全メタバース本一気レビュー(本の特徴とメタバース観まとめ)
ここから先は、メタバース本ごとの特徴についてまとめていく。また、それぞれの著者の「メタバース観」についても整理してみた。紙の本は網羅した。Kindle本は数が多く、記事内で全30冊レビューは掲載できなかったため、スプレッドシートにまとめるのみとしたものもある。
なお、この記事を書いたのは2022年5月上旬なので、それまでに発売された本を対象としている。それ以降に発売された本については、読めばスプレッドシートに追記しようと思う。
岡嶋裕史『メタバースとは何か ネット上の「もう一つの世界」』
著者の考えるメタバースとは
岡嶋氏は、現実世界を模してつくったミラーワールドはあくまで疑似現実であって、別の世界をつくるべきメタバースとは違うものだと主張している。現実がつらくてメタバースで過ごしたいわけだから、メタバースは現実とは別モノの心地よい空間であることが必要、ということのようだ。「現実とは少し異なる理で作られ、自分にとって都合がいい快適な世界」(「プロローグ メタバースとは何か?」-「現実とは違う「もう一つの世界」=メタバース」Kindleの位置No.279)
メタバースは仮想現実なので、現実ばなれ(リアルばなれ)した「都合のいい世界」を作ることができる。私はこれがメタバースの本質だろうと考える。メタバースの定義を議論するときに、VRか否か、アバターのあるなしなどがよく俎上に載るが、これらは「都合のいい世界」を作るための要素技術だ(Kindle の位置No.295)
どんな本か
メタバースが話題沸騰し始める初期の段階で、既に新書として出版されていた。サブカル愛が強めの本。メタバースについての基本解説はすっ飛ばして、いきなり濃い話から始まる。入門者の方は他書でメタバースの基本解説を読んでからこの本を読むのが正しいだろう。著者ならではパート
著者の岡嶋裕史氏は、つらい現実から逃れるための心地よいもう一つの世界がメタバースだと言っている。プロローグに、そういう考えに至った理由が書いてあって面白い。
最もメタバースに近いサービスはゲーム『フォートナイト』(Fortnite)だとし、まずゲームとアニメ、ラノベといったサブカルチャーからメタバースを紐解いている。
岡嶋裕史氏は、現実世界が辛くなった理由は、たくさんの自由を獲得したからなのだ、と述べる。
そういうつらい現実から隔離されて、いいところだけ見てすごすことができる心地よい世界がメタバースだ、というのが著者の指摘だ。興味が湧いた人は本書を読んでみてほしい。自由を獲得すると、もれなく責任がついてくる。能力や資源に恵まれた人はいいのだけれど、そうでない人にとっては自由はけっこうしんどい。自由平等と何の気なしに言うが、自由と平等は食い合わせが悪い。自由にすると差が生じ、平等を推し進めると自由でなくなる。(Kindleの位置No.315)
國光宏尚『メタバースとWeb3』
著者の考えるメタバースとは
既にあったものを別名で言い直しているだけですよ、といったところだろうか。VR、AR、MR、XR、ミラー・ワールドのリブランディング(p.57)
どんな本か
Web3の話を中心として、メタバースに関する解説もされている本、という印象。メタバースについてもひととおり解説されているのだが、話があちこち飛んでいて、散漫な印象。口述されたものの書き起こしなのだろうか。読みにくさを感じた。著者の國光宏尚氏は株式会社gumiの創業者で著名人である。現在、ブロックチェーンを活用したクリエイター支援事業をおこなう株式会社フィナンシェとVRゲームを開発している株式会社Thirdverseの代表取締役を務めている実業家である。いまだ第一線で活躍しながら投資家としての顔も持つ。
メタバース基本解説パート
「國光流解釈」でメタバースの解説をおこなう、という試み。立ち位置が明確にされているので読む側も気楽に読める。國光氏は、メタバースビジネスで一発当てたいというのが心の奥底にある人たちの興味や欲望を代表して発言しているのだ、と考えながら読むと理解しやすい。
そういう人たちは次に何が「来る」のかが最大関心事。スマホの次のデバイスはVR/ARが当然「来る」し、それはすなわち「バーチャルファースト」というビッグトレンドの到来を意味する。バーチャルファーストな世の中が到来すれば、メタバースも「来る」のである。
メタバースがどういうものかはともかく、VR/ARを使った多くの人の気持ちを掴むコンテンツを打ち出して、それでアクティブ1億ユーザー以上取れたところが勝てるし、そういうものが最終的にメタバースを名乗れる、という考え方なのだろう。まっこと現実的な考え方だと思う。メタバースの競争に勝つのはVRやARで、おもしろいコンテンツをリリースして月あたりのアクティブユーザー数で1億を握り、プラットフォーム化できたところ(p.29)
著者ならではパート
本書のタイトルは『メタバースとWeb3』で、メタバースの説明に1章使い、残りはおおむねWeb3の話となっている。ページ数でいうとメタバース解説の章は30ページほど。残り約170ページがWeb3の話や、ビジネスの実例紹介となっている。メタバース部分が15%なので、メタバース本と考えるとあっさり目。一言でまとめると、メタバースとWeb3について「國光流解釈」での解説を楽しむ本、ということになるだろうか。普段ビジネス系メディアに触れているビジネスパーソン向きかなと感じた。
バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論』
著者が考えるメタバースとは
「私たちが生きていく、デジタル世界の新しい宇宙」「言わば神を目指す試み」(p.015)
どんな本か
「VRChat」といったソーシャルVRを知りたい人におすすめな本。ソーシャルVRとは、VR装置を装着した没入体験を伴うアバターを使ったオンライン3次元コミュニケーションサービス。ソーシャルVRこそがメタバースという主張なので、他の書籍と比べてメタバースの捉え方が狭くなっている。ゆえに、メタバースを広く捉えた一般的な解説は省略されている。メタバース入門者は一般的な解説も含んだ本を読んだ後に本書を手に取るのが良いと感じた。メタバースについて基本知識はあり、ソーシャルVRの現在と未来について考えたい人に最適な本と言える。
著者はソーシャルVR原住民であり、ソーシャルVRを活動のフィールドとするVTuber・バーチャル美少女ねむさん。本の中には扇動的でエモい表現が散りばめられており、読んでいるうちに気分が高揚してくる。
現在メタバースで起きている革命は、『サピエンス全史』で有名な歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリのいうところの新たな人類種「ホモ・デウス」への進化の前日譚であるとし、メタバース原住民(=ソーシャルVR原住民)のことを「ホモ・メタバース」と呼びたい、と述べている。ソーシャルVRは必要最低限のメタバースだという立場をとる。
メタバース基本解説パート
著者の考えるメタバースがほぼソーシャルVRであるため、一般的なメタバースについての解説は省かれている。ソーシャルVRは基本VR装置の装着が前提となるためVR装置についての説明は他書より詳しい。
著者ならではパート
冒頭の章で明確に著者なりのメタバースを定義している。これは素晴らしい。しかし明確であるがゆえに、他書と比較するとメタバースの捉え方が狭くなっている。つまり著者が活躍するフィールドであるソーシャルVRの未来形こそがメタバースである、と言ってるように読み取れる。例えば「オンラインゲームはメタバースではない」と明確に言い切っている。
しかし、今はどのサービスも発展途上であり、著者の言うメタバースの条件をクリアしている実際のサービスはまだ存在しない。ソーシャルVRでさえ著者のいうメタバースの要件をすべて満たしているものはないというのが現状なのだ。他の可能性を今から排除する必要ではないのでは、と個人的には感じた。
本書の最大の特徴は「ソーシャルVR国勢調査2021」についての著者の分析を読むことができる点だろう。調査結果については公開されている。本書内にも調査結果が散りばめられている。
「ソーシャルVR国勢調査2021」を読む ソーシャルVR上の恋愛事情や、バーチャルセックスについても触れている。
VR装置をつけた上でのコミュニケーションについては、どのメタバース本より詳しい。
佐藤航陽『世界2.0』
著者の考えるメタバースとは
「神」の民主化(帯)、メタバースというのは世界を創造するという「神の民主化」(p.67)
どんな本か
説明のスタート地点が「なぜこの話をするんだろう?」と思ってしまうぐらい芯の部分から遠いので、話がわかりにくくなってしまっている。読み物としては興味深い部分もあるが、解説書として考えるとわかりづらい。序章にとってつけたようにメタバースの話が詰め込まれているが、全体的にメタバース成分は薄味。メタバースをこれから知ろうという人にはおすすめできない。著者ならではパート
著者は衛星データを用いたデジタルツインの研究開発をおこなう株式会社スペースデータという会社の代表取締役なので、てっきりデジタルツインの話も詳しく書いてあると思ったのだが、ほとんど触れられておらず、肩透かし。第2章以降に展開する「世界の創り方」という話は、正直メタバースから距離感があり、しかも話が難しすぎて僕には理解できなかった。
なお、日経テレ東YouTubeチャンネルの「sokokara?」という動画番組を後日たまたま見たところ、著者の佐藤航陽氏が「メタバースというのは後からつけたテーマ。本当は世界をどう創るかを書こうと思っていた本。ただ、編集者からこれだと売れないなという話になって」と実に正直に語っておられた。
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ふかみん(深水英一郎)
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