JUN INAGAWAインタビュー ストリートとオタクの交差路に立つイラストレーター

帰国後にアキバで感じた違和感と“大成功”した個展

初の単独個展「魔法少女DESTROYERS(萌)」

──2018年9月、個展への参加を理由に、ほぼ1年ぶりに帰国したわけですが、日本での自身の捉えられ方をどのように感じました?

JUN すでにアメリカで「JUN INAGAWA」という名前をブランディングできてたので、逆輸入みたいな形でフックアップされました。

最初は結構いい気でいたんですよ。意外と自分の名前が知られていて、メディアにも名前が載って。まあ19歳でメディアに持ち上げられたら、誰だって喜びますよ。俺もちょっとトラップを聞いてみたり、渋谷VISIONに行ってみたりしました(笑)。

──ちょっと調子にのってしまったような?

JUN そうですね、イケイケな感じでした。そんなある日、ふと気づいたら秋葉原に足を運んでたんです。もともと中学生の頃からアキバは、オタクである自分にとって「ホーム」だったから、漫画を描いてる頃とかもよく行ってました。

行くとなんか安心するし、駅を降りたら「今日はどのルートで(ショップを)攻めるか」みたいなことを考えながら歩くのが楽しかったです。

ホームだから、当時は街にいる人達も仲間だな、と思って歩いてたんです。でも久々にアキバに降りたら、なんか「アウェイだな……」と感じて。「あれ、ここどこだっけ?」みたいな。もともとオタクだし、好きな作品もたくさんあるのに、久しぶりに行ったらすごい違和感を感じたんです。

年明けの3月に、渋谷で個展を開くことになっていました。個展には「二次元排除法により排除されたオタク文化を取り戻すべく、魔法少女たちが戦う」みたいなストーリーラインがあったので、下見もかねてその後も何回かアキバに行ったんですけど、違和感の正体はずっとわからないままでした

「魔法少女DESTROYERS(萌)」

──違和感に戸惑う中で、2019年3月からDIESEL ART GALLERYで初の単独個展がスタートしました。

JUN すごい気合を入れて「魔法少女DESTROYERS(萌)」(外部リンク)という個展を開きました。初日にレセプションパーティがあって、ファッション業界のすごい人や著名な人がたくさん来てくれて、声もかけてくれて、めちゃくちゃ嬉しかったしありがたかったです。

だけど「……ちょっと違うな?」と思っちゃったんですよ。

もちろん大成功で嬉しかったんですけど「ちょっとこれは俺が求めてるのと違うかもしれない」「本当に俺がやりたかったことなのかな」って思ったんです。

DIESELさんにはすごいお世話になったし、大成功して嬉しかったんですけど、なんかモヤモヤして。それでどうしようもなくなって、展示が終わった夜にカラオケに行って全力で「もってけ!セーラーふく」(※アニメ『らき☆すた』のOP主題歌)を歌ったんです。

「オタクに認められない、オタクの敵になっちゃう」

2回目の個展として秋葉原で開催した「fukurotoji」

──モヤモヤに対する解決方法が古風というかフィジカル重視ですね。

JUN 音楽が好きなんで(笑)。その直後、個展にまつわるインタビューがいろんなメディアにバーンと出たんです。一気に5媒体ぐらいかな。

ストリートと萌えをつないだオタクの革命児!」みたいな感じで取り上げられて。しかもこれは皮肉でもなんでもなく、ありがたいことにめっちゃ“盛って”くれていて。それを見てたらやっぱり「いや〜違うな〜」って。

たしかにインタビューは自分が答えたものだし、ストリートカルチャーも漫画も大好きだけど、そうやって見られたかったわけではないというか……。

例えばですけど、俺が好きなのは、アニメオタクとヒップホップのマニアが出会って、「お前ら誰だよ!」とか言ってケンカして、お互いボコボコになったあとでガシっと握手して「お前のことは好きにならねえけど、お前らもカッコいいな!」って、互いの好きなものについては認め合う、みたいな……。

──本宮ひろ志作品にあるような世界観ですね。

JUN でも実際は、極端に言うと「萌えとストリート仲良しこよし! それを牽引してるのがJUN INAGAWA〜!」みたいな見え方になっちゃっている気がして。

それは正しくないっていうか、俺はもともとオタクだし、オタクって基本的に「そっとしておいてほしい」じゃないですか。

ストリートカルチャーに染まる前の俺が、ネットでこのときのJUN INAGAWAを知ったら絶対嫌いになっただろうし、「何がストリートだ、余計なことしないで放っといてくれ」って感じたと思う。

自分も本来はそういう気持ちなのに、メディアに映る俺は逆の姿で、「これを続けていくのはまずいぞ」と。漫画家を目指してるのにこんな見え方じゃ、オタクに認められない、オタクの敵になっちゃうなって思ったんです。

「fukurotoji」

──アキバに行ったときに感じた違和感の正体が、個展を通じて具体的に見えてきたということですか?

JUN そうです。「オタクを軽薄に扱ってる」みたいな見え方になってて、そのイメージを変えるためにはどうすればいいかなと思いました。それもあって、7月に秋葉原のDUB GALLERYで2回目の個展「fukurotoji」(外部リンク)を開催したんです。

「袋とじ」って、開けてみるまで中身がわからないじゃないですか。見に来る人にカルチャーをdigる探究心を持ってほしかったから、住所も伏せて「アキバでやってるよ」ってことだけSNSに書きました。

前回と違って、本当に来たい人、本当に好きな人しか来られない形でやったんです。前回の個展で描いた世界の2年後を扱って、会場にキャラクターたちのアジトをつくったんですけど、見に来た人は俺のアジトの一員になってもらえたら嬉しいなとも思って。

──開催場所は秋葉原らしい雑居ビルのワンフロア。入場するにも現地に行って、ビルの入口で電話しないと入れないという仕様でしたね。

JUN 一見するとだいぶ不親切ですよね(笑)。結果的に、前回DIESELでやったときは6000人来たんですけど、「fukurotoji」は200人でした。200人、俺のことを本当に好きな人が来てくれたんだと思ってます。

みんなコソっと見に来て、コソッとグッズを買って帰っていく。そんな光景を見てたら「俺がまんだらけ行くときと一緒だな」って思いました。アキバのまんだらけ(まんだらけコンプレックス)は建物が真っ黒で秘密基地っぽくて憧れてたんですけど、その憧れに近づくことができた。

「fukurotoji」

好きな街で個展ができたし、今後の活動にも自信が持てたことで、やっと秋葉原に抱いてた違和感もなくなりました。

ただ、そのタイミングでKAI-YOUさんの取材を受けたんですけど、最初にもちょっと触れた通り、なぜか自分で読んでもびっくりするぐらい尖ったイメージになっちゃって、いろんな反響がありました(笑)。

──どんな反響がありましたか?

JUN すごい二極化してました。カンペキに賛否両論。ポップカルチャーが好きな人は絶賛してくれたんですけど、オタクの人たちからは「なんだこいつは!」みたいな反応もありました。

結構傷ついた面もあったんですけど、そのインタビューを読んでくれた人から次の仕事の提案をもらったりもしていたので、批判をもらうと同時にチャンスなんだな、とも思えました。

後編はこちら

異なるカルチャーが交わる場所

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