジャンプ』で第1部が連載、2022年7月より『少年ジャンプ+』で第2部の連載がスタートした漫画『チェンソーマン』。 ダーティーかつスタイリッシュな描写とアクの強いキャラクターを武器に次々とヒット作を生み出していく、さんの代表作です。 2022年10月からはMAPPA制作のTVアニメが放送が決定。「藤本タツキ『チェンソーマン』超特集」では、『チェンソーマン』に魅せられたKAI-YOUの面々が、その魅力を紐解いていきます。
2件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:5737)
倫理的?自分の価値観的の間違いだろ。
匿名ハッコウくん(ID:5736)
自分でも迷惑だってわかってんじゃん。なら何も考えずに楽しく読もうぜい。
少なくとも俺は、毎週の憂鬱な水曜日が楽しみになった。それだけでいいじゃないか。たかが娯楽に、意味や人生を見出して他人より自分が優れていると誤解する明治〜昭和の学生の様なメンタリティだからそんなことで一喜一憂してんだろ。
少なくともこのマンガについては、ただ感想をワイワイ言い合うくらいでいいんじゃないかな?