「ニコ動に昔みたいな熱量感じた」新世代ボカロP 柊マグネタイト×higma対談

PCだけで歌モノがつくれるのは「ボカロしかない」

higma Twitterで見たんですけど、マグさんってもともとニンテンドーDSの音楽ツールソフト『KORG M01』で作曲されてたんですよね?

柊マグネタイト そうですそうです。

higma 僕も一番最初は3DSだったんですよ。小学生の頃『大合奏!バンドブラザーズP』で打ち込みみたいなことをやってたんですよね。中学3年でバンドを組んだり、大学生のときに「閃光ライオット」に出たりしてたんですけど。

柊マグネタイト へー! ボカロを使いはじめたのはいつ頃なんですか?

higma 大学時代に、一度音楽から離れてしまうんですけど、留学先のスペインで、頑張り過ぎで何もできなくなっちゃった時期があって。

そのときに「自分はもともと音楽が好きだったな、もう1回やってみようかな」と思ったんです。でも留学先なのでろくに機材もないし、パソコンだけで歌モノをつくるには、ボカロしかない、と。

それに当時、ネットレーベルのMaltine Records(マルチネレコーズ)が制作した番組「マルチネ・ボーカロイド・スクール」とかを見ていて、ボカロ曲って自分が思ったより音楽的につくれるんだと知って。自分がやりたい音楽性とボカロって案外合うかもしれない、と思ったのがきっかけですね。 higma それから……実は学生時代の後輩が、結構有名なボカロPになっていて、その影響もあったのかなと。

柊マグネタイト おぉ! 名前は聞いてもいいんですか!!?

higma 伏せておきます(笑)。

──とても気になりますが……柊さんと音楽の出会いはいつ頃になりますか?

柊マグネタイト 僕は物心ついた頃ぐらいから、音楽を聴きながら「どういう音が鳴っていて、なんで良いと感じるのか」を分析するのが好きだったんです。「この心地いい感覚を生んでいるのは、今鳴ってるどの音とどの音の影響なのか」とか。

higma すごいな……!

柊マグネタイト もちろん当時は全然言語化できてなかったですけどね。あとは昔、父親がCAPSULEをよく流していたので、今もミックスやマスタリングは中田ヤスタカさんの影響を強く受けています。

最初に曲をつくったのは10歳くらい。祖母の家の電子ピアノについていた録音機能を使って、音を重ねて、なんとなく作曲のようなことをしていて。あとはさっきhigmaさんが言ってくれた通りで、DSソフトの「KORG M01」で作曲していました。
CAPSULE「CONTROL」(FULL ver.)
higma 『KORG M01』って実際のところ、曲つくれるんですか?

柊マグネタイト つくれます。DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)とほとんど同じなんですよ。当時はゲーム感覚でしたけど、その後Cubaseに移行したときに、「あれ、一緒だ」と思って。音が違うだけだったので、経験値が引き継がれたまま、すぐパソコンで曲がつくれるようになったんです。

higma Cubaseに移行したのはいつ頃だったんですか?

柊マグネタイト 14歳のときです。

higma えー! いいなあ。14歳でCubaseはめちゃめちゃ早い。

柊マグネタイト 自分に対して言い訳をなくすという意図があったんです。当時は『KORG M01』の限界も感じていて、このソフトでどれだけ良い曲をつくっても、たぶん中田ヤスタカさんにはなれないだろうなと思って。

それで、中田ヤスタカさんはCubaseを使ってたので、僕もそうしようと。同じものを使って同じ曲がつくれなかったら、それは自分のせいじゃないですか。

higma ストイック過ぎる(笑)。

同じ1回の再生でも、YouTubeよりニコ動の方が重い

──初投稿は柊さんが2020年9月、higmaさんが2019年2月でした。正直、すでに作品発表の場として真っ先に浮かぶのはYouTubeだったのでは? とも思ってしまうのですが、ニコニコ動画にも投稿した理由を教えてください。

柊マグネタイト 特に深い意味はなく、自然にですね。というか、むしろ最初はニコ動だけでいいかなと思っていたぐらいです。無断転載のこともあるから、一応YouTubeにも投稿しておきましたけど。

higma ボカロを使うと決めたときから、ニコ動には絶対投稿しようと思ってました。やっぱりタグ機能によって作品が見つけられやすいのは、新参者にとってありがたいです。

それに、自分が見る側だった小学生時代から、ライブ感のあるコメント機能やボカロを含めたニコ動の雰囲気が好きだったので。

取材当日、higmaさんが持ってきてくれた封筒

中身はアルバムのダウンロードコードになっている/画像はhigmaさんのBASEより

──お二人の特徴だと思うんですが、最近の方にしてはめずらしく、YouTubeよりニコニコ動画の方が伸びています。

higma そうですね……。でも伸びるならYouTubeも伸びてほしいですけどね(笑)。

柊マグネタイト そりゃそうですよね(笑)。

higma 誰かが言ってたんですよね、「曲はニコニコで聴かれる方がいいよ」って。

──YouTubeはおすすめで偶然耳に入る出会いもあるけど、ニコニコ動画は「聴こう」と思って聴きに来る人が多いから……という意味でしょうか?

higma はい。僕が小中学生ぐらいのときからずーっとニコ動のユーザーで、今も「ニコ動で生まれる音楽をチェックしてる」って方はきっといると思うんです。

そういう人に刺さった上での「1再生」は、やっぱりYouTubeのレコメンドで流れてきた「1再生」とは意味が違うなって。
柊マグネタイト 確かに、それはすごく思います。ニコニコとYouTubeの再生数1回って、少し価値が違う感じしますよね。ニコ動の方が重みがあるというか。

higma でもだからこそ、ニコ動も広告機能が出てきて、そのあたりが変わってしまったなとは思うんですね。お金をかけることによって、確かに見てくれる可能性が上がるのは良いことですけど、1回の再生の価値が下がると、それはもうYouTubeだなと思ってしまって……。

昔は2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)の口コミで評判になった曲が伸びたりとか、伸びるきっかけがユーザー起点だった。だからお金で解決されるとなんか違うなって思うし、かといってYouTubeみたいに謎のアルゴリズムでオススメされるのも、やっぱり冷めるというか。

それで思いついたんですけど、映画レビューサービス「Filmarks」のボカロ版みたいな感じで、好きな曲をユーザー間でオススメし合うサイトがあったらいいですよね

柊マグネタイト それめちゃくちゃ面白いですね!

higma 「この人がオススメする他の楽曲」もチェックできるとか。SNSっぽく、「誰々が誰々をオススメしました」ってタイムラインに流れるとか。

──監督つながりで映画を探すような感覚で、絵師さんで検索したら、その人が担当した別のボカロPさんの曲が出てくるとか。

higma そうそう。これについてはもうニコニコ動画の枠にとどまらずに、ボカロをテーマにしたサイトとして存在しても良いと思います。

界隈をさらに大きくしていくのであれば──しかもそれを、ボカロであることを大切にしながらやるのであれば、1つ集まる場所を設けるのがいいんじゃないかなと。それこそボカコレがそういう場なのかもしれないですけどね。

「2次創作は嬉しい」社会と溶け合うボカロ文化

4月24日(土)・25日(日)に開催される「The VOCALOID Collection 2021 Spring(ボカコレ2021春)」

──ボカロ曲を取り巻く文化として2次創作がありますが、たとえば「歌ってみた」などについては、お二人はどう感じますか?

柊マグネタイト 自分の曲を歌ってもらえるのは、めちゃくちゃ幸せなことだと思いますね。本家より伸びてるとか全然気にしなくていい、むしろ嬉しいぐらいです。もう何億再生でもされてくれって(笑)。

higma 僕も全く同じです。いくらでも歌ってほしい。

柊マグネタイト ボカコレにRemixの企画があって、僕らもStemデータを公開してるんですけど、自分の曲のRemixをつくってもらえたらもう最高に嬉しいですよ。 ──お二人がStemデータを公開している「ボカコレ2021春」。参加された前回を振り返りつつ、改めてボカコレの魅力を教えてください。

higma 普段よりランキングの形式も面白いし、あんなに界隈が熱を持って盛り上がってるタイミングで作品を出せるのは、やっぱり楽しいと思います。

柊マグネタイト 人がいっぱい集まるイベントなので、いろんなチャンスにもなりますしね。ランキング入ったり入らなかったりでhigmaさんみたいにドキドキする楽しみ方もありますし、普段と違った高揚感みたいなものもある。僕は本当に、投稿して良かったと思ってます。

ボカロってもうかなり世間と溶け合っていて、一般的な文化になってきてるじゃないですか。そんな中でもボカコレは、昔みたいに本当にボカロが好きな人たちが集まってくる空気を感じられるのがいいんですよね。

higma 前回もいろんな曲が出ましたもんね。いかにもボカロっぽい曲から、ポップスもあったし、EDMみたいな曲をつくる人もいたし。

僕もそうでしたけど、トラックメイカーとか、全然違う文脈の人たちが「あ、ボカロって思ったより簡単に使えるんだ」って理解してきてて、実際に使う人が増えているんです。

まさにマグさんが言った「溶け合っている」という表現がぴったりだと思うんですけど、ボカロはこれからもっと広く浸透していくだろうなと思います。

「The VOCALOID Collection -2021 Spring-」をチェックする 【ボカロP提供】REMIX用Stemデータをチェックする

「ボカコレ」ならでは! 1日限りのライブも

The VOCALOID Collection LIVE
有名ボカロPやボカロ楽曲ゆかりのアーティスト/クリエイターがジャンルの垣根を越えて大集結し、無限に広がりつながっていく「ボカロ文化」を体現するスペシャルライブ。

開催:2021年4月25日(日)
時間:開場 14:00、開演 15:00 終演 19:00 予定
会場:幕張メッセ ホール4(千葉市美浜区中瀬2-1)

出演者(50音順):愛川こずえ、足太ぺんた、アナタシア、Ayasa、+α/あるふぁきゅん。、いりぽん先生、WOOMA、仮面ライアー217、ATY、菊池亮太(アノアタリ)、Capital Rhythm、kz(livetune)、小林幸子、SHARE LOCK HOMES、しらスタ(通称おしら)、SHiN、粗品(バーチャル出演)、八王子P、ピノキオピー、みきとP@アコースティック feat.ねんね、ヤスタツ、大和、りりり、わかざえもん ほか

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