ストイックな表現者・高橋李依を物語るエピソード
──以前、イヤホンズのみなさんと三浦さんの対談で、三浦さんが「歌手が音楽的な考えで捉えてしまう部分を、声優さんはもっと意味主体で動いてくれる」というお話をされていたのが印象的で、今回の企画もそこに通ずる部分があるのかなと感じました。三浦 イヤホンズの「あたしのなかのものがたり」のときは、リズムの乗せ方とか音楽的な部分は僕のほうで指示できるので、演技の部分は任せるようにしていました。そうすると、3人それぞれの考え方の違いもわかってすごく面白かったんです。
イヤホンズの楽曲では作詞・作曲・編曲を担当してるけど、基本的には委ねたいと思っていて、楽曲の隅々までコントロールするよりは、お互い歩み寄ってつくり上げたほうが面白いなって。そもそも役者さんのほうが演技はプロですからね。 高橋 「記憶」のときは、「みえた葬式」という歌詞が印象的で、セリフとしてはややマイナスな感情かなと思って歌ってみたんです。
そしたら、三浦さんから「こういう方向はどう?」と調整してもらえて、俯瞰したところから発声できた感覚がありました。1人だとどうしても主観的になってしまうので、別の視点の解釈があるとありがたいですよね。
三浦 あの曲でりえりーには、ませた感じの5歳を演じてもらったからね。とはいえ、りえりーは表現という感覚的なものを論理的に理解したり、コミュニケーションしたりするのが上手な人だから、りえりーが思う5歳ならそれがいいかなとも思ったし、「記憶」に限らず、イヤホンズの曲におけるキャラクター造形は毎回3人ともハマってるなって感じる。
三浦 はじめてレコーディングしたときに、僕が持ち帰るために用意していた未調整の音源(※録音したそのままの音源)をくださいって言ってきたんです。そんな人は会ったことがありませんでした。
調整していないものなので、自分がうまくいっていない部分もクリアに刻み込まれている。それを持ち帰って「ここは早くなっちゃってるな」とか、「こうすればうまくいくかな」って研究したりするんだろうなと。
演技の表現についても論理的に理解できるけど、歌についても俯瞰して自分の歌が見れるんだと思います。それができないと持って帰っても意味がないし、そうやって研究することで、感覚的な表現の論理的な理解にも繋がっている。本当にストイックです。 僻み 僕はまだほとんどご一緒してはいないんですが、それでも本当に妥協されない方なんだなと感じます。そういう方とやるのはこっちとしてもやりがいがありますし、素直にかっこいいなって思いました。
高橋 なんの時間ですかこれ?! 嬉しい! 絶対書いておいてくださいね!!
──必ず! いまお二方に語っていただいたストイックさについては、ご自身でも自覚している部分なのでしょうか?
高橋 確かにラフ音源を聴き返すことはありますね。ラフの段階から聴いておくことで、完成した音源と比べて修正箇所を確認したり、ライブで披露するときに活かせる部分を探したりもするんです。
『Princess Letter(s)! フロムアイドル』の場合は、最初にいただいた企画書の熱量がすごかったので、私も自分の熱量を言葉で伝えてもいいのかなって思えました。
なので納得のいくところまでこだわってできたんですが、そういったところをストイックさとして褒めていただけるなら、これからも楽しくものづくりができそうです。
「ピンクっぽい芝居はしたくない」高橋李依の声色理論
──高橋さん演じる雁矢よしのはインターネット使用禁止のアイドル養成学校に通うアイドルです。一見、一筋縄ではいかなそうなイメージですが役づくりで苦労された点はありますか?高橋 役づくりとしては、ビジュアル的なピンクという色に囚われないようにしようと強く意識していました。
いま出ているキャラクター3人はそれぞれ思いっきり色が分かれているので、その色に基づくキャラ付けをすればわかりやすいんですが、そうじゃなくて彼女自身の性格と向き合いたいと思って。 高橋 なんとなくピンクや桜のイメージで演じるんじゃなく、彼女が抱えている秘密や考えていることにしっかりと目を向けたかった。
公式サイトにあるよしのちゃんの秘密を読んでいただくとわかるんですが、感情のなかった彼女が、手紙をもらい、アイドルをはじめるきっかけになったんですよ。
いまは、誰かに届けたい思いが軸になっていて、そうした性格の小さな変化を丁寧に掴んでいきたいなと思いました。
──よしのは髪色もピンクですし、詩の中でも桜が印象的なので、聴く側も色の意識は強いのですが、そこをあえて汲み取らないようにしていたんですね。
高橋 あまり使いたくない言葉で、適しているのかもわからないんですが、ピンクっぽい芝居というか、その色っぽい芝居というものはあるのかなと感じていて。それに頼らないようにしたかったんです。 高橋 たとえば、息を混ぜると青色っぽい印象になるんですよ。こんなふうに……
「わたしは」
三浦 あー!!!
高橋 伝わりましたか……?(笑)。 黄色だと実音を混ぜたケロケロボイスというか、あざとくポップな感じが近いかも。
「わたしは」
僻み すごい! まさにですね! 三浦 そういうカラーでキャラの性格とかも変わってくるんですかね?
高橋 なるべく決めつけたくないんですが、イメージカラーによって性格の系統があるのかなと考えることはありますね。
三浦 ピンクっぽい芝居は?
高橋 ピンクは前向きな音の印象ですね。青よりは息を混ぜないけど、黄色ほどくっきりはしていない。黄色と青の間のような、語尾の処理を可愛く柔らかくするとピンクっぽくなるかな……。
「わたしは」 高橋 こうやって技術的にくくる話をしてしまいましたが、あくまでも個人的ですし、結果論としての傾向ということで……。様々な役づくりに活かして行けたらなと。
三浦 なるほど、その技術の話だけでも面白い。
僻み あと20色分くらい聞きたいです!
──音声で伝えられないのが心苦しいところです。ちなみに「赤」だったらどんな声になるのでしょうか?
高橋 赤はやっぱり熱い印象なので、こぶしをきかせた感じというか、燃えるようなイメージです。
ちょっとベース音の入った地のトーンで、一音一音ハッキリと言います。
「わたしはっ!」
僻み すごい……ですね……。
三浦 ちょっとドスがきいてる感じだ。説明した上でそれをすぐ実演してできるんだね。 高橋 声優さんにもピンクの役が多い方とか、役の色に傾向がある方がたまにいらっしゃったり。もしかしたらお声やお芝居に、その色の特性が詰まっているのかも。
三浦 りえりーはいろんな色のキャラを演じているの?
高橋 絶対と言いきれるほど固まってはいないと思いますが、ちょっと紫が多いかも。
三浦・僻み 「紫」?!!?!
──新しい色が出てきました…。
高橋 紫は頭が固い人が多いですね。きちんとした姿勢で、ものごとをしっかり考えているイメージ。
「わたしは」
三浦 曲げない自分があるタイプだ。あくまで傾向みたいなものだろうけど、本当にすごい。
高橋 あんまり話したことない話なので恥ずかしいです(笑)。あくまで私個人のイメージですからね!
三浦 ラッパーのR-指定さんが「みんなちがって、みんないい。」って曲で、いろんなタイプのラッパーを1人で再現しているんです。
トラップやUSっぽいものだけでなく、女性ラッパーも全部特徴を見事に捉えていて、それを1曲の中でめまぐるしく変化させていくんだけど、りえりーの実演からはそれを彷彿とさせられました。
高橋 私も女性声優オタクみたいなところはあります。自分の仕事が好きだし、それに携わってる声優さんたちもみんな好き。なので「この人のこの色(声色)新鮮だな」「その色をこうやって演じるんだ」って考えるのも好きなんです。
このキャラカラーにしては珍しい声質だけど「性格の部分で共通するものがあるんだろうな」とか、声質に意外性があっても、内面がリンクするから役がハマるってことは大いにあるんです。
これは現場でご一緒する立場の特権かもしれないですが、そういう素敵なキャスティングを見るとドキドキするし、自分に関係ない作品のキャスティングも興味津々で見ちゃいますね。 三浦 細やかな文脈の違いを楽しんでる感じですよね。他の人は興味ないかもしれないけど、自分にとっては面白みがある。そういう気づきを得るのが楽しい。
高橋 そうですね、考えたり気づいたりするのが好きなんだと思います。
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高橋李依
声優/アーティスト
2月27日生まれ、埼玉県出身。81プロデュース所属。『魔法つかいプリキュア!』(朝日奈みらい/キュアミラクル役)、『Re:ゼロから始める異世界生活』(エミリア役)、『からかい上手の高木さん』(高木さん役)、『Fate/Grand Order』(マシュ・キリエライト役)など数々のアニメ・ゲームに出演。2015年の『それが声優!』(一ノ瀬双葉役)にて高野麻里佳、長久友紀との3人組声優ユニット・イヤホンズを結成。2021年春にはソロアーティストデビュー。何色にも染まる稀有な表現力と、染まらない確固たる透明感で彩る声に定評がある。
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高橋李依公式サイト
イヤホンズ公式サイト
僻みひなた
演出家
EDM系の楽曲で演劇を構成する演劇集団・しあわせ学級崩壊(@ha_ppy_cla_ss)の主宰/脚本/演出/作曲/演奏。『Princess Letter(s)! フロムアイドル』『Prince Letter(s)! フロムアイドル』では楽曲提供を担当。
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しあわせ学級崩壊公式サイト
三浦康嗣
音楽クリエイター
□□□(クチロロ)主宰。スカイツリー合唱団主宰。作詞、作曲、編曲、プロデュース、演奏、歌唱、プログラミング、エディット、音響エンジニアリング、舞台演出等々を1人でこなし、多角的に創作に関わる総合作家。平井堅、m-flo、土屋アンナ、坂本美雨、MEG、私立恵比寿中学、イヤホンズ、ヒプノシスマイク等様々なアーティストの楽曲・リミックスを担当。また様々なCM音楽、カンヌ広告祭サイバー部門銀賞受賞した『TOKYO CITY SYMPHONY』の音楽監督、岸田戯曲賞受賞作『わが星』の音楽担当、音楽劇ファンファーレの音楽・演出なども手がける。
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1件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:4400)
りえりーのいろいろな色の「わたしは」が完全に脳内再生できた