アバターを着ての配信機能「エモモ」や、エモモを通じてのカラオケ配信「エモカラ」といったVTuberブームから連なるアバター文化を加速させる機能を持つ配信プラットフォームMirrativは、VTuberブームより遥かに遡り、2015年からサービスを開始している。
スマホの画面をそのまま配信することができ、スマホゲームの実況配信に最適化されたプラットフォームとして人気を博したが、顔を出さずに配信する文化があったため2017年末のVTuberブーム以降はその相性の良さからVTuberカルチャーとも関係を深めていく。
2018年4月にはDeNAから独立。8月には独自のアバター配信サービス「エモモ」を実装し、ユーザー規模は他のゲーム実況メディア・ゲーム実況アプリを大きく上回っているが、運営する株式会社ミラティブを率いる赤川隼一さんはMirrativを「ゲーム実況メディアとは思っていない」と語る。
では一体なんなのか。23歳にしてMirrativ内でカラオケができる機能「エモカラ」のプロダクトマネージャーをつとめる河原崎大宗さんを含めたメンバー全員に共有されているビジョンは「SNSの次」。TwitterやInstagramを過去にするコミュニケーションサービスの創造である。
一見して大仰な目標だが、これまでの事業に連なる現実的な筋道としての未来を描く二人に一切の驕りはなく、その目は真剣だ。
今回は独立から1年半を迎え、VTuberシーンと密接な関係を持ちながらも独特の距離感を保ち、その上で他を圧倒する規模感で展開するMirrativのこれまでの歩みと、「わかりあう願いをつなごう」とミッションを掲げて挑む未来について語ってもらった。
取材・文:オグマ フミヤ 撮影・編集:吉谷篤樹
赤川 TwitchがAmazonに買収された時に、ユーザーが毎月1億人いると発表していたのですが、スマホの普及具合から考えるとPCゲームよりスマホゲームで遊ぶ人の方が多いはずですよね。なのでスマホでのゲーム配信にも需要はあるなと思っていました。 Mirrativのコンセプトは「友達の家でドラクエやってる感じ」なんです。友達の家に集まってドラクエをやる時って、プレイヤー以外はずっと画面を見てるわけではなく、後ろで漫画読んでますけど、ボスの時だけテレビの前に集まるみたいな流れがあって、一人用のタイトルなのにみんなで一緒に楽しむことができた。
そういう友達同士の空間をスマホ上で再現するのが目標で、ゲーム配信のプラットフォームというよりは、Twitterの次に続くような新たなコミュニケーションのサービスをつくるつもりで開発しています。
「ガチャを回してSSRが出た!」みたいなスクショを上げる人がたくさんいるように、今でもスマホのゲームとTwitterの相性はいいですよね。
Twitterはそういうゲームにおける興奮を共有する場になっていると思うんですが、スクショを上げるだけでなくて、やがてはゲームをやっている時間全て、ひいてはスマホを触ってる時間全てをMirrativで配信するのが当たり前になるような、新しいコミュニケーションの在り方を提示していきたいんです。
──現状では主なユーザー層はスマホゲームのメイン層と重なっているのでしょうか?
赤川 スマホゲームもヘビーユーザーは30歳以上になっているのかなという感覚はあるのですが、実態としてMirrativのユーザーさんはもっと若いです。
配信したり、ネット上でコミュニケーションするという新しい文化のキャッチアップは若者の方が早いんでしょうね、実際の数字でいうと25歳以下の層が6割以上を占めています。
──視聴者としてではなく、配信者として楽しむユーザーにとっては、Mirrativの強みはどこにあるのでしょうか?
赤川 Mirrativの強みはなんといっても誰でも配信ができる簡単さにあります。それは技術的な意味合いに加えて、精神的な意味でもです。
たとえばYouTubeやTwitchでゲーム配信をしようとすると、PCなど機材の準備が必要ですし、プレイが上手じゃないと配信しちゃダメみたいな風潮もあり、流行の一方で配信することのハードルが高くなっていると思います。
しかし、Mirrativはプラットフォームとして「友達の家でドラクエをする」感覚を大切にしているので、上手なプレイを見せるというよりは、ただ友達と喋りながらゲームをする感覚で配信をすることができます。その敷居の低さは、他のサービスとの決定的な違いですし、勝算になると考えています。
──誰でもかんたんに配信ができるというハードルの低さが故に、配信者と視聴者の境がなく、単純なファンダムの規模で見ると他の配信プラットホームに比べて小さくなっている印象も受けました。
赤川 ファンダムを規模で語るのは2000年代のパラダイムだとも思ったりもします。現代においては、熱量が上がりやすい小さなコミュニティにこそ価値があると考えています。
超人気アイドルをさいたまスーパーアリーナで見ることよりも、地下アイドルを手が届くような近さで見る方が楽しいという人たちがいるように、認識してもらえる距離感で一緒に世界観をつくっていくことには、代えがたい熱量があると思っているんです。
その熱量が一番高い場所って、サークルとか部活のような、気の知れた友人たちが揃ってハイコンテクストの嵐みたいなコミュニケーションが行われているコミュニティだと思います。
Mirrativではそんな熱いコミュニティの形成を目指しているので、1つ1つの配信の規模はむしろ小さいと盛り上がるように設計しています。 しかし、どれだけ簡単に配信できるといっても、誰も見にこなかったら面白くないですし、またやろうとは思えないですよね。そうならないように、配信が見られやすいアルゴリズムを構成するなどの工夫はもちろん行っています。
なんといっても配信した時に、同じゲームを好きな人たちが見にきてくれたり、コメントをもらうなどのコミュニケーションができた瞬間の喜びがMirrativの価値だと思っているので、その可能性をより高めることは大事にしています。
最新のデータではMirrativで15分配信すると、ほぼ全ての人にコメントがつくなどのなにかしらのコミュニケーションが生まれています。これを実際に体験するとしないでは大きく違うので、ぜひ皆さんにも気軽に配信してみてほしいですね。
赤川 たとえば産業革命の後には餓死や病死はどんどん減りましたが、現代になっても自殺や孤独死はなくなりませんし、同じ民族同士での戦争もいまだに行われています。
色んな問題がテクノロジーによって解決されてきましたが、未だに解決されない「人間同士がわかりあう」ということは人類に残された大きな課題であり、会社としても挑む価値があるものだと考えて「わかりあう願いをつなごう」をミッションに掲げました。
これは決して誰もがわかりあえるという意味ではないんです。あらゆるコミュニケーションというものには、表層的なものに加えて、なにかしら発信者の願いがこもっていると思っていて、その願いが届かない状況を無くし、同じ考えを持つ人同士をつなげたい。
現在はまさに分断の時代とも言え、あらゆるところに様々な格差が生まれています。しかし、立場上は隔絶している人たちでも、同じ場所に集まって話してみると案外わかりあえるというのもまた確かなんです。
同じ場所に集まるということは、リアルに限ったことではありません。今後5Gなどの通信技術の発達を含めたテクノロジーの力によって、人と人をもっと近づけることは可能になっていくと考えていて、そうすれば今よりもっと人のわかりあう願いはつながると思っています。
──その信念を築く背景には、赤川さん自身の原体験もあるのでしょうか?
赤川 僕自身の原体験はテレホーダイの時代にやっていたチャットでした。昔は23時にならないとネットが使い放題にならなかったので、23時になると顔を知らない人同士がチャットルームに集まってチャットをしていたんです。好きなゲームのホームページを作って大会を開いたりもしていました。
チャットでは、音楽オタクだったので音楽の話を毎晩していたのですが、知らない大人が僕の知らない音楽を教えてくれる体験は刺激的で、今なら教えてもらった曲をすぐに聞けますが、当時は翌日の昼食抜いて中古CD屋にいって探さないといけませんでした。 しかし、そうして今度は聞いた感想を伝えると、教えてくれた人も喜んでくれて、これはまさしくわかりあう願いがつながった原体験でした。
その頃できた友達の中にはたまたまアジカンのゴッチくん(後藤正文さん)がいて、いまだに友達ですしフジロックでだけ毎年会って乾杯したりする友達もたくさんいるんです。
当時の23時からしか繋がらない状態でも、インターネットを通じて音楽が好きという点でわかりあう願いがつながって、人生の可能性が広がったように今のテクノロジーでならもっとすごいことができると信じています。
──原体験に基づく確かなビジョンは個人にとって強固な一方で、それゆえに他の人との共有が難しいのではとも思うのですが、チーム内でのマインドの共有はどのように行っているのでしょう?
赤川 一見曖昧な価値観を共有する為にはなにより言い続けることが重要だと考えています。
ミラティブは「エモい会社」と内外から言われることが多いのですが、「エモい」という言葉ひとつとっても、人によって解釈は違いますよね。僕にとっての「エモい」は、パワーポップから繋がるパンクロックやエモバンドの流れを指したりもするのですが、今のみんなが言う「エモい」にはそのニュアンスは含まれていなくて、僕の大好きなThe Get Up kidsの話なんか誰もしていない(笑)。
使われるワードは「エモい」でも「情緒的」でも「いとおかし」でもいいんですが、要は心が動かされることって大事だよね、自分たちもユーザーさんも心が動くような仕事をしていきたいよね、という価値観がみんなにあることが大事だと思っています。
赤川 影響はもちろん受けていますが、「流行りもんだ!乗っかれ!」というよりは、哲学や元々の文化とのフィットがあったのがポイントでした。
日本ではゲーム実況をするにしても顔を出したくないという思いが欧米に比べて強いのですが、かといってなにもないと画面が殺風景になるのもよくないと思う人が多くいて、そこに空白をアバターで埋めるというアイデアが綺麗にハマったのだと思います。
アバターを通じた自己表現は大きな流れだとも思っていたので、「エモモ」を通じて新たなタレントやスターをつくりたいということではなく、誰もが複数のアバターを持つ時代に少しでも近づければいいと思いました。
──REALITYなどアバターで配信できるプラットフォームは他にもありますが、Mirrativはアバターの使用が強制ではないところも特徴的です。使用率なども含めた「エモモ」実装の反響はいかがでしたか?
赤川 「エモモ」を使ってアバターの状態で配信している人の数でいうと、Mirrativは他の配信プラットフォームのおそらく数十倍の規模なので、世界一のアバター配信サービスと言えます。
とはいえ、「エモモ」でVTuberになりたいと思って使われているのが主な用途ではないと思っています。
あくまでコミュニケーションのツールとして「エモモ」を楽しんでもらえている感覚です。
──2019年5月には「エモモ」を通じてカラオケ配信ができる機能「エモカラ」が実装されました。これまでは「友達の家でドラクエやってる感じ」をコンセプトとし、ゲーム実況にフォーカスしてサービスを展開してきた中で、なぜカラオケ配信機能を実装することになったのでしょう?
河原崎 以前からMirrativではアカペラや弾き語りなど、歌を歌う配信をしていた人がいたので、そこから着想を得ました。 「エモモ」によって、顔を出すことに抵抗がある人でも気軽にゲーム配信ができるようになったように、歌う配信も気軽にできるようにしてあげたいと思ったんです。
赤川 仲良くなるきっかけがゲームでも、友達になったら別のことで遊ぶのは普通ですし、例えば、初回のデートは気合いを入れてプランを立てるけど、付き合って2ヶ月くらい経つと適当になるように、重視する点が「なにをするか」から、「一緒にいること」に変わることってありますよね。
それと同じように、Mirrativでも最初はゲーム配信をしていたけど、仲のいい友達関係になり雑談配信をするというケースが増えてきていました。
雑談だったら他のプラットフォームでもいいのでは?と思いもしたんですが、Mirrativで仲良くなった人たちと、Mirrativにおいての自分としてコミュニケーションをすることに価値があると思ったんですよ。
その流れと同じように、ゲームで仲良くなった仲間とカラオケにいくような流れを再現したのが「エモカラ」です。 あるユーザーさんには、「Mirrativは放課後を再現しているんですか?」と言われたことがあるのですが、ゲーム、雑談、カラオケと、確かに構造としてはそうかもしれないなぁと思ったりします。
──中国を中心に海外ではカラオケアプリは大きな流行をみせていますが、「エモカラ」の実装にはその影響もあったのでしょうか?
赤川 中国での流行はもちろん察知していました。歌うことが好きで歌唱力にも自信があるけど容姿には自信がない人ってたくさんいると思うんです。グローバルに目を向けるとさらに広がる可能性があると思います。
Mirrativのグローバルへの展開はリリース当初から考えていたことなので、これからも徐々に進めていきますが、アバターを着ることで生身の自分とは違う形で認められるという体験をもっと大きな規模で得られるようにしていきたいですね。
──現状ではイヤホンをつけたままでは歌えないなど、ハード面の制約を感じる部分もありますが、今後は「エモカラ」をどのように発展させる計画なのでしょう?
赤川 歌詞がちゃんと音楽と共に流れるようにしたり、いかに気持ちよく歌ってもらえるかを意識した機能の実装は行っていて、まだまだ改善ポイントはたくさんある状態です。インパクトのある面白い体験はつくれているとは思いますが。
河原崎 ユーザーさんから「もっとこうしてほしい」という要望はたくさんいただいています。リリース当初は機能をコアなものに絞っていましたが、カラオケならではの必須機能もまだまだありますし、その実現は着々とやっていくつもりです。
赤川 合いの手入れたり、視聴者さんと配信者さんでデュエットとかしたいよね。
河原崎 そうですね。カラオケで行われるコミュニケーションってまさにそういうものですから。
赤川 Mirrativでは「ミラティブQ」というライブクイズ配信をやっていて、2018年1月というかなり早い段階でときのそらちゃんに司会をやってもらったりもしたのですが、その前はぬいぐるみを使って、僕が司会をやっていました。
ただうさぎのぬいぐるみを映して「ねほりんぱほりん」や「サンダーバード」みたいに動かしながら司会しただけだったんですが、叫んだりはしゃいだりと生身の時より無茶苦茶なことができて、アバターを通じた自己解放の可能性を肌で感じることができたんです。
その後、ときのそらちゃんに司会をやってもらったのですが、VTuberブームもきていなければライブクイズ自体日本にはまだなかったタイミングで、こんなぶっとんだことができて最高だなと思っていたところにでてきたのが「にじさんじ」でした。
そもそも当時はスマホだけで配信できるプラットフォームがMirrativしかなかったんです。「にじさんじ」の初期メンバーは運営からiPhoneを貰って、その他の環境については自分で整えなくてはいけなかったので、PCなどを揃える前の活動の場所としてMirrativを選んでくれていました。もちろん発表を見てすぐ声をかけにいったのですが、彼らが自然とMirrativを選んでくれたのはとても嬉しかったです。
──VTuberのブームの要因や、カルチャーとしての強みはどのように分析されていますか?
赤川 容姿によってとらわれていた才能たちがVTuberを通じて解放されたのが、ブームの最初期における爆発でした。その熱狂の中でいくつものミームか生まれ、それによって構成されたハイコンテクストがさらに熱を呼び、前代未聞のムーブメントとして盛り上がったんだと思います。
「私で隠さなきゃ」(*1)なんて、意味がわからない人にはマジで面白さが伝わらないと思いますが、それゆえの密室感がさらに熱を高めていったんでしょうね。
(*1:過去にVTuber・月ノ美兎さんが自身のゲーム実況配信で表示されてしまった不適切な映像を配信画面の隅に表示されていた自身のアイコンで隠した際に言った言葉。のちにVTuberが似たような状況に陥りそうになった時に使われるようになった。)
あとは、ニコニコ動画以降久しく現れていなかった、ユーザーからの発信を中心としたよりインターネット的なものとして歓迎されたのも大きな要因だと思います。
河原崎 VTuberはまだ一部の人のものという認識ですが、やがてはアバター文化としてもっと一般的になるでしょうしTwitterで複数アカウントを持つようにアバターを使い分ける時代もくると思います。
赤川 アカウントやアバターという形に限らずとも、人格の使い分けってすでに日常的ですよね。
今回みたいに写真つきで話すときの僕は、会社の代表として変なこと言えないと気をつかいますが、フジロックでの僕は泥酔してるだけのただの酔っぱらいです。
子どもと喋るときは赤ちゃん言葉になりますし、言動まで変わるほどのキャラクターの使い分けは誰しもやっていることです。でも、人は知らず知らずのうちに、自らを役割や歴史などに縛りつけてもいきます。
非現実な世界でアバターを着ることは、先程述べたリアルな世界での人格の使い分け以上の変化をもたらすので、普段の役割やキャラクターといったものから解放されることで、発揮される新たな才能もあるでしょう。
河原崎 多くの人にとって好きなことを好きなだけ言えるコミュニティはリアルのコミュニティだけでなく、SNS上にもあるのではないでしょうか。 現在はTwitterといったSNSが中心ですが、やがては匿名性を持ちながらも、テキストや画像以上の情報量を共有できるプラットフォームができて、新たな自己解放の場となると思います。
赤川 インターネットの中くらい、息苦しくない方がいいもんね。
河原崎 めっちゃまとめるじゃないですか(笑)。
──ブーム以降は配信プラットフォームも一気に数を増やしました。それらのサービスの隆盛は、Mirrativにも影響を及ぼしているのでしょうか?
赤川 アバターによる配信が定着したのは、VTuber業界の盛り上がりによる影響が大きいので、配信プラットフォームや文化圏ができたことはMirrativにとっても嬉しいことです。
とはいえまだオタクのためものだと思われている側面はあるので、より一般に浸透していく必要はあるのですが、それを目指すプレイヤーが多いことはやはり良いことです。それぞれのプラットフォームが大事にしている価値観は違いがあると思いますが、やがて誰もがアバターを複数持つことが当たり前になる時代を目指す我々としては、市場の活性化はポジティブな要因ですね。
──数は増える一方で、はやくも終了したり、低調を脱しきれないサービスもあります。長く続くものとそうでないものには、どのような違いがあるのでしょう?
赤川 ブームだから始めたというサービスは、ブームが終わったら辞めてしまうでしょうし、儲かると思った人も儲からなかったらすぐに撤退してしまうんだと思います。
哲学を持ってユーザーさんに向き合っているかどうかが重要で、その他の要因に左右されずに地道に運営を続けるサービスが結果として生き残っていくんでしょうね。
赤川 2017年末のブームから、これはすごいぞと感じた人達が集まって、VTuberそのものや関連したサービスが山のように出てきましたが、その反動で撤退や各種トラブルも多く出てきました。そうして今はこの文化の可能性を感じている人や、それすら気にせず純粋にVTuberがすごい好きという人が、バイアスに惑わされずシーンを作り上げていると思います。
新しい才能も出てきていますし、本当にやりたい人や好きな人が活躍できる健全な状態ではあるのですが、一方でまだまだカルチャー全体のイメージとしてオタクっぽさはあるので、そこはもっと一般層へ広がっていくとも思いますね。 すでに皆が当たり前にやっているSNOWでの"盛る"ってアバター的な発想ですし、もっと近いものではZEPETOなどもあって、一般層とそこまで隔絶しているわけではないのでまだまだ可能性はあると思います。一般層まで広げるための取組は我々もしかけていきたいです。
世界的に成功しているARのアプリってポケモンGOとSNOWだと思うんですが、ユーザーは誰もARアプリだとは認識していませんよね。アバター文化もそうとして強く意識されない形で、自然に受け入れられていくのが理想的だと思います。
──そうしたVTuberシーンの現状や、世界的な流れを踏まえて、Mirrativとしては具体的に今後はどのような展望を描いていらっしゃるのでしょうか?
河原崎 コミュニケーションの場としての形を保ちつつ、配信サービスとしても成立させているサービスはMirrativしかないと思っています。ユーザーさんに対しての配信者比率も高く、新しいコミュニケーションの形を提供できているとは思うのですが、まだまだやらねばならないことがたくさんあることも事実です。
今後も「人類の可能性を解放する」為にはMirrativにどういう機能が必要なのかを考え続け、一つずつ実現していきたいです。
赤川 Googleが動画とゲームの融合に取り組んでいたり、フジロックのKOHHのステージでやっていたようなリアルとARが重なる演出など、エンターテイメントの境界が溶けてどんどん混ざっているという大きな流れを感じています。
それは意義深いことであると同時に面白い流れでもあって、アバター文化の題目である現実と仮想の融合もこれからどんどん加速していくと思います。
そんな時代の潮流を感じつつも、我々は「わかりあう願いをつなごう」という理念を大事に、人と人がつながる場を提供し続けていきたいです。
スマホの画面をそのまま配信することができ、スマホゲームの実況配信に最適化されたプラットフォームとして人気を博したが、顔を出さずに配信する文化があったため2017年末のVTuberブーム以降はその相性の良さからVTuberカルチャーとも関係を深めていく。
2018年4月にはDeNAから独立。8月には独自のアバター配信サービス「エモモ」を実装し、ユーザー規模は他のゲーム実況メディア・ゲーム実況アプリを大きく上回っているが、運営する株式会社ミラティブを率いる赤川隼一さんはMirrativを「ゲーム実況メディアとは思っていない」と語る。
では一体なんなのか。23歳にしてMirrativ内でカラオケができる機能「エモカラ」のプロダクトマネージャーをつとめる河原崎大宗さんを含めたメンバー全員に共有されているビジョンは「SNSの次」。TwitterやInstagramを過去にするコミュニケーションサービスの創造である。
一見して大仰な目標だが、これまでの事業に連なる現実的な筋道としての未来を描く二人に一切の驕りはなく、その目は真剣だ。
今回は独立から1年半を迎え、VTuberシーンと密接な関係を持ちながらも独特の距離感を保ち、その上で他を圧倒する規模感で展開するMirrativのこれまでの歩みと、「わかりあう願いをつなごう」とミッションを掲げて挑む未来について語ってもらった。
取材・文:オグマ フミヤ 撮影・編集:吉谷篤樹
「広く浅く」より「狭く深く」
──国内でもゲーム配信者やストリーマーなどが数を増やしてきましたが、主な配信タイトルがPCゲームやコンシューマーに集中している中で、Mirrativはスマートフォンのアプリゲームに特化したサービスを展開しています。そもそもスマートフォンでのゲーム配信にどのような価値を感じて事業をスタートさせたのでしょうか?赤川 TwitchがAmazonに買収された時に、ユーザーが毎月1億人いると発表していたのですが、スマホの普及具合から考えるとPCゲームよりスマホゲームで遊ぶ人の方が多いはずですよね。なのでスマホでのゲーム配信にも需要はあるなと思っていました。 Mirrativのコンセプトは「友達の家でドラクエやってる感じ」なんです。友達の家に集まってドラクエをやる時って、プレイヤー以外はずっと画面を見てるわけではなく、後ろで漫画読んでますけど、ボスの時だけテレビの前に集まるみたいな流れがあって、一人用のタイトルなのにみんなで一緒に楽しむことができた。
そういう友達同士の空間をスマホ上で再現するのが目標で、ゲーム配信のプラットフォームというよりは、Twitterの次に続くような新たなコミュニケーションのサービスをつくるつもりで開発しています。
「ガチャを回してSSRが出た!」みたいなスクショを上げる人がたくさんいるように、今でもスマホのゲームとTwitterの相性はいいですよね。
Twitterはそういうゲームにおける興奮を共有する場になっていると思うんですが、スクショを上げるだけでなくて、やがてはゲームをやっている時間全て、ひいてはスマホを触ってる時間全てをMirrativで配信するのが当たり前になるような、新しいコミュニケーションの在り方を提示していきたいんです。
──現状では主なユーザー層はスマホゲームのメイン層と重なっているのでしょうか?
赤川 スマホゲームもヘビーユーザーは30歳以上になっているのかなという感覚はあるのですが、実態としてMirrativのユーザーさんはもっと若いです。
配信したり、ネット上でコミュニケーションするという新しい文化のキャッチアップは若者の方が早いんでしょうね、実際の数字でいうと25歳以下の層が6割以上を占めています。
──視聴者としてではなく、配信者として楽しむユーザーにとっては、Mirrativの強みはどこにあるのでしょうか?
赤川 Mirrativの強みはなんといっても誰でも配信ができる簡単さにあります。それは技術的な意味合いに加えて、精神的な意味でもです。
たとえばYouTubeやTwitchでゲーム配信をしようとすると、PCなど機材の準備が必要ですし、プレイが上手じゃないと配信しちゃダメみたいな風潮もあり、流行の一方で配信することのハードルが高くなっていると思います。
しかし、Mirrativはプラットフォームとして「友達の家でドラクエをする」感覚を大切にしているので、上手なプレイを見せるというよりは、ただ友達と喋りながらゲームをする感覚で配信をすることができます。その敷居の低さは、他のサービスとの決定的な違いですし、勝算になると考えています。
──誰でもかんたんに配信ができるというハードルの低さが故に、配信者と視聴者の境がなく、単純なファンダムの規模で見ると他の配信プラットホームに比べて小さくなっている印象も受けました。
赤川 ファンダムを規模で語るのは2000年代のパラダイムだとも思ったりもします。現代においては、熱量が上がりやすい小さなコミュニティにこそ価値があると考えています。
超人気アイドルをさいたまスーパーアリーナで見ることよりも、地下アイドルを手が届くような近さで見る方が楽しいという人たちがいるように、認識してもらえる距離感で一緒に世界観をつくっていくことには、代えがたい熱量があると思っているんです。
その熱量が一番高い場所って、サークルとか部活のような、気の知れた友人たちが揃ってハイコンテクストの嵐みたいなコミュニケーションが行われているコミュニティだと思います。
Mirrativではそんな熱いコミュニティの形成を目指しているので、1つ1つの配信の規模はむしろ小さいと盛り上がるように設計しています。 しかし、どれだけ簡単に配信できるといっても、誰も見にこなかったら面白くないですし、またやろうとは思えないですよね。そうならないように、配信が見られやすいアルゴリズムを構成するなどの工夫はもちろん行っています。
なんといっても配信した時に、同じゲームを好きな人たちが見にきてくれたり、コメントをもらうなどのコミュニケーションができた瞬間の喜びがMirrativの価値だと思っているので、その可能性をより高めることは大事にしています。
最新のデータではMirrativで15分配信すると、ほぼ全ての人にコメントがつくなどのなにかしらのコミュニケーションが生まれています。これを実際に体験するとしないでは大きく違うので、ぜひ皆さんにも気軽に配信してみてほしいですね。
人類に残された最後の課題
──SNSの登場でより広く気軽にコミュニケーションがとれるようになった一方で、本質的な人間同士のわかり合いは困難になっているような感覚もあります。だからこそミラティブ社の「わかりあう願いをつなごう」という思想には大きな意義があるとも感じるのですが、改めてそのミッションを掲げた意味をうかがえますか?赤川 たとえば産業革命の後には餓死や病死はどんどん減りましたが、現代になっても自殺や孤独死はなくなりませんし、同じ民族同士での戦争もいまだに行われています。
色んな問題がテクノロジーによって解決されてきましたが、未だに解決されない「人間同士がわかりあう」ということは人類に残された大きな課題であり、会社としても挑む価値があるものだと考えて「わかりあう願いをつなごう」をミッションに掲げました。
これは決して誰もがわかりあえるという意味ではないんです。あらゆるコミュニケーションというものには、表層的なものに加えて、なにかしら発信者の願いがこもっていると思っていて、その願いが届かない状況を無くし、同じ考えを持つ人同士をつなげたい。
現在はまさに分断の時代とも言え、あらゆるところに様々な格差が生まれています。しかし、立場上は隔絶している人たちでも、同じ場所に集まって話してみると案外わかりあえるというのもまた確かなんです。
同じ場所に集まるということは、リアルに限ったことではありません。今後5Gなどの通信技術の発達を含めたテクノロジーの力によって、人と人をもっと近づけることは可能になっていくと考えていて、そうすれば今よりもっと人のわかりあう願いはつながると思っています。
──その信念を築く背景には、赤川さん自身の原体験もあるのでしょうか?
赤川 僕自身の原体験はテレホーダイの時代にやっていたチャットでした。昔は23時にならないとネットが使い放題にならなかったので、23時になると顔を知らない人同士がチャットルームに集まってチャットをしていたんです。好きなゲームのホームページを作って大会を開いたりもしていました。
チャットでは、音楽オタクだったので音楽の話を毎晩していたのですが、知らない大人が僕の知らない音楽を教えてくれる体験は刺激的で、今なら教えてもらった曲をすぐに聞けますが、当時は翌日の昼食抜いて中古CD屋にいって探さないといけませんでした。 しかし、そうして今度は聞いた感想を伝えると、教えてくれた人も喜んでくれて、これはまさしくわかりあう願いがつながった原体験でした。
その頃できた友達の中にはたまたまアジカンのゴッチくん(後藤正文さん)がいて、いまだに友達ですしフジロックでだけ毎年会って乾杯したりする友達もたくさんいるんです。
当時の23時からしか繋がらない状態でも、インターネットを通じて音楽が好きという点でわかりあう願いがつながって、人生の可能性が広がったように今のテクノロジーでならもっとすごいことができると信じています。
──原体験に基づく確かなビジョンは個人にとって強固な一方で、それゆえに他の人との共有が難しいのではとも思うのですが、チーム内でのマインドの共有はどのように行っているのでしょう?
赤川 一見曖昧な価値観を共有する為にはなにより言い続けることが重要だと考えています。
ミラティブは「エモい会社」と内外から言われることが多いのですが、「エモい」という言葉ひとつとっても、人によって解釈は違いますよね。僕にとっての「エモい」は、パワーポップから繋がるパンクロックやエモバンドの流れを指したりもするのですが、今のみんなが言う「エモい」にはそのニュアンスは含まれていなくて、僕の大好きなThe Get Up kidsの話なんか誰もしていない(笑)。
使われるワードは「エモい」でも「情緒的」でも「いとおかし」でもいいんですが、要は心が動かされることって大事だよね、自分たちもユーザーさんも心が動くような仕事をしていきたいよね、という価値観がみんなにあることが大事だと思っています。
日本の文化にフィットした「アバター」という存在
──2018年の8月からMirrativには「エモモ」というアバター機能が実装されました。時期的にVTuberの流行も重なっていましたが、影響も少なからずあったのでしょうか?赤川 影響はもちろん受けていますが、「流行りもんだ!乗っかれ!」というよりは、哲学や元々の文化とのフィットがあったのがポイントでした。
日本ではゲーム実況をするにしても顔を出したくないという思いが欧米に比べて強いのですが、かといってなにもないと画面が殺風景になるのもよくないと思う人が多くいて、そこに空白をアバターで埋めるというアイデアが綺麗にハマったのだと思います。
アバターを通じた自己表現は大きな流れだとも思っていたので、「エモモ」を通じて新たなタレントやスターをつくりたいということではなく、誰もが複数のアバターを持つ時代に少しでも近づければいいと思いました。
──REALITYなどアバターで配信できるプラットフォームは他にもありますが、Mirrativはアバターの使用が強制ではないところも特徴的です。使用率なども含めた「エモモ」実装の反響はいかがでしたか?
赤川 「エモモ」を使ってアバターの状態で配信している人の数でいうと、Mirrativは他の配信プラットフォームのおそらく数十倍の規模なので、世界一のアバター配信サービスと言えます。
とはいえ、「エモモ」でVTuberになりたいと思って使われているのが主な用途ではないと思っています。
あくまでコミュニケーションのツールとして「エモモ」を楽しんでもらえている感覚です。
──2019年5月には「エモモ」を通じてカラオケ配信ができる機能「エモカラ」が実装されました。これまでは「友達の家でドラクエやってる感じ」をコンセプトとし、ゲーム実況にフォーカスしてサービスを展開してきた中で、なぜカラオケ配信機能を実装することになったのでしょう?
河原崎 以前からMirrativではアカペラや弾き語りなど、歌を歌う配信をしていた人がいたので、そこから着想を得ました。 「エモモ」によって、顔を出すことに抵抗がある人でも気軽にゲーム配信ができるようになったように、歌う配信も気軽にできるようにしてあげたいと思ったんです。
赤川 仲良くなるきっかけがゲームでも、友達になったら別のことで遊ぶのは普通ですし、例えば、初回のデートは気合いを入れてプランを立てるけど、付き合って2ヶ月くらい経つと適当になるように、重視する点が「なにをするか」から、「一緒にいること」に変わることってありますよね。
それと同じように、Mirrativでも最初はゲーム配信をしていたけど、仲のいい友達関係になり雑談配信をするというケースが増えてきていました。
雑談だったら他のプラットフォームでもいいのでは?と思いもしたんですが、Mirrativで仲良くなった人たちと、Mirrativにおいての自分としてコミュニケーションをすることに価値があると思ったんですよ。
その流れと同じように、ゲームで仲良くなった仲間とカラオケにいくような流れを再現したのが「エモカラ」です。 あるユーザーさんには、「Mirrativは放課後を再現しているんですか?」と言われたことがあるのですが、ゲーム、雑談、カラオケと、確かに構造としてはそうかもしれないなぁと思ったりします。
──中国を中心に海外ではカラオケアプリは大きな流行をみせていますが、「エモカラ」の実装にはその影響もあったのでしょうか?
赤川 中国での流行はもちろん察知していました。歌うことが好きで歌唱力にも自信があるけど容姿には自信がない人ってたくさんいると思うんです。グローバルに目を向けるとさらに広がる可能性があると思います。
Mirrativのグローバルへの展開はリリース当初から考えていたことなので、これからも徐々に進めていきますが、アバターを着ることで生身の自分とは違う形で認められるという体験をもっと大きな規模で得られるようにしていきたいですね。
──現状ではイヤホンをつけたままでは歌えないなど、ハード面の制約を感じる部分もありますが、今後は「エモカラ」をどのように発展させる計画なのでしょう?
赤川 歌詞がちゃんと音楽と共に流れるようにしたり、いかに気持ちよく歌ってもらえるかを意識した機能の実装は行っていて、まだまだ改善ポイントはたくさんある状態です。インパクトのある面白い体験はつくれているとは思いますが。
河原崎 ユーザーさんから「もっとこうしてほしい」という要望はたくさんいただいています。リリース当初は機能をコアなものに絞っていましたが、カラオケならではの必須機能もまだまだありますし、その実現は着々とやっていくつもりです。
赤川 合いの手入れたり、視聴者さんと配信者さんでデュエットとかしたいよね。
河原崎 そうですね。カラオケで行われるコミュニケーションってまさにそういうものですから。
アバターが自己を解放する
──いまや伝説となったにじさんじの月ノ美兎さんの初配信も行われていたように、MirrativといえばVTuberファンにとってはにじさんじの配信の場所というイメージもあると思います。そのように最初期からVTuberシーンとの関わりが深いイメージがありますが、そもそもどのようなきっかけで関わることになったのでしょう?赤川 Mirrativでは「ミラティブQ」というライブクイズ配信をやっていて、2018年1月というかなり早い段階でときのそらちゃんに司会をやってもらったりもしたのですが、その前はぬいぐるみを使って、僕が司会をやっていました。
ただうさぎのぬいぐるみを映して「ねほりんぱほりん」や「サンダーバード」みたいに動かしながら司会しただけだったんですが、叫んだりはしゃいだりと生身の時より無茶苦茶なことができて、アバターを通じた自己解放の可能性を肌で感じることができたんです。
その後、ときのそらちゃんに司会をやってもらったのですが、VTuberブームもきていなければライブクイズ自体日本にはまだなかったタイミングで、こんなぶっとんだことができて最高だなと思っていたところにでてきたのが「にじさんじ」でした。
そもそも当時はスマホだけで配信できるプラットフォームがMirrativしかなかったんです。「にじさんじ」の初期メンバーは運営からiPhoneを貰って、その他の環境については自分で整えなくてはいけなかったので、PCなどを揃える前の活動の場所としてMirrativを選んでくれていました。もちろん発表を見てすぐ声をかけにいったのですが、彼らが自然とMirrativを選んでくれたのはとても嬉しかったです。
──VTuberのブームの要因や、カルチャーとしての強みはどのように分析されていますか?
赤川 容姿によってとらわれていた才能たちがVTuberを通じて解放されたのが、ブームの最初期における爆発でした。その熱狂の中でいくつものミームか生まれ、それによって構成されたハイコンテクストがさらに熱を呼び、前代未聞のムーブメントとして盛り上がったんだと思います。
「私で隠さなきゃ」(*1)なんて、意味がわからない人にはマジで面白さが伝わらないと思いますが、それゆえの密室感がさらに熱を高めていったんでしょうね。
(*1:過去にVTuber・月ノ美兎さんが自身のゲーム実況配信で表示されてしまった不適切な映像を配信画面の隅に表示されていた自身のアイコンで隠した際に言った言葉。のちにVTuberが似たような状況に陥りそうになった時に使われるようになった。)
あとは、ニコニコ動画以降久しく現れていなかった、ユーザーからの発信を中心としたよりインターネット的なものとして歓迎されたのも大きな要因だと思います。
河原崎 VTuberはまだ一部の人のものという認識ですが、やがてはアバター文化としてもっと一般的になるでしょうしTwitterで複数アカウントを持つようにアバターを使い分ける時代もくると思います。
赤川 アカウントやアバターという形に限らずとも、人格の使い分けってすでに日常的ですよね。
今回みたいに写真つきで話すときの僕は、会社の代表として変なこと言えないと気をつかいますが、フジロックでの僕は泥酔してるだけのただの酔っぱらいです。
子どもと喋るときは赤ちゃん言葉になりますし、言動まで変わるほどのキャラクターの使い分けは誰しもやっていることです。でも、人は知らず知らずのうちに、自らを役割や歴史などに縛りつけてもいきます。
非現実な世界でアバターを着ることは、先程述べたリアルな世界での人格の使い分け以上の変化をもたらすので、普段の役割やキャラクターといったものから解放されることで、発揮される新たな才能もあるでしょう。
河原崎 多くの人にとって好きなことを好きなだけ言えるコミュニティはリアルのコミュニティだけでなく、SNS上にもあるのではないでしょうか。 現在はTwitterといったSNSが中心ですが、やがては匿名性を持ちながらも、テキストや画像以上の情報量を共有できるプラットフォームができて、新たな自己解放の場となると思います。
赤川 インターネットの中くらい、息苦しくない方がいいもんね。
河原崎 めっちゃまとめるじゃないですか(笑)。
──ブーム以降は配信プラットフォームも一気に数を増やしました。それらのサービスの隆盛は、Mirrativにも影響を及ぼしているのでしょうか?
赤川 アバターによる配信が定着したのは、VTuber業界の盛り上がりによる影響が大きいので、配信プラットフォームや文化圏ができたことはMirrativにとっても嬉しいことです。
とはいえまだオタクのためものだと思われている側面はあるので、より一般に浸透していく必要はあるのですが、それを目指すプレイヤーが多いことはやはり良いことです。それぞれのプラットフォームが大事にしている価値観は違いがあると思いますが、やがて誰もがアバターを複数持つことが当たり前になる時代を目指す我々としては、市場の活性化はポジティブな要因ですね。
──数は増える一方で、はやくも終了したり、低調を脱しきれないサービスもあります。長く続くものとそうでないものには、どのような違いがあるのでしょう?
赤川 ブームだから始めたというサービスは、ブームが終わったら辞めてしまうでしょうし、儲かると思った人も儲からなかったらすぐに撤退してしまうんだと思います。
哲学を持ってユーザーさんに向き合っているかどうかが重要で、その他の要因に左右されずに地道に運営を続けるサービスが結果として生き残っていくんでしょうね。
現実と仮想の融合は加速する
──最初期からVTuberシーンを見てきた赤川さんは現在のシーンはどのような状況にあるとお考えですか?赤川 2017年末のブームから、これはすごいぞと感じた人達が集まって、VTuberそのものや関連したサービスが山のように出てきましたが、その反動で撤退や各種トラブルも多く出てきました。そうして今はこの文化の可能性を感じている人や、それすら気にせず純粋にVTuberがすごい好きという人が、バイアスに惑わされずシーンを作り上げていると思います。
新しい才能も出てきていますし、本当にやりたい人や好きな人が活躍できる健全な状態ではあるのですが、一方でまだまだカルチャー全体のイメージとしてオタクっぽさはあるので、そこはもっと一般層へ広がっていくとも思いますね。 すでに皆が当たり前にやっているSNOWでの"盛る"ってアバター的な発想ですし、もっと近いものではZEPETOなどもあって、一般層とそこまで隔絶しているわけではないのでまだまだ可能性はあると思います。一般層まで広げるための取組は我々もしかけていきたいです。
世界的に成功しているARのアプリってポケモンGOとSNOWだと思うんですが、ユーザーは誰もARアプリだとは認識していませんよね。アバター文化もそうとして強く意識されない形で、自然に受け入れられていくのが理想的だと思います。
──そうしたVTuberシーンの現状や、世界的な流れを踏まえて、Mirrativとしては具体的に今後はどのような展望を描いていらっしゃるのでしょうか?
河原崎 コミュニケーションの場としての形を保ちつつ、配信サービスとしても成立させているサービスはMirrativしかないと思っています。ユーザーさんに対しての配信者比率も高く、新しいコミュニケーションの形を提供できているとは思うのですが、まだまだやらねばならないことがたくさんあることも事実です。
今後も「人類の可能性を解放する」為にはMirrativにどういう機能が必要なのかを考え続け、一つずつ実現していきたいです。
赤川 Googleが動画とゲームの融合に取り組んでいたり、フジロックのKOHHのステージでやっていたようなリアルとARが重なる演出など、エンターテイメントの境界が溶けてどんどん混ざっているという大きな流れを感じています。
それは意義深いことであると同時に面白い流れでもあって、アバター文化の題目である現実と仮想の融合もこれからどんどん加速していくと思います。
そんな時代の潮流を感じつつも、我々は「わかりあう願いをつなごう」という理念を大事に、人と人がつながる場を提供し続けていきたいです。
リアルとバーチャルの錯綜
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