武井勇樹『60分でわかる!メタバース超入門』
おすすめの3冊のうちの1冊としてピックアップした本である。特徴についてもう少し説明したい。著者の考えるメタバースとは
3次元のインターネット(p10)
どんな本か
初級者におすすめの本。本書は全編にわたってメタバースの基本解説である。見開きで1項目ずつ解説していく形になっている。イラストや図版も豊富でしかもフルカラー。解説は66項目。66項目を全て60分で読破するのは難しそうだが、つまみ読みしやすいつくり方になっているので、興味があるところ、知らないとこだけをかいつまんで読んでいくと良いだろう。
著者の武井勇樹氏は、前述の通り、VR・メタバースの構築支援をやっているXRプロダクト開発企業株式会社SynamonのCOO。メタバース業界の中にはいるが特定のサービスだけに肩入れする必要がない。
さまざまな形のメタバースが盛り上がれば盛り上がるほど良く、ゲームにせよソーシャルVRにせよメタバースが普及すれば得する立場だ。本書の説明の内容についても偏りがなくバランスが取れている。安心して読める。
著者ならではパート
この本には、著者ならではパートはまったくない。メタバースの基本解説に徹している。加藤直人『メタバース さよならアトムの時代』
こちらの本も、おすすめとしてピックアップしたが改めて紹介。著者の考えるメタバースとは
メタバースとは何か? 僕はメタバースとは、人類の描いた夢の生活スタイルのことだと考えている(Kindle 位置No. 6)
どんな本か
この道のプロが書いた、あらゆる人におすすめできる本だ。初心者にもおすすめ。かなりしっかりした説明で熱量がすごい。メタバースについてWebなどで調べてある程度基本的なことはわかっているという人にとっても何か発見がある本。かといって内容が難しいというわけではなく、語り口はやわらかい。入門者がいきなりこの本を読んでも理解できる。著者は通り、前述のtメタバースプラットフォーム「cluster」を手掛ける企業クラスター株式会社の代表取締役である。つまり、本書は今まさにリアルタイムでメタバースプラットフォームを開発し運営している人が書いた本なのである。
clusterではVTuberイベントなどが開催されており、これまでに参加した人の延べ人数は1000万人を超えるそうだ。それらの事業を構想し、開発し、ここまで育ててきた中心人物なのでそもそもメタバースに詳しいし、実体験に基づく解説と、ちょっと未来を見通したコメントには重みがある。
メタバース基本解説パート
1章と2章で、基本的なメタバース解説が行われている。なんとこの1章と2章で本書のページ数の半分が費やされている。事例も豊富だし、記述は非常に詳しい。そして、章ごとに参考文献のリストが掲載されているので、もっと詳しく掘りたい人にとってはありがたい。今回私が読んだメタバース本の中で最も詳しくメタバースの基本について書いてあった。おすすめである。著者ならではパート
3章から最終章の6章までは著者オリジナルな部分。ここからはなかなかトンガッていて楽しい。2章まではclusterについての記述も抑制されており、著者の加藤直人氏も常識人のように思えるが、3章以降はヤバ面白い。著者自身中学生時代ダイナブックを抱えて押し入れの中でプログラミングしていたという。本人は窓がない場所に居ても平気だそうで、ちょっとその辺りは普通の感覚とは違うような気もしないではない。
「第6章 メタバースの未来と日本」では、都市設計も、人間ファーストにこだわらず、メタバースファーストな都市設計というものがあってもいいと主張している。
前述したが、どんな都市かというと「大きな倉庫のすぐ隣に非常に狭い長方形の部屋が敷き詰められているようなイメージ(Kindleの位置No.2,421)」というもの。
「食べることと排泄、医療的なケアを別にすればほとんどの欲望はメタバースで解消されるだろう。身体を動かすことはバーチャルと同期して行うので運動不足とは無縁だ」と著者は主張するが、これってちょっとした牢獄なんじゃないかという気がするのは僕だけだろうか。
未来の話だから、どうなるかわからない。もしかしたら窓のない狭い長方形の部屋でずっとメタバースにいるのが快適という人が大多数で、それが快適という世の中が訪れるかもしれない。にしてもだ。
もう少し、著者独特の興味深い表現を引用してみる。
『ドラえもん』はメタバース時代を先取りした作品(Kindleの位置No.2,564)
どうだろう。興味が湧いてこないだろうか。一体どういう話なのかは、本書を開いて確かめてほしい。人類がめざすべき最終的なメタバースのあり方は、全人類の脳をつなげたものなのかもしれない(Kindleの位置No.1,556)
白辺陽『メタバース 完全初心者への徹底解説』
こちらも、おすすめとしてピックアップしたKindle本である。メタバース解説パート
初心者向けの本。Kindle版のみで紙の本はない。メタバースについての基本的な情報は網羅されている。図版豊富。Kindle Unlimited対応なので、会員の人はまずはこれをさっと読むと良い。横組みでつくりはWebサイトっぽく、リンクが豊富で、それが良い。
リンク先をチェックしながらWeb記事を読むがごとく理解したいという人にはおすすめ。
著者ならではパート
解説に徹しており、特に著者のとんがった主張というものはない。甲斐柱『来たるメタバース: 本質がよくわかるメタバースの入門書』
著者の考えるメタバースとは
著者は、メタバースとは要するにネットゲームの延長線だと捉えているようだ。あくまでネットゲームを起点とした考え方である。「メタバース」とは、「オンライン上の仮想現実空間」です。そう聞いた時、シンプルに「ネットゲームの延長線」と捉えることもできます(Kindle の位置No.500)
また著者はひとつの仮想世界に大勢のプレイヤーが参加する方式のゲームはメタバース的である、としている。「メタバース」の説明を要約すると、次の通りです。
・オンライン上で共有される3DCGの仮想現実空間
・オンライン上に常に存在し、時間が流れている
「共有される」「常に存在する」「時間が流れている」というのがポイントです
(Kindle の位置No.165)
どんな本か
独特な本である。この本をいきなりメタバースの本だと考えて読むと、面食らうだろう。メタバースに関する基本的な解説はあらかた省略されているので、初級者にはおすすめできない。ただ、主張が独特で面白かった。著者は自身を「社交的陰キャ」だと言っている。内向的だが社交的ということだろうか。アニメ版の『ソードアート・オンライン』が大好きとのことで、MMORPGもメタバースだとしている。
本書で登場する「来たるメタバース」という言葉は、メタバースが変革して訪れる未来のことを指している。言い換えれば「未来のメタバース」ということだろう。
著者ならではパート
著者の主張は「仮想現実は陰キャ向きのはずなのだが、よく考えたら陰キャにとって良いことばかりとは限らない」というものだ。かなり独特な主張である。著者は、メタバースとはオンラインゲームの延長線とする。そして、その世界に多数の人々が流れ込んでくるとコミュニケーションも活発となるだろうと推測。そうなると結局今の現実世界並みのコミュニケーションが必要となり、結局陰キャにとっては居づらい空間になるのではないかと考えている。
さらに悪いことには、現実世界でも引き続きコミュニケーションする必要がある上にメタバースでもコミュニケーションする必要があるわけで、コミュニケーションを2箇所でおこなう必要がある。もしメタバースで架空の設定をつくっていたとしたら、もっとコミュニケーションが大変になるのではないかと指摘する。
「SAO」のような仮想現実世界は、思ったよりも早く訪れるかもしれないのだ…(「SAO」は要するに、「仮想現実世界を舞台にしたバトルアニメ」です)そして、更に思いを巡らせたとき、改めて、気付く。「陰キャ」向きのハズの仮想現実世界の未来が「陰キャ」にとって明るい未来とは限らないということに…(Kindle の位置No.106、SAOとはソードアート・オンラインのこと)
株式会社往来『メタバースの歩き方』
著者の考えるメタバースとは
ヘッドマウントディスプレイを装着して覗いた先に、もう一つのインターネットが、もう一つの社会が広がっている―。そんなSFやアニメのような世界が現実となりつつあります。それが「メタバース」です。(Kindleの位置 No.32)
どんな本か
VRChatなどメタバース関連サービスの「はじめ方」がひとつずつ解説されているのが他書にない部分。また、VRChatユーザーがアバター姿で登場するインタビューが掲載されており、ソーシャルVRの楽しみ方を垣間見ることができる。Daniel Patterson『【超入門】メタバースの教科書』
著者の考えるメタバースとは
前述の通り、現在の版では削除済み。映画「トップガン」が表現していること。(Kindle の位置 No.60)
どんな本か
自動翻訳本だろうか。非常に読みにくい。だいたい全部のメタバース本紹介はスプレッドシートで
前述の通り、すごい量なのでこの記事に収まりきれなかったメタバース本は、スプレッドシートに掲載しておいた。お時間あればそちらも参考にしてほしい。それぞれの本の「メタバースとは?」が一覧できる。
スプレッドシート「メタバース本だいたい全部読んだリスト」を読む
メタバース関連ニュースの面白さを判断できるようになろう
メタバース関連のニュースは、すでに非常の多くのメディアで扱われているし、これからもどんどん流れてくるだろう。今のうちにメタバース本を読んでおくと、これらのニュースの内容がスッと頭に入るようになる。そしてどれがエキサイティングな話題で、どれがつまらない話なのか、ピンと来るようになる。すごいニュースを目にした時の感動も増幅されることだろう。
メタバースのような盛り上がった最新技術に関して、冷めた態度をとる人もいるが、自分なりのアンテナを張って楽しんだ方が良いと思う。
どうせ目に耳に飛び込んでくるなら楽しんだほうがよいし、そうすることで、危ない話もちゃんと判断できるようになるからだ。
最後に
メタバースの世界は、今はまだ何が成功するか誰もわかっていない状態。だからそれぞれがメタバースについて想像しながら語り合っている。始まりはゲームにせよ、コミュニケーションサービスにせよイベントにせよ、最終的にユーザーを多数集めたサービスが、メタバースの中心地となっていく。
そう考えると、VRヘッドセット「Meta Quest 2」というデバイスやソーシャルVR「Horizon World」、そしてVRゲームを始めとしたVRアプリのストアを持っているMeta社(旧Facebook)は非常に良いポジションにあると言えるだろう。
そしてやはり注目は、『フォートナイト』を運営しUnreal Engineという3D制作プラットフォームを開発するEpic Gamesである。『フォートナイト』の3億5000万アカウントという圧倒的なユーザー数を背景にゲーム・イベントのみではなく3DCGを使ったコミュニケーションプラットフォーム、そして最終的にはソーシャルVRにまで拡大してくるのではないかと考えられる。
しかし、もしかしたらもしかしたら……今言われているメタバースの定義とは違うサービスに人が集まり、それこそがまさにメタバースと言われる未来になるかもしれない。
メタバースという乗り物がどのような形をしていて、どのような人たちを乗せることになるのか、まだわからないのだ。
ぜひ気になったメタバース本を読んで、あなたもメタバースの未来に想像力をたくましくしてほしい。
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ふかみん(深水英一郎)
笹舟にちょうどよい笹があり見とれていて橋から川へ落ちたことがあります | 詩や短歌をつくっています | 基本いつでものんきです | シュークリームが大好き
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