VTuber界を牽引するにじさんじの強さ 月ノ美兎とカバーアルバムにみる文化的要因

にじさんじ「歌ってみた」ムーブメントがアルバムに

『Prismatic Colors』

にじさんじのバーチャルライバーによって、数々の「歌ってみた」動画が配信されてきたわけだが、「歌ってみた」系がもともと人気ジャンルであるにせよ、その盛り上がりを1つの作品として収めるほどになるとは思っていなかった。

にじさんじ初のカバーソングアルバム『Prismatic Colors』が10月28日に発売されたのだ。オリコンデイリーチャート1位を獲得し、11月9日付のウィークリーオリコンアルバムランキングでは3位を記録した。

にじさんじはこれまでにも、こういったコンピレーション形式のアルバムを発売している。
『SMASH The PAINT!!』
『にじさんじMusic MIX UP!!』
SMASH The PAINT!!』『にじさんじ Music MIX UP!!』の2枚は、2019年11月から矢継ぎ早に発表された2枚だが、それぞれ作品ではオリジナル楽曲を歌っており、同作をきっかけにして活動を広げていったバーチャルライバーも多い。

対して『Prismatic Colors』はどうか? 以前から何度か参加していたドーラ剣持刀也に、アンジュ・カトリーナリゼ・ヘルエスタ戌亥とこという“さんばか”組。

加えて、ファンの間でも「歌がうまい」と評価されている歌うまライバーが選ばれていること、逆にほとんど歌配信をしたことのないメンバーもいたり、頻度は少なくても歌動画を配信しているライバーもいて、かなり多様なメンツとなっている。
『Prismatic Colors』
パワフルに歌い上げる早瀬走、先ごろ行われた3Dモデル配信でも堂々と歌声を披露していた葉加瀬冬雪、ハイテンション&ハイトーンな歌声でキュートに歌う星川サラ、「歌ってみた」動画や配信で披露した楽曲が1000曲を超えるレヴィ・エリファ、Aimerやあいみょんを思わせるような繊細さとささくれだった刺々しさを併せ持ったメリッサ・キンレンカ、そして歌を唄えば「声楽を学んでいたんですか?」と疑われるほどのクリスタルボイスを披露する町田ちまといった女性陣に、筆者としては心躍らされてしまう。

ライバーの嗜好性から見えるネットカルチャーの変遷

『Prismatic Colors』では、こういった企画には必須であろうアニソンの名曲は「ゆずれない願い」と「残酷な天使のテーゼ」「カサブタ」の3曲のみ。そのほかは、ニコニコ動画やYouTubeを通して活躍の場を広げていったクリエイターたちが、ここ10年でリリースした比較的若い楽曲が中心になっているのが、今作の注目すべき点だろう。

40mPEveCHiCO with HoneyWorksナユタン星人kz、EGOISTとsupercellを率いているryoといったクリエイター陣はいうに及ばず、卯月コウの唄う「再会」は、北海道札幌出身のクリエイター・はるまきごはんが手がけた楽曲で、ドーラが唄う「Gimme×Gimme」は八王子P×Gigaによる楽曲。どちらも2019年に公開された楽曲だ。 10年近く前から現在に至るまでの、ネット出身クリエイターが大きな軸となったカバーソングアルバムである『Prismatic Colors』だが、ある程度の狙いがあって企画制作されたものではなく、ライバー個々人の嗜好性から生まれてきたことに意義がある。

ニコニコ生放送を起点にした配信放送の文化、そして、そこで展開された「雑談」「○○実況」「歌ってみた」「踊ってみた」などの多岐にわたるジャンル。

それらは、配信者本人をアニメーションタッチでつくれられた人物絵や3Dモーションキャプチャーで動かせるようになったことで、これまで妄想の類のようであったバーチャル世界としても表現できるようになった。

そんなバーチャルライバー(≒VTuber)が、「歌ってみた」動画の集大成のようなカバーアルバムを生み出した。この作品には、ここ10年間のネットカルチャーの道のりが見えてくる。10年前ではありえない、まさに2020年の今だからこそ生まれた作品として、非常に深い意味を持っているように感じるのだ。

バーチャルな存在たちの言葉

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草野虹

ライター/インタビュアー

福島、いわき、ロックの育ち。『Real Sound』『SPICE』や音楽ブログなど、様々な音楽サイトに書き手/投稿者として参加、現在はインディーミュージックサイトのindiegrabにインタビュアーとして参画中である。

Twitter/note

1件のコメント

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:4172)

Vtuber界を牽引してるのはホロライブだぞ。
にじさんじは既に没落してる。

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