「平成最後のセルアニメ?」と呼ばれた共栄鍛工所CMの真実
──菅野監督は、ジーアングルが制作した共栄鍛工所のアニメCMも監督されています。こちらもすさまじい質感とクオリティでした。菅野 共栄鍛工所のブランディングセルアニメーションは、クライアントも非常に前のめりというかノリノリでしたね。「マクロス」シリーズを想起させるようなオーダーだったので、僕も「じゃあ“板野サーカス”(※)に挑戦してみよう!」と気合いが入ったのを覚えています(笑)。
ただそれだけでは共栄鍛工所がどんな会社かわからないので、鍛工所で武器をつくって上空の機体に向けて飛ばす、というアイデアを入れました。
※板野サーカス:アニメーター・板野一郎さんが確立したスピーディーかつアクロバティックな作画表現。
菅野 ありがとうございます。この場を借りて1つ訂正があるんですが、共栄鍛工所のCMが話題になった当時、「セルアニメ」という表現がひとり歩きしてちょっと誤解が生じてしまったようです。
セルというのは、かつて使用していたセル画ではなく、その名残りとしてデジタル化してもレイヤーを「Aセル」「Bセル」と呼んでいるだけなんです。だから「平成最後のセルアニメ」ではないという……(笑)。
──(この記事の公開時にはKAI-YOUの記事(関連記事)も修正しておきます!)お話をうかがっていると、クリエイターにとってジーアングルは理想的な仕事相手なんだということが伝わってきます。
菅野 テレビシリーズで「キャラクターが敵を1回切って終わり」といったカットが続くと、精神的に疲れてしまうことがあるんです。そういうタイミングを見計らったかのように、まったく異なるテイストのお仕事の相談をいただけるので、いい意味で気分転換にもなるんですよね。
10年前と変わった「神作画」のスタイル
──ここからは菅野監督ご自身についてもお聞きします。アニメ業界でのキャリアのスタートは制作進行とうかがったのですが、そもそもなぜだったのでしょう?18話はアクション作監とマザーズロザリオを担当しました。超光速の11連撃をじっくり見せようとしたけど、技がそうさせてくれませんでした(°Д°)速いものは速い。貴重な技が描けて感無量です。#sao_anime pic.twitter.com/7B8a39ehpV
— 菅野芳弘 (@P1B9f44VEGyAe8n) August 15, 2020
菅野 もともと絵を描くのが好きで、大学も美大に通っていたんです。でも仕事にするかと考えたときにあんまり続かなそうだなと。以前から興味があったアニメ業界に行こうと思ったんですが、どうやったら入れるのかがわからず、とりあえず専門学校に入って受講したのが監督コースでした。ただそこのカリキュラムが、ほぼ制作進行の内容だったんです(笑)。
その後アニメ業界に入って、3年ぐらい制作進行をやっていたんですが、やっぱり絵を描きたいなと。制作進行時代から、動画を直したこともあったので。
ただ、制作進行で業界の上にいくには、プロデューサーか演出家になるのが一般的なルートでした。でもまたゼロから別のスタジオで演出や動画を学ぶのは大変だったので、当時の会社の社長に相談したら「ウチでやりなよ」と言っていただけたんです。そこからはアニメーターに転向しました。
──珍しい経緯でなったアニメーターですが、ご自身として最も意識していることはありますか?20話御視聴ありがとうございました。完成版を見たとき、今までの事を思い出し、涙が出ました。スタッフの皆さんお疲れ様でした(まだあるけどね)
— 菅野芳弘 (@P1B9f44VEGyAe8n) August 29, 2020
⬇️スターバーストストリームだよ。剣士キリトを描くために頑張ってきたと思った。#sao_anime pic.twitter.com/ccXVStFWxL
菅野 「いかに映えるか」を考えていますね。コンテの通りに描くとちょっと物足りないこともあるので、「どうしたら見てくれる人の中で映えるのか?」は常に考えます。
いわゆる「神作画」と呼ばれるものって、10年前といまとでは変わっているんですよね。ただ、その時代ごとのトレンドに合わせていくと、目が肥えた人は飽きてしまう。そこにどう自分の色を入れていくか、自分なりの「カッコよさ」を描きたいと思っています。
──アニメーションの作り手として、10年前と今はどういう部分が変わってきたとお考えですか?
菅野 デジタル化が進んだおかげで、自分の描いたものをすぐ確認できるんです。前は手描きだったから、いったん撮影の工程を挟んで上がってきたものを確認して、1〜2回直せるかどうかだったんですよ。
その行ったり来たりがデジタルの普及で簡略化されたことで、いまはラフの原画から直すことができる。それもあってか、よりスタイリッシュな作画が増えてきている気はしますね。
アニメーターがアニメを見るときに気になること
──近年では、アニメCMだけでなく、MVなどでもアニメが使われるシーンが多くなっています。菅野監督ご自身もそういった作品はご覧になるのでしょうか。菅野 よく見ています。増えたことは単純にうれしいし、作品ごとにアニメーターの感覚が見られるのがたまらないですね。アニメーション表現の可能性は無限大だと思っているので、「こういうのが出てきたか!」など、毎回新しい発見があるのが楽しいです。
──制作のすべてを1人で手がけるアニメーターも出てきましたが、その流れをどう見ていますか?
菅野 Webならではだと思いますね。テレビだと、作画監督だったりキャラクターデザインだったり、様々なポジションの方がいるわけですから。1人でアニメをつくるということは原画も自分で描くわけで、そういった原画マンが登場して、注目される機会が増えてきたのは、日本のアニメの新たな広がりにもなると感じています。
MVで特に感じますが、仮に動画の枚数が少なくても、絵が上手くなかったとしても、曲に合っているなら表現の1つとして面白いんです。自分としても、そのほうがアニメーター個人の作家性をよりはっきり感じ取ることができるから、見ていて興味深いですね。 ──すっごく気になるので最後にこれだけお聞きしたいのですが、アニメーターの方はどういう部分に注目してご覧になっているのでしょう?
菅野 すごく専門的な話になりますが、例えば「どんなタイムシート(※)を使って、原画だけでつないでるのか」とかですね。原画と原画の間に動画を足す「中割り」を省いても(=枚数が少なくても)スムーズに見える作画が最近結構あるので、そういうテクニック的な部分には毎回目がいってしまいます。
ほかにも、人物が動いている中で背景をどう動かしているかとか……挙げ出すとキリがないかもしれません。キャラクターや背景といったそれぞれの動きにピンポイントで注目しつつ、それらが合わさった画面全体としてのクオリティも見るようなイメージです。勉強のためと言いつつも、内心嫉妬しながら楽しんでいます(笑)。
※タイムシート:アニメーションするタイミングや撮影時の指示が記載された用紙。
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SYO
映画ライター/編集者
1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、独立。映画・アニメ・ドラマを中心に、小説や漫画、音楽などエンタメ系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。映画作品の推薦コメント・劇場パンフレットの寄稿や、トークイベント・映画情報番組への出演も行う。カフェ巡りと猫をこよなく愛する。
Twitter(@SyoCinema)
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