底知れぬ「2.5次元舞台」を解剖 CMでは荒牧慶彦が冷蔵庫に変身!?

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底知れぬ「2.5次元舞台」を解剖 CMでは荒牧慶彦が冷蔵庫に変身!?
底知れぬ「2.5次元舞台」を解剖 CMでは荒牧慶彦が冷蔵庫に変身!?

POPなポイントを3行で

  • 「2.5次元舞台」が2017年・2018年でさらなる広がりを見せている
  • 地上波や世界進出、そして「特撮」との邂逅!?
  • そうした状況の中で公開された『刀剣乱舞』荒牧慶彦の冷蔵庫CMは必見!
2.5次元の世界は、ここに来て新しいフェイズに突入しつつある

2017年には、ゲームはもちろんミュージカル・舞台共に大ヒットした『刀剣乱舞』がユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされたり、2018年に入って『情熱大陸』(TBS系)に演劇プロデューサーで2.5次元の仕掛け人である松田誠が取り上げられたり、というのは氷山の一角に過ぎない。

2003年にスタートしたミュージカル『テニスの王子様』に代表される2.5次元舞台は、漫画やゲームといった2次元の作品を原作に、3次元の俳優たちが演じるものの総称だが、近年はさらなる盛り上がりを見せ、地上波にその俳優たちが進出。海外での公演やファンミーティングの機会も増えている。

そして新たに、広告の世界でもその影響力は注目され始めている。

文:西森路代/新見直 編集:新見直

2.5次元の世界は、地上波や雑誌、海外へ進出

2.5次元舞台でキャリアを積んだ俳優たちは、近年、活躍の場を着実に広げていっている。

例えばこの1月からスタートしたドラマ『お茶の水ロック』(テレビ東京系)には、ミュージカル『刀剣乱舞』や『あんさんぶるスターズ!オン・ステージ』シリーズなど、代表的な2.5次元作品で活躍している俳優たち──佐藤流司、染谷俊之、崎山つばさ、前山剛久、谷水力──が総出演。全8話の放送が3月に終了して、次は舞台に場所を移して上演される。

『弱虫ペダル』や舞台『刀剣乱舞』で活躍し、いまや2.5次元を代表する存在ともいえる鈴木拡樹は、3月29日・30日に、NHK Eテレの『マリーの知っとこ!ジャポン』にメインパーソナリティの一人として出演、日本の伝統文化を伝えた。 彼は2017年には、『天元突破グレンラガン』でアニメファンにも知られる劇団☆新感線・中島かずき作の舞台『髑髏城の七人』にて悪の首領・天魔王役を演じた。この舞台のPRで、福士蒼汰やミュージカル『テニスの王子様』にも出演した声優の宮野真守らキャストとともに『VS嵐』(フジテレビ)にも出演するなど、地上波テレビへの進出が続いている。

4月クールからは、朝の情報バラエティ番組『PON!』(日本テレビ系)のお天気お兄さんとして、『ダイヤのA The LIVE』の小澤廉と、ライブ・スペクタクル『NARUTO-ナルト-』ワールドツアーの元木聖也が抜擢された。 このほか、4月からのドラマ『崖っぷちホテル!』(日本テレビ系)にはミュージカル『刀剣乱舞』の佐伯大地が出演する。さかのぼれば、同作出身の黒羽麻璃央も2017年のTBS系ドラマ『監獄のお姫様』の劇中劇で印象を残すなど、地上波のゴールデンタイムのドラマに2.5次元俳優が抜擢されることも目に見えて増えてきた。

もっとも、BSやCSでは2.5次元舞台自体が生中継されることや放送されることも多く、早い段階から2.5次元俳優たちを起用している。2.5次元舞台の社会的知名度も上がり、ようやく地上波がそこに目をつけ始めたのがこの1年ほどのことだ。昨今は、『anan』や『CanCam』といった女性誌で彼らがグラビアページを飾る機会も増えてきている。

その人気は海外にも波及。2017年の2.5次元舞台は、世界進出が目覚しかった年でもあった。2017年12月にはミュージカル『刀剣乱舞』の広州公演が行われたほか、舞台『あんさんぶるスターズ!』のファンミーティングが広州、北京、上海で行われている。

2018年の2.5次元に新しい波、特撮との邂逅?

その盛り上がりは、テレビや雑誌だけにとどまらない。今年は『刀剣乱舞』や『パタリロ』など、舞台として人気のあった作品が映画化されることも発表された。

映画化の流れは以前からあったが、これまでと違うのは、キャストが舞台と同じ俳優で行われる点である。今後、舞台版を尊重した上で映像化するという流れは増えていくのではないだろうか。

もう一つ、新しい波が起き始めていることはおさえておかなければならない。『刀剣乱舞』の映画化で話題となったのが、特撮ジャンルとの融合だ。

「仮面ライダー」シリーズや『烈車戦隊トッキュウジャー』といった数々の特撮を手掛けてきた脚本家の小林靖子が『刀剣乱舞』映画の脚本を担当することが映画化の発表時に明かされ、2.5次元沼と特撮沼の両方からの熱い期待がかかっている。 もちろん特撮に出演する俳優が2.5次元で活躍することもあり、その両方に注目するファンも存在しているが、重なりつつも独自の世界がある、そんな二つの沼のファンが『刀剣乱舞』を通して邂逅しようとしている瞬間がTwitterでも見られた。

2.5次元の盛り上がりは、ファンであれば「今さら?」と思うかもしれないが、テレビや映画といったマス向けのメディアにはなかなか注目されてこなかった部分もあった。しかし、2018年がターニングポイントになって今後どんどん脚光を浴びるようになっていくと期待できる流れの中にある。

そして最後に、それらを踏まえた上で、2.5次元舞台と特撮要素を兼ね備えた象徴的な事例を一つ紹介したい。

2.5次元と特撮の融合、マスへの広がりを象徴するCM

それが、『刀剣乱舞』の荒牧慶彦が起用された、三菱電機の冷蔵庫CMだ。 荒牧もまた、ミュージカル『テニスの王子様』や『忍たま乱太郎』などで活躍してきたが、2016年からは舞台『刀剣乱舞』に山姥切国広(やまんばぎりくにひろ)役で出演。また、山姥切とへし切長谷部を中心としたスピンオフ作品『舞台 刀剣乱舞 ジョ伝 三つら星刀語り』で主演も務めた。2019年の映画版でも続投することが決まっており、いまや2.5次元の世界では欠かせない存在となっている。

そんな荒牧が体当たりで挑んだのは、なんと冷蔵庫の擬人化ヒーローだ。
三菱冷蔵庫「仮面レイトー瞬」【三菱電機公式】
公開されてすぐ、「我ながらジワるCMなので是非一度ご覧ください」とツイートすると、公開から5日で「リツイート」が7000、「いいね」は13000を記録。また、CMはYouTubeの急上昇ランキング入りも果たした。2.5次元俳優たちの影響力にまだまだ気づいていないテレビや広告の業界人たちにも、こうした数字を目の当たりにすれば、そのポテンシャルに改めて目を向けるはずだ。 荒牧が「ジワる」と書いたのは、誰しもが連想しそうな特撮タイトルにちなんでか、このCMが「仮面」と銘打ちながらも荒牧が仮面をかぶっていないなど、突っ込みどころも満載だからだ。

一度も仮面をつけない「仮面レイトー瞬」は、食材の鮮度を守ることに命を懸けている正義のヒーロー。ただしチルドなハートの持ち主で、自身の冷凍技術が薄れてしまうような女性との出会いを自ら禁じている

4分ほどの映像は、荒牧演じる正義のヒーロー・仮面レイトーが、食材の鮮度を保つために怪人に立ち向かう、という内容。三菱冷蔵庫の独自技術を必殺技になぞらえ、コミカルに冷凍庫の特徴を紹介してくれる。本人も「キメキメで撮ったので注目してくださいね!」とコメントを残している。

「説明しようっ!」もノリノリの荒牧慶彦さん。三菱冷蔵庫の独自技術の猛烈アピールが、丁寧な解説として挿入される。この「氷点下ストッカーD」は、冷凍室より低温の氷点下なのに食材を凍らせず鮮度を保つ三菱冷蔵庫の独自技術

瞬のもう一つの必殺技は、食材を約-7℃で凍らせることで、解凍せずにサクっと刃が通る「切れちゃう瞬冷凍」。決め台詞は「マイナス7度で〜〜〜〜サクッ〜〜〜〜!!」

ばいきんまん(それいけ!アンパンマン)やフリーザ(ドラゴンボール)で知られるベテラン声優・中尾隆聖は冷凍怪人“ヒエーザ”役を演じており、そのネーミングにも遊び心を感じる。

ヒエーザを演じた中尾さん「出来ればパワーアップして、また戦いたいです」と次回作に意欲

なお中尾は「懐かしの仮面ライダーものみたいで、とても楽しかったです」と、コメントの中でハッキリ触れてしまっている。

一方で、普段は刀を用いた殺陣の多い荒牧が、初めてヒーロースーツを着て挑んだアクションも見どころ。一連のアクションを手掛けたのは、ジャパンアクションアワード(JAA)受賞歴もあるメンバー。JAAはこの3月に第6回が開催され「HiGH&LOW THE MOVIE 2 / END OF SKY」が2冠を獲得、「ハイロー」ファンからも注目を浴びている賞だ。

絵コンテ段階からノリノリだったという監督に負けないよう「熱さとどこか馬鹿らしさを出したい」と臨んだ荒牧の、スーツアクター兼ナレーターとしてのふっきれた演技はもちろん、様々な方向性で細部にまでこだわった飽きさせないつくりは好感触で迎えられているようだ。

なお、荒牧の女装と思しき人物が一瞬映し出される次回予告も最後に挿入さえており、その反響次第ではCMの続編という可能性もあるのかもしれない。

次回予告で、美女に鼻の下を伸ばす仮面レイトー瞬。どちらも荒牧慶彦では!? 続編に期待

前述の通り、2.5次元舞台がいよいよマスメディアにも注目されはじめ、2.5次元と特撮とをつなぐ架け橋として『刀剣乱舞』が取りざたされている最中、奇しくもその重要なキャストである荒牧が2.5次元俳優として特撮パロディーを織り交ぜた企業CMに挑むというのは、偶然にしても出来過ぎだろう。

今この2018年に生まれるべきCMとして象徴的だと言える。

こうした動きを見ていると、2018年をひとつのターニングポイントとして、2.5次元の世界がさまざまなジャンルと融合し、ますます盛り上がりを見せるであろう未来が見える気がする。2.5次元俳優の活躍の場が、今後はCMなどの世界にも次々と広がっていくことに期待したい。


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西森路代

Writer

フリーライター。愛媛県出身。アジア全般のエンターテイメントのジャンルで、俳優論やインタビューなどを多数執筆。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)がある。

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