「ピンクっぽい芝居はしたくない」高橋李依の声色理論 『プリレタ』座談会

「ピンクっぽい芝居はしたくない」高橋李依の声色理論 『プリレタ』座談会
「ピンクっぽい芝居はしたくない」高橋李依の声色理論 『プリレタ』座談会

高橋李依×僻みひなた×三浦康嗣『Princess Letter(s)! フロムアイドル』座談会

POPなポイントを3行で

  • 『Princess Letter(s)! フロムアイドル』座談会
  • 高橋李依×僻みひなた×三浦康嗣──3人の演技論
  • 声優・演出家・作曲家語るポエトリーリーディング
Princess Letter(s)! フロムアイドル』(通称:プリレタ)はそれぞれ秘密を抱えたアイドルたちとの手紙のやりとりを軸に据えた、松竹が展開するプロジェクト。

森倉円さん、necömiさん、Mika Pikazoさんら人気イラストレーターがキャラクターデザインを手がけたアイドルたちに、高橋李依さん、楠木ともりさん、芹澤優さんといった実力ある若手女性声優たちが命を吹き込む。

公開中の楽曲「雁矢よしのの話」が放つのは、詩の朗読のように繊細で美しい言葉をEDMに乗せたポップネス。音楽と呼ぶにはあまりに芝居的で、芝居と呼ぶにはあまりに音楽的。その表現の名は「ポエトリーリーディング」。
雁矢よしのの話(CV.高橋李依)
相反する2つの要素を絶妙なバランスで成立させたのは、劇団「しあわせ学級崩壊」を主宰する気鋭の劇作家であり、『Princess Letter(s)! フロムアイドル』におけるポエトリーリーディング関連の楽曲を一手に引き受ける僻み(ひがみ)ひなたさん。そして、声優/アーティストとして多くのアニメ・ゲームで活躍し、雁矢よしの役を担当する高橋李依さんとの見事な共鳴によるものだ。

今回は2人に加え、高橋さんが所属するユニット・イヤホンズの楽曲「記憶」や「あたしのなかのものがたり」を手がけ、音楽ユニット・□□□(クチロロ)としても活躍する音楽クリエイター・三浦康嗣さんを招き、座談会を通じて『Princess Letter(s)! フロムアイドル』の秘密に迫っていく。

取材・文:オグマフミヤ 編集:恩田雄多 撮影:寺内暁

ポエトリーリーディングのオファーは「口説かれたような気分」

『Princess Letter(s)! フロムアイドル』

──『Princess Letter(s)! フロムアイドル』は声優によるポエトリーリーディング、アイドルたちとの手紙のやりとりという珍しいテーマが特徴のプロジェクトですが、最初に企画を聞いたときはどう思われましたか?

僻みひなた(以下、僻み) 僕がまずうかがったのは、アイドルと手紙のやりとりが軸になっているプロジェクトということでした。

届かない思いを届けようとするということがコンセプトで、そもそもアイドルは本来距離のある存在ですし、現在はコロナ禍で人に会いづらいという状況でもある。

だからというわけではありませんが、直接会うことができない人に思いを伝える手紙を主軸とした企画に、強い意義を感じたのを覚えています。

僻みひなたさん

高橋李依(以下、高橋) 私がオファーをいただいたときも、内容やコンセプトなどものすごく熱意が伝わってくる企画書だったんですよ。

加えて「高橋さんのこういう声の部分をよしのちゃんに欲しいです」っておっしゃっていただいて、なんだか口説かれたような気分でしたね(笑)

イヤホンズでポエトリーリーディングに挑戦したこともあったので、自分としては自信もありましたし、ぜひ挑戦したいと思いました。

高橋李依さん

──雁矢よしのちゃん役はあてがき的なキャスティングだったんですね。

高橋 どうなんでしょう? 私がイヤホンズでポエトリーリーディングをやっていたのはお耳に入っていたんでしょうか?

松竹『Princess Letter(s)! フロムアイドル』スタッフ 入ってました!

高橋 よかった! ただそういう技術や経験的なものだけではなくて、「高橋さんのこういうお芝居をよしのちゃんのためにしてほしい」という口説かれ方にときめいたんですよ! ──そんなラブコールがあったんですね。イヤホンズでの「記憶」と「あたしのなかのものがたり」は特にポエトリーリーディングのような楽曲でしたが、今回はその作詞・作曲をされた□□□の三浦康嗣さんにも座談会にご参加いただきました。

三浦康嗣(以下、三浦) 僕自身はポエトリーリーディングをつくっている感覚はなかったんです。ポエトリーリーディングだと思ってないし、ラップだとも思ってない。ただ譜割りがあるから、どちらかといえばラップに近いような感覚。

そもそもポエトリーリーディングの起源はどこにあるかを考えると、おそらく紀元前まで遡るんじゃないでしょうか。紙がない時代、詩は口承で伝わっていく文化だったから、いまよりもっと歌に近いものだった。

表には出づらいけど確かに功績を残した人をアンサングヒーロー(unsung hero)──歌われなかった英雄──と呼ぶのは、かつて英雄は歌われてこそ歴史に残っていたという背景があったから。それだけ歌と詩の距離が近い時代があったんです。

三浦康嗣さん

三浦 Wikipediaを見ると、50年代のアメリカにあったビートニクが起源になっているとも書いてありました。詩人が自分で書いた詩を自分で朗読する文化があり、そこから繋がっているからこそ英米の詩って韻を絶対に踏んでいて、それはどんな音楽でも同じです。ポップソングでも99%韻を踏んでいる。

たけど、そこを参考につくられていったはずのJ-POPはあまり韻を意識している曲が多くなく、韻を踏むといえばラップのことだと思われている。それが変というか、不思議に思う気持ちがずっとあったんですよね。

──そういう意味では、三浦さんが手がけられたイヤホンズの楽曲には、ラップとポエトリーリーディングの双方を感じます。『Princess Letter(s)! フロムアイドル』の楽曲と比較した場合、それぞれの違いをどのように感じますか?

三浦 イヤホンズの楽曲の場合は、言葉をリズムのマス目に合わせてるし、韻も意識しているからラップっぽい構造ではあるものの、イントネーションがしゃべり言葉なので、そこがポエトリーリーディングっぽいと思われる部分なんじゃないでしょうか。

対して『Princess Letter(s)! フロムアイドル』の楽曲は、リズムに乗っている部分もあるにはあるけど、イヤホンズの楽曲との違いは韻を意識していないことが大きな違いだと思います。近しいものはあるけど、表現としてはそこが異なっていると感じましたね。
金魚鉢たよりの話(CV.芹澤優)
──僻みさんはポエトリーリーディングを意識して楽曲をつくられていたのでしょうか?

僻み ポエトリーリーディングをつくろうという意識は僕にもなくて、演劇という表現の中からどうセリフを立ち上げていくか実験しながら辿り着いた表現方法なんです。なので、音楽的なことは意識していません。

たとえばもっとリズムで遊ぼうと思えばできると思うんですが、今回の楽曲ではセリフを全部16分音符に振ってあって、一定のリズムでしゃべっているようにしています。

音楽と合わせなくてもセリフとして成立するというラインは守りたいと思っていて、演劇的な要素を中軸に据えながらも、音楽との距離感をどうとるか。それが特徴なのかなと思います。

三浦 僕も舞台や演劇に関わって、作曲や演出もすることがあるんですけど、逆に音楽をベースにものごとを考えてしまうんです。

そうは言ってもだいぶ演劇に寄りますが、あくまでベースになるのは音楽。イヤホンズの場合は、そこを面白いと思ってもらえて楽曲制作を依頼してもらったんだと思います。

「音響監督みたい」イヤホンズのレコーディングとの違い

──表出するものは似通っていても、制作するお二人の意識はベースの段階から異なっていたんですね。そうした異なるアプローチが、共に声優・高橋李依さんを通じて表現されるというのも興味深いところです。

三浦 声優さんはそれだけ多様なことにチャレンジするようになってるんだなと思いますね。『Princess Letter(s)! フロムアイドル』の場合は演技の範疇だとは思うけど、その中にもだいぶ多様性があるよね。

高橋 最近、私自身が自分を表すのに「表現者」って言葉を使うんです。もちろん声優だけど、意識としてはもっと広く声を使った表現をする人間だと思っていて、だからこそ歌でも演技でも声を使って表現することならなんでもやりたいと感じています。

それだけ声優のお仕事が多様化していて、声優って言葉の印象も年々変わっていっているような感覚もありますね。 ──声を使った表現としては似通いながらも、やはり歌と演技では意識の差はあるのでしょうか?

高橋 私の意識の差もそうですが、イヤホンズと『Princess Letter(s)! フロムアイドル』とでは、レコーディングのときにいただいたディレクションに大きな差がありました。

当時のレコーディング資料を持ってきたんですけど、三浦さんとの楽曲制作の場合、全体的にアクセントの位置や休符の位置、空白のリズムの取り方とか韻を踏む感覚を技術として学ばせていただいたんです。そして、音楽的な指示は出してもらいましたが、感情の出し方やキャラクターの掘り下げは私の感覚でやっていました。

ひなたさんの場合は逆に「ここはこういう感情を出したい」という指示があって、シナリオがあってよしのちゃんの感情の流れを頭に入れた上で、それを的確に表に出す作業だったので、やっていることがかなり違う感覚はありました。

ひなたさんの指示は音響監督さんからの言葉のような印象で、やはり音楽というよりお芝居をしようとする意識はあったと思います。

僻み 恐縮です(笑)。

──ボーカルディレクションというよりは、舞台の演出のようにディレクションされていたんですね。

僻み その感情をいかにアウトプットするかはお任せしていましたが、どういう感情なのかは細かく伝えていました。

三浦 演出家として稽古つけるときはそうですもんね。

確かに楽曲を聞いたときに、舞台が盛り上がるような場面で、バックに感動的かつ高揚感のある音が鳴っている中で役者さんがセリフを言っているシーンが思い浮かんだんです。やっぱり演出をやっている人の仕事だなって感じます。

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:4400)

りえりーのいろいろな色の「わたしは」が完全に脳内再生できた

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