狂気の産物? 中世写本? はたまたブッダか? 野性爆弾くっきー!のアートを専門家がガチ考察

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池上英洋「これは明らかに中世写本」

次にわれわれがお話を伺ったのは、『西洋美術史入門』などの著書を持つ、東京造形大学教授、池上英洋先生だ。西洋美術史学者の目には、くっきー!氏の作風はどのように映るのだろうか。

「ゴッホだろうがピカソだろうが、ゼロから新たな様式をつくることはもうできません。なんらかのベースを持った上で自分独自のものを仕立て上げることになります。だから、僕たち美術史学者はそういった様式の繋がりを見てしまいます。

これはもう職業病なんですが、そういう観点で見ますと、くっきー!さんの様式は古代・中世キリスト教美術を思い起こさせます

古代!? 中世!???

「具体的には、モザイクやステンドグラスですね。まずはこちらを御覧ください」

Mosaic of Theodora - Basilica of San Vitale (built A.D. 547), Italy. UNESCO World heritage site. Via Wikipedia CC BY-SA 4.0

This is a picture of the hessian Kulturdenkmal (cultural monument) with the ID Via Wikipedia CC BY-SA 3.0

「くっきー!さんの作風には、それらと同じように、強い輪郭線で画面を区切って、原色を置く視覚的特徴があります」

なるほど……??

モザイクやステンドグラスも細かい造型というよりは大まかに表情をつくるし、原色ゆえにドギツイ印象を受ける。確かに通じるものがあるかもしれない……。

また、池上先生はくっきー!氏の描いた背景デザインにも注目する。

「指を使って文字をつくっていますが、身体のパーツを使って美術をつくるという点では、カプチン会の骸骨寺を想起させます」

カプチン会?? 骸骨寺???

「骸骨寺」ことSanta Maria della Concezione dei Cappuccini Via Wikipedia CC BY-SA 3.0

「こちらが骸骨寺です。修道院のお墓なんですが、修道士の遺骨をただ埋葬するのではなく、見ての通りデザインしているんですね。おどろおどろしくも美しい装飾を骨でつくっている。……それと、こちらの目ですが」

「この目はEx votoを思わせます」

エクスヴォートー!???

「Ex-voto」 Via Wikipedia CC BY-SA 3.0

「この吊り下げられてるの分かります? 人間の頭とか足とかのパーツを蝋型や木型でつくって奉納してるんです。

キリスト教の信仰で、例えば片腕を無くしたら、木型で腕をつくって、復活しますようにと祈って奉納するんです。Ex votoは、その奉納品のこと。

昔は麦の穂で目を突いて失明する人も多かったので、目の蝋型をズラッとぶら下げている寺院もあります。当時の人達は大真面目だったと思うけど、現代人が見たら相当にグロい」

背景画面から骸骨寺やEx votoを想起した池上先生。われわれはさらに一歩進んで、実際のゲーム画面を池上先生に見てもらった。 すると、先生は一目見た瞬間に即答し、断言した。

「これは僕たち(西洋美術史学者)にとっては中世写本ですね」

モンストが中世写本!?? い、一体、どういうことなのか!??

「こちらの写本を御覧ください」

ロチェスター聖書 Via Wikipedia

「中世の写本は、印刷がないので当然手書きだったのですが、最初頭文字だけは大きく書いて、そこに動植物文様の装飾を付け、リボン状のもので空間を埋め尽くんです。だから、これも『P』なんですけど」

Pだ

「強い輪郭、原色、装飾模様、おどろおどろしさ……うん、これはもう中世写本です。もちろん、くっきー!さんがex votoや中世写本を知っていて、それを参考にしたという可能性は低いでしょう。ただ、われわれのベースには西洋由来の文化が混ざってますから……」

と、池上先生は言う。確かに、こういった諸々の様式が、直接的にせよ間接的にせよ、何らかの形でくっきー!氏のアートワークに影響を与えている可能性は考えられる。

邪悪なものに頼る、それが古来からの人間の心性

さて、ここでわれわれは疑問の核心に迫ろう。なぜ、くっきー!氏の怪物的・地獄的アートワークは人を魅了する力を併せ持つのか? それを尋ねると、池上先生は西洋におけるこのようなエピソードを紹介してくれた。

「凶悪犯が処刑されるじゃないですか。すると、近所の主婦がですね、夜に主婦業の一環として、犯人の死体から歯を引っこ抜いて帰るんです。そして、それを玄関の外に飾るんです」

えっ……猟奇的行為……。そ、それに一体、何の意味が??

「死体は、生前の力を保っていると考えられたんです。凶悪犯の歯にも、まだ悪い霊が宿っている。それを玄関に飾ることで、より悪い霊の侵入を防いでるんです。毒をもって毒を制する発想で、鬼瓦や狛犬なども同じ理屈です。このようにわれわれには、悪いもの、邪悪なものに頼ろうとする精神性があるんです」

確かに、言われてみれば、大長編ドラえもんでは邪悪存在であるジャイアンがとても頼もしく見えるものだ。われわれは心の奥底で、悪に対抗するための邪悪な力を渇望しているのかもしれない……。

まとめ

人間の心性には、悪に対抗するために邪悪な力に頼ろうとする傾向がある。くっきー!氏の怪物的図像に惹かれる原因の一つかもしれない。

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イラストレーター

佐賀県出身、ポップなイラストに詩を添えるスタイル…〈イラストライター〉として十代の時にデビュー その後、音楽活動(19のメンバーとして)やオモチャのデザイン、絵本やエッセイや作品集の執筆やTVやラジオの番組の司会やアニメの製作や学校の先生など、その活動は多岐に渡る 著書には[いつもみてるよ、がんばってるのしってるよ][やさしいあくま][恋に殺されそう…。]など多数。 最近は昔からのゲーム好きがこうじてゲーム作家としても活躍中。 大の漫画好きなので漫画やアニメの原作を執筆中でもある 明るいオタク。社交的な引きこもり。仕事中毒。

最新ゲーム:https://www.amazon.co.jp/dp/B08C5T5B2S
最新絵本:https://www.amazon.co.jp/dp/4344036107

池上英洋

美術史家

東京造形大学教授。専門はイタリアを中心とした西洋美術史・文化史。著書に『ルネサンス 歴史と芸術の物語』や『死と復活 「狂気の母」の図像から読むキリスト教』など。

稲田ズイキ

僧侶

京都のお寺で副住職をつとめる。ライター・編集者でもある。「フリースタイルな僧侶たち」編集長。

Twitter:https://twitter.com/andymizuki

架神恭介

作家・ライター

作家、ライター、漫画原作者、ゲームデザイナー。早稲田大学第一文学部卒。主な著書、作品に『戦闘破壊学園ダンゲロス』『完全教祖マニュアル』『仁義なきキリスト教史』『ダンジョン&ダンゲロス』など。

ダンゲロスのボードゲーム:https://www.amazon.co.jp/dp/B07RZS5VYK

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