VTuber界を牽引するにじさんじの強さ 月ノ美兎とカバーアルバムにみる文化的要因

「それゆけ!学級委員長」で届く月ノ美兎のアイマス愛

「Star!!」と「Moon!!」の違いは、歌詞にあると言える。

前者がアイドルの理想像や夢そのものを歌い上げたものだとしたら、後者はまさしく「月ノ美兎のリアリティー」に溢れている。2018年当時に彼女がさまざまに見せてしまっていた発言などが小ネタとして差し込んまれており、その違いはかなり大きい。

ここに浮かんでくる言外のイメージは、バーチャルアイドルとして夢を追いかけるアイドル性と、地味だけどサブカルに傾倒しすぎた少女性がかき混ざり、彼女だけが抱えたパーソナリティーとなって今につながっているのだ。
月ノ美兎「Moon‼」
この楽曲は2020年に入り、まさしく「にじさんじ公式認定」という形で、ファンが生み出した二次創作から、月ノ美兎の音楽として届けられることになった。

その後、彼女は1stシングル「それゆけ!学級委員長」をリリースし、メジャーデビューを果たした。「それゆけ!学級委員長」を作詞・作曲したのは、「アイドルマスター」シリーズにさまざまな楽曲を提供してきたササキトモコだ。

月ノ美兎は、ササキトモコのアイマスへの初提供曲「きゅんっ!ヴァンパイアガール」を聴いたときから彼女のファンで、ラジオまでしっかりとチェックしている。「ササキトモコさんのことは、1人の人間として大好きなんです」と語るほどだ。
「きゅんっ!ヴァンパイアガール」
彼女が配信で何度も話題にしている「死ぬまでにやりたいことリスト」の中には、「直接、ササキトモコさんに『好き』って言う」ことを挙げていたわけだが、そのアツい愛を本人にぶつけることができたようだ(外部リンク)。

「それゆけ!学級委員長」も、「Star!!」や「Moon!!」と同じような王道のポップス然としたサウンドでありながらも、ここぞ!というタイミングでそれまでには出てこなかったコードを加え、メロディラインも急展開する。

茶目っ気たっぷりに、ひねくれてみせるそのセンスと音使いに、どことなく渋谷系やラウンジミュージックの気配も感じられる。非常に小気味よいポップソングに仕上がっている。

ササキトモコ楽曲と月ノ美兎に共通する二面性

ここで一度、ササキトモコが「アイドルマスター」シリーズに提供してきたオリジナル楽曲を挙げてみよう。「きゅんっ!ヴァンパイアガール」「全力アイドル」「アタシポンコツアンドロイド」「秘密のトワレ」「フレデリカ、猫やめるよ」「おねえちゃんデスコ」「キラッ!満開スマイル」の7曲だ。

このうち「キラッ!満開スマイル」を除く6曲には「表の顔と裏の顔を持つ自分だけど、あなたから愛されたい」という願いがある。

恋する自分の少女性をひた隠しにしながら、さまざまな振る舞いで愛されようと努める姿が、どの6曲にも描かれている。つまり、二面性をもった少女がヒロインとなった楽曲であり、それは月ノ美兎にも当てはまる。
月ノ美兎「それゆけ!学級委員長」
月ノ美兎の「それゆけ!学級委員長」からもはっきりとした二面性が感じられる。「真面目で清楚 学級委員長 パブリックイメージは大切「ただし見た目と中味の乖離現象はままある 高校生じゃなさそうなS級案件もままある」という序盤の歌詞に、それらは凝縮されている。

むしろこういったササキトモコの作風が、月ノ美兎のメカニズムに大きな影響を及ぼしているようにも思えるくらいだ。

では、この曲の主題は彼女の魅力である二面性について歌ったものなのだろうか? いや実はそうではない。

メジャーデビューシングルで彼女が歌うのは、「バーチャルライバー(≒VTuber)」「アイドル(≒偶像)」として成長してきた自分自身、彼女の配信を心待ちにするリスナー、二者の手によって生まれる摩訶不思議な面白さだ。それまでに積み上げてきた配信や活動があったからこそ、こういった内容が歌えるのだ。

「夢のバーチャルアイドルへ!」と歌った「Moon!!」から、また数歩先へと成長した彼女がここにいる。その強さは、彼女がこれまでに見せたことのなかった新たな一面であり、新たなステージを告げるものになっている。

ファンとの距離の近さ、二次創作を支援するにじさんじ

ところで、月ノ美兎と「Moon!!」でうかがえるファンとの関係を見てもらえばわかるように、にじさんじにおけるバーチャルライバーと視聴者であるファンとの距離感は非常に近い。

その近さの理由としては、にじさんじを運営するいちから社が、ユーザーの二次創作などを公式支援する「にじさんじCREATORS」を展開していることにあるだろう。

ハッシュタグを推奨し、ファンの二次創作文化を称揚。ライバー本人は二次創作について言及し、むしろ本放送に使用することが非常に多いのだ。雑談の話題を視聴者から集めたり、配信中でのコメントを拾うことはもちろんのこと、動画のサムネイルに二次創作された絵を使うこともある。

つくってにじさんじ

にじさんじにおけるファン創作へのケアはそれだけにとどまらない。pixivFACTORYとの共同企画として、自分だけのグッズづくりを楽しむことができる企画「つくってにじさんじ」を開催。

ファンは新規に描かれたデザイン含めた33点の絵を、50種類以上のグッズにレイアウトし、自分の欲しいグッズとして手に入れることができた(※企画はすでに終了 外部リンク)。

ファンとの関係性という意味では、音楽についても同じことが言える。ライバーは「歌ってみた」動画で使用する音源オケと動画を、自分の手ではなくファンやクリエイターに任せることも多い。それがファンとの距離の近さはもちろん、ファンの二次創作としてのロールを果たしていると言えるだろう。

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草野虹

ライター/インタビュアー

福島、いわき、ロックの育ち。『Real Sound』『SPICE』や音楽ブログなど、様々な音楽サイトに書き手/投稿者として参加、現在はインディーミュージックサイトのindiegrabにインタビュアーとして参画中である。

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1件のコメント

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:4172)

Vtuber界を牽引してるのはホロライブだぞ。
にじさんじは既に没落してる。