「ニコ動に昔みたいな熱量感じた」新世代ボカロP 柊マグネタイト×higma対談

「ニコ動に昔みたいな熱量感じた」新世代ボカロP 柊マグネタイト×higma対談
「ニコ動に昔みたいな熱量感じた」新世代ボカロP 柊マグネタイト×higma対談

「ボカコレ2021春」新世代ボカロP対談 柊マグネタイト×higma

POPなポイントを3行で

  • ニコ動でのボカロの祭典「ボカコレ」の熱狂
  • 新世代ボカロPが対談 柊マグネタイト×higma
  • ルーキー2人が感じた熱量とニコ動への提案
2020年12月に初開催された「The VOCALOID Collectionボカコレ)」。ネット来場者数にして100万人が参加し、人気クリエイターのプレイリスト公開やStemデータ配布、ルーキーボカロP(デビューから2年以内)に限定したランキングなど、ボカロシーンの裾野の広がりを象徴する企画が話題を呼んだ。

特筆すべきは、ランキングに食い込んだルーキーたちが、地上波番組を含む様々なメディアに出演するなど、きちんと日の目を見ていることだ。

2021年4月24日(土)・25日(日)に開催される第2回「The VOCALOID Collection 2021 Spring(ボカコレ2021春)」を控え、今回は前回ルーキーランキング1位の柊マグネタイトさん、4位のhigmaさんという2人のボカロPによる対談が実現。

柊マグネタイトさん:2020年9月から活動を開始し、これまでに3曲を発表。1曲目「或世界消失」は11分もの長尺で注目を集めた。前回のボカコレでは「終焉逃避行」を投稿してルーキーランキング1位を獲得した。

higmaさん:2019年2月に活動を開始したボカロP。作詞・作曲だけでなく、イラストレーションやデザインも自ら手がけている。前回のボカコレでは「窓辺のモノローグ」でルーキーランキング4位を獲得。学生時代の後輩に人気ボカロPがいるらしい。

それぞれ「終焉逃避行」「窓辺のモノローグ」で“新世代ボカロP”として一気に注目の的となった両者は、「ボカコレ2021春」に楽曲のStemデータ(楽曲データをトラック別にまとめたもの)を提供している。

そんなルーキーの2人に、近年のボカロシーンの印象をはじめ幅広く話を聞いていくと、制作コストの高いMVへの不安、ニコニコ動画への要望、ボカロカルチャーを広げるためのアイデアなど、率直な意見が次々と飛び出した。

取材・文:ヒガキユウカ 編集:恩田雄多

ボカコレが再び起こした熱狂

2人がルーキーランキング入りした「The VOCALOID Collection 2020 Winter(ボカコレ2020冬)」

──前回のボカコレ、参加してみていかがでしたか?

higma ネット上の作品を発表する場が増えたことで、ニコニコ動画から人が分散しちゃった気がしてたんですけど、ボカコレ期間中は昔の熱量をまた感じました。しかも昔は見る側だったので、今回は投稿する側で参加できて嬉しかったですね。

ただ、投稿した後はランキングが気になって、PCの前に異常なくらい張り付いてしまって(笑)。ここは投稿者の中でもタイプが分かれるところだと思うんですけど。マグさん(柊マグネタイト)はランキングチェックしてましたか?

柊マグネタイト 時々は見てたかもしれませんが、僕はむしろ、投稿するまでの方が大変だったんです。

投稿10分前まで「ここのフォントが違う!」みたいな動画の修正をやっていたので、投稿したらもうほっとしちゃって。それでもう「完成したから俺の中では1位だ!」という心境になっていました。でも、何かの大会に参加しているような感覚だったのはわかります。

──最初にボカコレの存在を知ったときの印象を教えてください。

柊マグネタイト 正直、どういうイベントなのかはあんまり想像できなかったんですよね。ただ初めてやるみたいだし、「楽しそうだから一応出てみるか」という感じで。

higma なんかある日突然、Twitterでボカコレのアカウントが誕生したんですよね(笑)。それで情報解禁や告知が続くにつれて、「あ、けっこう大きくやるんだな」っていうのがわかってきました。

手前:higmaさん、奥:柊マグネタイトさん

──主催のドワンゴとしては、リアルのイベントが開催しにくくなっている中で、クリエイターにとってより良いオンラインイベントを模索しているところでもあります。

柊マグネタイト higmaさんも言ってましたけど、ある意味昔に戻ったみたいな感覚はありましたね。昔のニコニコの盛り上がりというか。リアルの良さもありつつ、オンライン上でも楽しめる仕組みがあって。

higma 実際に僕は、ボカコレがきっかけで見てくれる方が増えたんですよね。

柊マグネタイト そうですよね。期間が終わった後も、参加曲の中から埋もれてる名曲を探す人がいたり、ボカコレにフォーカスしてSNSで発信してる人がいたり。

ランキングに入らなかった曲でも、「ボカコレ第1回参加曲」みたいなくくりで見てくれている人がいるんだと思います。

higma ニコ動にしてもボカロカルチャーにしても、オンラインが本来の形ですもんね。ボカロってそれだけでは歌にならないし、作品の中にある状態でしか存在できないから。

そう考えると、作品をつくってネットに投稿するというオンライン上の動きだけでも参加が成り立つ方法は、やっぱり合ってるなと感じました。

11分の曲が評価されたならどんな曲でも許される


higma 僕、マグさんの過去作品もめちゃめちゃ好きなんですけど、いわゆる歌モノからは遠い印象だったんですよね。1曲目の「或世界消失」はAメロ、Bメロ、サビっていう構成でもないし、どちらかというとダンスミュージックっぽい。

2曲目の「旧約汎化街」でちょっとポップになって尺的にも短くなって……それで今回の「終焉逃避行」で一気に歌モノっぽい曲が出てきたから、個人的にもインパクトが大きかったです。

柊マグネタイト ありがとうございます。曲づくりについては、何が流行って、何が売れそうとかは考えずに、完全に自分の自由にやりたいと思ってるんです。

その「自由」や「やりたいこと」の塊が、11分ある「或世界消失」なんですよ。この曲が受け入れられたら、今後どんな曲であっても許されるだろうと考えながらつくってました(笑) higma 僕もボーカロイドは趣味的に始めて、あんまり「再生数を伸ばす」とか「見てくれる人を増やしたい」というよりは、純粋な楽しみとしてやろうとしてたんですよね。その姿勢は今もこれからも崩したくないところです。

もともとバンドをやってた人間なんですけど、打ち込みも好きなので、チャンネル全体で見た場合に、投稿してる曲の傾向が結構バラバラなんですよね。「そろえた方がいい」と言われることもあるんですけど。

柊マグネタイト ブランディングのために、統一感を出した方がいいよっていう話ですよね。

higma そう。でもそんなこと考えて曲をつくりたくないんですよね。そこを意識してばかりだと、結果的に数字にとらわれてしまいそうで。

柊マグネタイト 僕もこれからいろいろな方向の曲をつくっていきたいんですけど、とはいえある程度は統一感を出していかないと、見る側がついていけないかもとは思うんです。音楽でいろいろな表現をやりたいぶん、動画やイラストで統一感を出すのはありかもなと思っています。
──柊さんの「終焉逃避行」は過去作品に続いて瀬奈悠太さんが担当していますが、これは統一感を出す狙いがあって?

柊マグネタイト あ、それは戦略でもなんでもなくて、単純に瀬奈悠太さんの絵がすごく好きなんですよね。むしろ僕も、higmaさんみたいにイラストも描けるのであれば、自分で描きたかったです!

higma (笑)。僕の場合は状況的に自分で描くしかなかったんです。当たり前ですけど最初はフォロワーも0人で、界隈の常識も依頼の仕方もわからない。でも動画にするにはイラストが必要だったので。

──前回のボカコレ出場作品では、イラストレーターの方を起用されていますね。

ボカコレ参加作品の「窓辺のモノローグ」でご一緒したKICOさんとは、もともとTwitterで相互フォローだったんです。

KICOさんが僕の曲を気に入ってくれていたらしく、いつか一緒に作品をつくりたいなと思っていたので、「ボカコレに出す曲を一緒にやってくれませんか」とお願いしました。
──アニメMV、特に「窓辺のモノローグ」のようなループアニメは、同人音楽界隈でかなり勢いづいています。

higma すごいですよね。一方で、クオリティーがかなり高いMVが多いので、それが当たり前になったらどうしようという、ある種の不安もありますね。

僕とKICOさんのときは、友人だからということでご一緒してくれた部分もありますが、本来であればお金にしろ時間にしろ、かなりのコストがかかるものなので。全体的に投稿のハードルが上がってしまうんじゃないかと。

柊マグネタイト 今アニメMVをつくる場合、レベルの高いものを求められている雰囲気はありますよね。

個人的には、アニメーションが難しいなら、無理せず1枚絵のシンプルなかっこよさで勝負してもいいと思います。それで伸びてる人たちもいっぱいいますし。最近は本格的なアニメーションか、1枚絵かで二極化してきていますね。

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