ピーナッツくん『Tele倶楽部』制作秘話、全曲解説超ロングインタビュー

ピーナッツくん『Tele倶楽部』全曲解説

ピーナッツっくん『Tele倶楽部』

#1「笑うピーナッツくん」

──ピーナッツくんの楽曲はType Beatの多さも特徴ですが、1曲目の「笑うぴーなっつくん」はnerdwitchkomugichan(ナードウィッチコムギチャン)というビートメーカーの提供になっています。nerdwitchkomugichanは、西口直人としてAge Factoryというロックバンドのベーシストとしても活動されていますね。どこで共同制作するきっかけが生まれたのでしょうか。

ピーナッツくん たしか、ぼくがTwitterのFleetに何かあげたのに反応してくれたのかな。Fleetの投稿って何か反応すると、DMに繋がるじゃないですか。それでTwitterで相互フォローになって。もともとぼくもAge Factoryを知っていて「知ってます!」みたいなやり取りがありました。

nerdwitchkomugichanも「ピーナッツくん好きです」「ビートをつくってるんで、よかったら聴いてください」と曲を送っていただいて。そこから仲良くなっていったナッツ。
Age Factory "Dance all night my friends"
──はじめてnerdwitchkomugichanさんのビートを聴いた時、どう思いましたか。

ピーナッツくん そもそもラップのビートを提供していただくとか、これまでヤギ・ハイレグ以外なかったんで……「いや、どうしよう?」みたいな感じですよ。

いつもビートのストックみたいなのを送っていただいて。「そこから使いたい曲があったら言ってください」みたいな感じなんですよ、毎回。ぼくから「こういう風に作って欲しい」というオファーをかけているわけでもないナッツ。

この曲はDrillというジャンルのビートで。

──最近、ralphさんを筆頭に日本のラッパーの間でも流行の兆しを見せていますね。
ralph - Selfish (Prod. Double Clapperz)
ピーナッツくん そうなんです、そのDrillっぽい感じのビートがめちゃくちゃかっこいいなって思ったんですけど。ピーナッツくんとしてこの攻撃的なビートの上でどんな表現をしようかと。それで、とにかく最近ムカついてることを歌いました。

──1曲目からかなりかましています。

ピーナッツくん ライブでもかませる曲みたいなのを書いたことなかったんで、やってみたナッツ!

──楽曲タイトルにもなってる通り、ビートにはピーナッツくんの笑い声がすごくリフレインされています。この笑い声を使うアイデアはどのようにして出てきたのでしょうか。

ピーナッツくん ぼくは原宿生まれ原宿在住のピーナッツなんですけど、ご主人様(通称・兄ぽこ)は滋賀県に住んでて。滋賀県の人って京都に近い影響か、少し嫌味っぽいんですよ。ご主人様自身は「滋賀県の嫌な部分」って言ってるんですけど。

笑ってるけど内心は冷ややかな目で見てる。そんな「京都バイブス」から生まれた曲ナッツ!

──「だって運動会とオリンピックは違うだろ?」の下りは感動すら覚えました。

ピーナッツくん (笑)。この曲のミックスはやながみゆきさんなんですよ。やながさんがめちゃくちゃ怖い感じにしてくれて。ぼくも初めて聴いた時は怖かったです。

笑い声も、最近は動画では出していなかったから、それもあって不気味な感じに仕上がってくれたと思うナッツ。

#2「School Boy」

──まず、もちひよこさんとピーナッツくんの二人の組み合わせが意外でした。ラップとセリフで構成される印象的な楽曲ですが、どういった観点からもちひよこさんに依頼されたんでしょう。そもそもどういう関係なんですか、ということも改めて聞きたいです。

ピーナッツくん 彼女との本当の関係はそんなに深くは言えないナッツね──プライベートなんで。
ピーナッツくんともちひよこって付き合ってるの?
──失礼しました。

ピーナッツくん この楽曲も#1と同じく「ひみつのMIXTAPE」に収録した曲ですが、まだ全然、その時点ではアルバムをどういう形にしていくか手探りの段階でした。そんな状況だったんですが、もちひよさんなら、こういうこともやってくれるだろ!っていう気持ちでお願いしたんですが、いざ参加してもらったら最高のものができた。

おかげで「School Boy」がアルバムの一つの指針というか、他の楽曲をつくっていく上でのモデルケースにもなったナッツ

──なるほど。これはfeat. もちひよこさんで、合ってるんですかね? それとも「先生」なのか。

ピーナッツくん 皆さんのご想像にお任せしたい部分ではあるんですが、VTuberのもちひよこさんというより、何て言うんだろうな──記号としての「先生」です。

──コンピレーションアルバム『REWIRE』に収録された「Expecto patronum!」でも「先生」というワードが印象的に使われていました。ピーナッツくんにとって、先生という存在が特別な意味合いを持っているのかなと思ったんです。 ピーナッツくん VTuberって学生のキャラが多いですよね。

──確かに、にじさんじとかそうですね。

ピーナッツくん それに加えて、日本のアニメとか漫画自体に、学生や高校生が主人公というのが多いから情景が浮びやすい。ぼくは「先生」って聴くと教室の景色が浮ぶんです。あと「先生」って意外にグローバルなワードじゃないですか。

──アルファベットでよく「Sensei」と表記されますよね。

ピーナッツくん 日本語なのにグローバルな言語になっている「先生」が好きなんです。あと「Expecto patronum!」の「いなくなった先生」っていうのは、みんなにも忘れられない先生がいただろうし、ぼくにも死んでしまった先生というか──人生の先輩みたいな人がいました。その感じを曲に込めてみたナッツ。

#3「風呂フェッショナル」

──この楽曲は前作でいう「グミ超うめぇ」と同じシリーズに位置する曲なのかなと思ったんです。ピーナッツくんのフェイバリットをポップなビートの上で、自由に肩の力を抜いて歌っている感じが素敵です。

ピーナッツくん まさにその通りナッツ! 実はこの曲はアルバムの最後にできた曲で。前作の時も「グミ超うめぇ」が最後にできた曲で。

アルバムの曲がすべて出揃った後に、もう1曲何か欲しいと思って「グミ超うめぇ」をつくって。コンセプトとは少しズレるけど、まあいいかなという位置づけです。今回もそれを意識して「風呂フェッショナル」が生まれたナッツ。

──ピーナッツくん楽曲の多くでミックスに携わっているワニのヤカ(Yaca)さんがラップで参加していますね。

ピーナッツくん これはYacaさんと一緒に曲作りたいなっていう話から入ったナッツ。Yacaさんとぼくの共通点はなんだろうと話し合って。「Yacaさん、ゲームとか好きですか?」とか、いろいろ話してたんですけど、まとまらなくて。

それでぼくが好きなものを書いちゃえと思って。それで風呂でいいやという感じでYacaさんに投げたら、Yacaさんも「実はぼく、毎日2時間お風呂に入るんです」と。「めっちゃ風呂好きじゃん!」って(笑)。奇跡的に「風呂フェッショナル」たちが集いました。
ピーナッツくん - 風呂フェッショナル feat. Yaca
──ピーナッツくんといえばサウナ好きという印象が強いですが、あえて風呂にフォーカスした理由は?

ピーナッツくん サウナは、Yacaさんは好きじゃないだろうし……きっと好きな人も限られてるだろうなと思って……。

Yacaさんは好青年なんです。いや、好青ワニナッツ! ぼくのことを褒めてくれるし! 今作は玉田デニーロさんという方にもミックスで参加してもらっているのですが、彼もYacaさんの音作りには驚いていました。ぼくの曲では本当に欠かせない存在って感じナッツ。Yacaさんのおかげで作品として世に出せています。

#4「My Wife」

──続いて4曲目の「My Wife」です。ぼくが聴いた感じだと、なかなか性的なリリックになっているというか──風俗やキャバクラにドハマリしたピーナッツくんの曲なのかなと。

ピーナッツくん 近い設定です(笑)。

──メロディアスでお互いの掛け合いもハマっていてすごく良い曲なのですが、リリックが過激なので(KMNZ)LIZさん嫌がらなかったのかなと。

ピーナッツくん「計画通りナッツ」

ピーナッツくん それが不思議とLIZちゃん、快く受け入れてくださって、ありがとうございます。

今作の(コンセプトの)補助線というか──ちょっと前までPS4『Cyberpunk 2077』をやってたんです。それで「サイバーパンク、すげえな」と感銘を受けてしまって。そこからサイバーパンク関連のいろんなSF作品を読んだり見たりして、勉強して。

それで「バーチャルと性」の関係はすごくセンセーショナルで重要なトピックなんだなと。バーチャルを考えるのであれば、性の問題は避けて通れない。今回のアルバムはちゃんとそういうのを落とし込みたい、落とし込まないと気が済まなかったナッツ。

──たしかにVTuberというコンテンツもそうですけど、色恋というか、性的な対象として見てる人も少なからずいらっしゃいます。

ピーナッツくん むしろVTuberに対してはそういう風に見ている人のほうが多数なのではないか、と思ってるナッツ。

──実はすごく真面目な曲だったんですね。ピーナッツくん自身の欲求不満をぶつけている楽曲なんじゃないかと考えたぼくが浅はかでした。

ピーナッツくん それも色濃く出てるかもしれないナッツ!

──「二人でジャックイン、宇宙開発」あたりの言葉選びも性的な危なさも感じつつ、SF的な情景も同時に想起させます。

ピーナッツくん 「ジャックイン」とか「没入」とかサイバーパンクでよく使われる用語ですが、何かヤバいことしてる感じを楽しんでいただければ。それにLIZさんが乗っかってくれてるっていう。本当に変な曲ですね。

──基本的にリリックはピーナッツくんが書いて、それをゲストに歌ってもらってる形なのでしょうか。

ピーナッツくん そうナッツ!

──LIZさんもかなりノリノリで歌ってらっしゃいますよね。この楽曲は『Tele倶楽部』の方向性が明確に出ている曲だとも思いました。

ピーナッツくん あまり深く理解しないまま歌ってくれていたらいいですけどね……(笑)。この楽曲は結構早めにフレーズやフロウが出てきて、自信を持ってつくれました。

実は「My Wife」っていうワード自体、ネットスラングで。海外で「Mai Waifu」と表記されるんです。ネットスラングだし、過剰なVTuber感を体現──というか何か主人公を置いて、VTuber的状況を表現できたらなと。

──「楽しみたいならお金払って」というリリックはその点、ストレートです。

ピーナッツくん LIZちゃんが歌ってくれるとは思わなかったナッツ(笑)! LIZさん、本当に声が良いです。可愛いし、歌も本当にうまいと思う。

意外に可愛い声であると同時に、歌も上手い人ってそんなにいないと思っていて。上手いけど「歌い上げる」系になっちゃう人が多いんです。もちろん、それも才能ですけど、可愛さを残したまま、伸びやかな歌声出すというのは相当スキルが高い。LIZちゃん以外にハマらなかった曲かもしれません。
Augmentation (feat. Moe Shop) / KMNZ

#5「messed up!」

──5曲目の「messed up!」。読み方は「メスド・アップ」で合ってますか?

ピーナッツくん messed up!(発音良)

──(笑)。これはMarukidoさんですね。ついにヒップホップシーンにがっつりと身を置くラッパーとも曲をつくるようになったピーナッツくんの新たな一面が見れる重要な曲だと思います。

ピーナッツくん やっぱり今回はラッパーとの曲は絶対入れたいと思っていたナッツ。

とにかくキャラ立ちしてる人を呼びたいというのはあったんですけど、ぼくは単にMarukidoさんのファンで。「Zoomgals」の活動も追っていますし、何かずげえ面白いことやってるなと思っていました。
Zoomgals - GALS feat.大門弥生
ピーナッツくん それで気づいたらMarukidoさんと相互フォローになってる! と思ったらDMで「ピーナッツくん、可愛い!」と──その一文だけ来て「なんだ、なんだ!」と興奮したナッツ。そこでDMはパタリと終わったんですが(笑)。半年ほど前の話ナッツ。

Marukidoさん自体がすごくエログロじゃないですか。

──はい、エログロですね。

ピーナッツくん そのエログロのヒリヒリする感じというか、ラッパーでエログロでリアルな感じがすごく良いなと思ったナッツ

アルバムのコンセプトとして、可愛いとか、バーチャルな部分を重要視して女の子を呼んでいるんですが、同時にリアルな目線も必要というか。女性の中でも実体として存在する人間の言葉が欲しかったんです

──Marukidoさんのリリックは、Marukidoさんが書かれていますもんね。Marukidoさんからリリックが届いた時、どう思いましたか?

ピーナッツくん 普通に面食らいました。制作陣のデニーロさんとYacaさんと、3人で面食らって、あんまり触れずに「このまま行こう」みたいな(笑)。すごいし怖いから、ちょっと、そっと出そうみたいな感じで。

──ピーナッツくんからこういうテーマで書いて欲しいみたいなものは共有していたのでしょうか。

ピーナッツくん 具体的なテーマというよりも、会田誠の《巨大フジ隊員VSキングギドラ》という絵があるじゃないですか。あれを送って、「こんな感じの曲にしたいです」と。

会田誠《巨大フジ隊員VSキングギドラ》1993年 画像は「artscape」より

ピーナッツくん それで「messed up!」──めちゃくちゃという意味です。ぼくは巨大化して、怪獣になって「町を破壊してやる」っていうテンションで歌詞を書きました。この曲は、Marukidoさんを入れたいなという考えから先行してテーマがつくられた感じなんです。

──すごく良い曲になってると思います。VTuberファンがどういう反応するのか、すごい楽しみですね。

#6「zakkyobuilding」

──6曲目にして、待望のチャンチョ曲ですね。チャンチョ曲、待ってました!

ピーナッツくん チャンチョも喜んでると思うナッツ。

──チャンチョのハードボイルドな世界観が高速ラップかつハードなビートで表現されていますね。「zakkyobuilding」というタイトルは、どこからで出てきたワードなのでしょうか。

ピーナッツくん ぽんぽこさんとよく、撮影とかで雑居ビルに行くんです。よくわかんないレンタルスペースを借りたりするんですけど。東京だと撮影場所がないので……。

企業に呼ばれて大きな綺麗なビルにもたまに行くんですけど、すごく統制が取れてて、セキュリティもすごくて威圧感を感じるというか。なんかちゃんとしてんな、と思います。

でも雑居ビルは、タバコの吸殻やゴミが至るところに落ちていて。汚いけど、むしろそれがぼくらにとって少し落ち着くというか──それってつまり、雑居ビルというのはインディペンデントの象徴なんじゃないかなと

ストリートの体現者・チャンチョのぬいぐるみ

──なるほど。

ピーナッツくん 雑居ビルに集まってる人たちって、これからの人たちというか。小さなベンチャー企業とかも入っているじゃないですか。

統制の取れてないカオスな空間として雑居ビルがある。ぼくらはそこでヤバいことをやっているつもりだし、「みんなも頑張ってんな」と思うんです。雑居ビルで働いてるあいつらのことを思ってチャンチョは曲を作ったと言っていたナッツ

──雑居ビルで働いてる人たちに対してのリスペクトソングでもあるんですね。

ピーナッツくん そうですね。

──チャンチョは最近、すごいグレていますよね。

ピーナッツくん そうナッツ(笑)。それでこういうハートボイルドな感じに。この曲も「BAD HOPのBenjazzyを意識した」って言ってました……。これからチャンチョはどうなっていくのか心配ナッツ。

──恐ろしいな、チャンチョ。

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4件のコメント

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onda

恩田雄多

>匿名ハッコウくん(ID:6508)
コメントありがとうございます。KAI-YOU編集部の恩田です。
ご指摘いただいた件、大変失礼いたしました。
先ほど修正いたしました。
今後ともよろしくお願いいたします。

匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:6508)

記事が潰れて読めません

匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:4645)

こういう全曲解説は読みたいと思ってもなかなか読める機会が無いので、踏み込んだ質問をしてくれたKAI-YOUさんと、それに答えてくれたピーナッツくんに心から感謝しています。
何度もアルバムは通して聴いていますが、改めてもう一回聴き直そうと思います!

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