ジーアングル(G-angle)という会社をご存じだろうか?
2018年に「ガチすぎるロボットアニメ風会社紹介CM」を制作し、「平成最後のセルアニメ?」と話題を呼んだスタジオだ。
サウンドデザインやアニメーション制作、CGデザインなど幅広く手がけ、これまでにマクドナルドの「グラコロ」や花王「Biore さらさらパウダーシート」などのアニメCMを世に放ってきた。
これらのCMをジーアングルと共につくったのが、『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld(SAO)』のアクション作画監督を担当した菅野芳弘監督だ。
両者の最新タッグは玉家質店のCM。なんと、質屋のCMにもかかわらず壮大なファンタジーアニメ風CMをつくり上げた。玉家質店アニメCM「託された想い篇」
玉家質店の担当者も「質屋というリアルなイメージを上手くファンタジーの世界に落とし込んで表現していただきました」と話す斬新なコラボレーション。今回は監督/絵コンテ/キャラクターデザイン/作画監督などを担当した菅野さんにインタビューを実施。
制作の舞台裏から、監督自身のアニメーション論、「クオリティを存分に追求できる環境をつくってくれる」というジーアングルというスタジオの特異性に至るまで、とことん語ってもらった。
取材・文:SYO 編集:恩田雄多
菅野芳弘(以下、菅野) 僕がもともといたスタジオ以外ではじめて外の仕事を受けたのが、今はもうなくなってしまったマングローブというアニメ制作会社なんです。そのときの担当者だった堀添貴之さん(現ジーアングル アニメーション事業部所属 アニメーションプロデューサー)がジーアングルに移られてから、お仕事をいただくようになりました。なのでもう10年くらいですね。
──最初にお仕事を打診されたときの、アニメCMに対する印象を率直に教えてください。
菅野 クリエイターとしては、結構画(え)の枚数を使えるので、テレビよりもクオリティが高いものをつくれるなと思っていました。『君の名は。』のヒットによって、大成建設のCMが改めて注目された時期でもあったので、ポジティブなイメージを感じていました。 ──マクドナルドの「グラコロ」や花王の「Biore さらさらパウダーシート」など、これまでにもジーアングルとアニメCMを制作されていますが、菅野監督からみたジーアングルの印象を教えてください。
菅野 僕に相談していただく仕事は、ありがたいことに、ほとんどが「好き勝手やっていいですよ(極論)」と言ってもらえるものばかりなんです(笑)。もちろん、クライアントの希望を踏まえた上で、という意味ですよ。ただ「テレビでやれない作画ができる!」と、嬉々として引き受けることが多いですね。
テレビシリーズは制作せず、アニメCMに特化することで、しっかりつくれるスケジュールと予算がある。少数精鋭で小回りがきく体制なのも大きいですね。その上で、企画から実制作まで自社で完結しているので、僕自身、広い役割で携われる点も魅力です。
個人的な話をすると、ジーアングルには堀添さん以外にも以前からの知り合いが多いので、気心が知れている人たちと制作できるのはシンプルにありがたいですね。 ──そういった自由度や柔軟性の高さはジーアングルならではですか?
菅野 そう思います。たとえば以前、ダビングが終わったあとに音響監督の山崎詩織さん(ジーアングル サウンド事業部 ボイスセクション)が「ここを直したいんですが……」って相談してきたんですよ。テレビアニメだったらスケジュール的にダビング後に直すなんてできないんですが、スケジュールに縛られすぎず、いいものをつくるためにとことんこだわる、クオリティを高められるのはジーアングルならではですね。
またWeb配信のCMの場合は、尺も多少融通が利くので、どうしてもあふれてしまったときに受け入れてくれる環境なのはありがたいです。
……と言いつつ、実は普段1人で原画の作業をしているのは結構寂しくて(笑)。「直したいんです」って相談される距離感の近さって、正直新鮮だしうれしいんですよ。
菅野 玉家質店さんから「若い人に認知してもらいたい」というオーダーがあったので、それならファンタジーにしてみようと提案しました。日常劇にするよりは、ゲームのワンシーンを描いたようなものにしたほうが、興味を抱きやすいんじゃないかと思ったんです。
質屋って、モノを預けてお金を借りるというシステムじゃないですか。ゲームでも、自分の装備を預けて新しい装備を買うという場面は馴染み深いので、そこをフックに組み立てていきました。そのうえで、画的にはカメラをたくさん動かして壮大な映画の予告編のような感じで目を引ければと。映画を1本つくるくらいの気持ちでしたね。 ──実際、壮大な劇場版アニメの序章というか、いわゆる「いったい何がはじまるんです!?」的なワクワクする雰囲気がありました。
菅野 ちなみに今回の玉家質店の美術はいつもお世話になってる景田学さん、撮影(編注:様々な手法でシーンを印象的にする撮影処理)は『SAO』でお世話になった旭プロダクションで、撮影監督は渡辺有正さんが担当してくれました。
景田さん、渡辺さんなしでは、いい画を描いても引き立たないので、その仕事ぶりにはいつも感動しています。今回も「盛ってください」「逆光を美しくしたいんです」というオーダーを投げたら、ものすごいクオリティに仕上げていただきました(笑)。
あとは「お金に困ったときにモノを預ける」だけじゃなく、「預けたモノに愛着があるから、また迎えに行く」というメッセージは伝えたくて、セリフにも盛り込んでいます。
とはいえ、ここまで自由度高くやらせてもらえたのは、田中智也監督がきちんと日常劇の中で質屋を描いた「誕生日篇」があったからこそですね(※)。
※ジーアングルでは「託された想い篇」のほかに、女性2人の友情を描いた「誕生日篇」も制作。こちらは田中智也さんが監督している。玉家質店アニメCM「誕生日篇」
──「託された想い篇」のカメラワークなどには、菅野監督が手がけた『SAO』にも通じるアクション作画を感じました。ご自身の手応えとしてはいかがですか?
菅野 臨場感のあるカメラワークなどで自分らしさを出せたな、という実感はあります。ただ、これは今回のお仕事に限らず、描き終わると「こうすればよかったな」と反省が始まってしまうから難しいですね(苦笑)。
やはり近年はカメラワークの重要度が年々増してきていて、上手いアニメーターはみなさんカメラワークを突き詰めて考えています。作画+カメラワーク、そこに撮影が加わって、いまのアニメ表現の“すごさ”が形成されているように感じますね。
2018年に「ガチすぎるロボットアニメ風会社紹介CM」を制作し、「平成最後のセルアニメ?」と話題を呼んだスタジオだ。
サウンドデザインやアニメーション制作、CGデザインなど幅広く手がけ、これまでにマクドナルドの「グラコロ」や花王「Biore さらさらパウダーシート」などのアニメCMを世に放ってきた。
これらのCMをジーアングルと共につくったのが、『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld(SAO)』のアクション作画監督を担当した菅野芳弘監督だ。
両者の最新タッグは玉家質店のCM。なんと、質屋のCMにもかかわらず壮大なファンタジーアニメ風CMをつくり上げた。
制作の舞台裏から、監督自身のアニメーション論、「クオリティを存分に追求できる環境をつくってくれる」というジーアングルというスタジオの特異性に至るまで、とことん語ってもらった。
取材・文:SYO 編集:恩田雄多
アニメーターとしてうれしい「好き勝手やっていい(極論)」
──そもそも菅野監督とジーアングルは、いつ頃からお仕事をご一緒にするようになったのでしょうか?菅野芳弘(以下、菅野) 僕がもともといたスタジオ以外ではじめて外の仕事を受けたのが、今はもうなくなってしまったマングローブというアニメ制作会社なんです。そのときの担当者だった堀添貴之さん(現ジーアングル アニメーション事業部所属 アニメーションプロデューサー)がジーアングルに移られてから、お仕事をいただくようになりました。なのでもう10年くらいですね。
──最初にお仕事を打診されたときの、アニメCMに対する印象を率直に教えてください。
菅野 クリエイターとしては、結構画(え)の枚数を使えるので、テレビよりもクオリティが高いものをつくれるなと思っていました。『君の名は。』のヒットによって、大成建設のCMが改めて注目された時期でもあったので、ポジティブなイメージを感じていました。 ──マクドナルドの「グラコロ」や花王の「Biore さらさらパウダーシート」など、これまでにもジーアングルとアニメCMを制作されていますが、菅野監督からみたジーアングルの印象を教えてください。
菅野 僕に相談していただく仕事は、ありがたいことに、ほとんどが「好き勝手やっていいですよ(極論)」と言ってもらえるものばかりなんです(笑)。もちろん、クライアントの希望を踏まえた上で、という意味ですよ。ただ「テレビでやれない作画ができる!」と、嬉々として引き受けることが多いですね。
テレビシリーズは制作せず、アニメCMに特化することで、しっかりつくれるスケジュールと予算がある。少数精鋭で小回りがきく体制なのも大きいですね。その上で、企画から実制作まで自社で完結しているので、僕自身、広い役割で携われる点も魅力です。
個人的な話をすると、ジーアングルには堀添さん以外にも以前からの知り合いが多いので、気心が知れている人たちと制作できるのはシンプルにありがたいですね。 ──そういった自由度や柔軟性の高さはジーアングルならではですか?
菅野 そう思います。たとえば以前、ダビングが終わったあとに音響監督の山崎詩織さん(ジーアングル サウンド事業部 ボイスセクション)が「ここを直したいんですが……」って相談してきたんですよ。テレビアニメだったらスケジュール的にダビング後に直すなんてできないんですが、スケジュールに縛られすぎず、いいものをつくるためにとことんこだわる、クオリティを高められるのはジーアングルならではですね。
またWeb配信のCMの場合は、尺も多少融通が利くので、どうしてもあふれてしまったときに受け入れてくれる環境なのはありがたいです。
……と言いつつ、実は普段1人で原画の作業をしているのは結構寂しくて(笑)。「直したいんです」って相談される距離感の近さって、正直新鮮だしうれしいんですよ。
質屋なのにファンタジーアニメにしたロジカルな理由
──今回の玉家質店のCM(「託された想い篇」)では、「質屋のPRとしてファンタジーアニメ」という意外性が印象的でした。どういった経緯でこの形になったのでしょう?菅野 玉家質店さんから「若い人に認知してもらいたい」というオーダーがあったので、それならファンタジーにしてみようと提案しました。日常劇にするよりは、ゲームのワンシーンを描いたようなものにしたほうが、興味を抱きやすいんじゃないかと思ったんです。
質屋って、モノを預けてお金を借りるというシステムじゃないですか。ゲームでも、自分の装備を預けて新しい装備を買うという場面は馴染み深いので、そこをフックに組み立てていきました。そのうえで、画的にはカメラをたくさん動かして壮大な映画の予告編のような感じで目を引ければと。映画を1本つくるくらいの気持ちでしたね。 ──実際、壮大な劇場版アニメの序章というか、いわゆる「いったい何がはじまるんです!?」的なワクワクする雰囲気がありました。
菅野 ちなみに今回の玉家質店の美術はいつもお世話になってる景田学さん、撮影(編注:様々な手法でシーンを印象的にする撮影処理)は『SAO』でお世話になった旭プロダクションで、撮影監督は渡辺有正さんが担当してくれました。
景田さん、渡辺さんなしでは、いい画を描いても引き立たないので、その仕事ぶりにはいつも感動しています。今回も「盛ってください」「逆光を美しくしたいんです」というオーダーを投げたら、ものすごいクオリティに仕上げていただきました(笑)。
あとは「お金に困ったときにモノを預ける」だけじゃなく、「預けたモノに愛着があるから、また迎えに行く」というメッセージは伝えたくて、セリフにも盛り込んでいます。
とはいえ、ここまで自由度高くやらせてもらえたのは、田中智也監督がきちんと日常劇の中で質屋を描いた「誕生日篇」があったからこそですね(※)。
※ジーアングルでは「託された想い篇」のほかに、女性2人の友情を描いた「誕生日篇」も制作。こちらは田中智也さんが監督している。
菅野 臨場感のあるカメラワークなどで自分らしさを出せたな、という実感はあります。ただ、これは今回のお仕事に限らず、描き終わると「こうすればよかったな」と反省が始まってしまうから難しいですね(苦笑)。
やはり近年はカメラワークの重要度が年々増してきていて、上手いアニメーターはみなさんカメラワークを突き詰めて考えています。作画+カメラワーク、そこに撮影が加わって、いまのアニメ表現の“すごさ”が形成されているように感じますね。
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SYO
映画ライター/編集者
1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、独立。映画・アニメ・ドラマを中心に、小説や漫画、音楽などエンタメ系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。映画作品の推薦コメント・劇場パンフレットの寄稿や、トークイベント・映画情報番組への出演も行う。カフェ巡りと猫をこよなく愛する。
Twitter(@SyoCinema)
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