走りながら小便をして拓けた活路 芸人/カンボジア代表 猫ひろしインタビュー

  • タイアップ
  • 0
走りながら小便をして拓けた活路 芸人/カンボジア代表 猫ひろしインタビュー
走りながら小便をして拓けた活路 芸人/カンボジア代表 猫ひろしインタビュー

猫ひろしさん

お笑い芸人・猫ひろしさんのオリンピック出場を巡る騒動を覚えているだろうか?

「芸人最速ランナー」と言われ、芸人としてではなくマラソンランナーとしてテレビ番組への露出が増えていき、ついに「芸人としてオリンピックに出場する」と表明。

オリンピックに出場するためマラソンの盛んではないカンボジア国籍を取得。そのやり方を巡って賛否両論が渦まき、連日大きく報道された。

それでも2012年のロンドンオリンピックに一度は出場が決まるも、ルール規定により出場取り消し。しかし、その4年後のリオデジャネイロオリンピックで遂に念願の出場を果たした不屈の男・猫ひろしさん。

実は、猫ひろしさんのオリンピック出場を後押ししたのは、あの「ホリエモン」こと堀江貴文さんだった。

そして、ホリエモンプロデュースの元、その裏側を振り返る映画の製作も発表された。
『NEKO THE MOVIE』予告編
世界を巻き込む議論に発展したオリンピック騒動について、猫ひろしさんに、ストレートな疑問をぶつけてみた。芸人・ランナーとして、今だからこそ言えることがある──

取材:新見直 構成:結城紫雄 撮影:市村岬

走りながら小便をして拓けた活路

撮影は猫ひろしさんの所属するWAHAHA本舗にて

──そもそも、マラソン選手としてオリンピック出場を目指すに至った大元のきっかけは何だったのでしょうか?

猫ひろし 2006年春、子どもの頃から見ていた『オールスター感謝祭』(TBS系)という番組に出る機会があったんです。そこで芸能人による「赤坂マラソン」コーナーがあって、「芸人として、いい成績を残して目立ってやろう」と意気込んでいました。学生時代6年間卓球をやっていたんですが、陸上部よりも長距離走が速かったので自信があったんですね。

結果は、オリンピック銀メダリストのエリック・ワイナイナに負けて2位。メダリスト相手なので仕方ないな、とは思ってたのですが、そこで好成績が出たのをきっかけに少しずつマラソンの仕事をいただくようになりました。TVの企画で長距離走を走ったり。

「TVの仕事で走る」となると情けない走りはできないので、『オールスター感謝祭』でご一緒した谷川真理さん(女子マラソン選手)の経営されているマラソン専門ジムでトレーニングをするようになりました。すると面白いようにタイムが伸びていって、1年目でフルマラソンで4時間を切るようになりました。しかも、4回トイレに行って4時間切ってますからね。

──水分をよく摂りますからね。

猫ひろし そのうち1回は大便ですよ! トイレに行かなかったら世界新記録出ていたと思います。

そしてマラソンを始めて4年後。「東京マラソン2010」で走るというTVの企画がありました。「3時間を切らなければ、芸名を瀧崎邦明(※猫ひろしさんの本名)に変更する」という過酷な条件のなか、そのレースで初めて3時間を切ったんです(2時間55分)。

3時間以下でフルマラソンを走れるランナーは、全世界のランナー人口上位10%といわれていますが「瀧崎邦明」なんて文豪みたいな名前で「にゃー!」とか言っても面白くないので、死活問題だと思って必死に走りましたね。トイレも行きませんでした。

──4時間も我慢できるものなんですか?

猫ひろし いえ、走りながらしました。

──え!? オムツをされているんですか?

猫ひろし 違います、垂れ流しですよ。これは“マラソンランナーあるある”らしくて、走りながら用を足すことを“ランション”っていうんです。トイレのために一度足を止めると、筋肉も冷えますからね。実はみんなやっています。ただ、僕は当時ランションに慣れてなくて、力の加減がわからずうっかり“ラン糞”も出てしまいましたが……。

──……それだけがむしゃらに走った、ということですよね。

オリンピック出場決定から取り消し…一体何が?

──3年で上位10%に食い込むということは、素人としては驚異的なスピードの成長だと思います。その頃から、オリンピック出場を意識され始めたのでしょうか?

猫ひろし 2009年に、『ホリエモンのなんでお前なんだよ!!』に出演したのですが、番組テーマが「猫ひろしが再度復活するにはどうするか」だったんですね。番組中で提案された「再生企画」のなかに、「東国原さんのように選挙に出て話題になる」「勉強して東大に入って話題になる」に交じって、「カンボジア国籍に変えてオリンピックに出場する」というのがあったんです。

もちろんその場は冗談だったと思うのですが、僕は少し興味がそそられまして。ちょうどスタッフさんのなかにカンボジアでお仕事されている人がいたので、その人と一緒にプライベートでカンボジアに行って少しずつレースに出始めたんです。カンボジア事情に詳しくなかったので、マラソンと思った大会が行ってみたらトライアスロンだったりしたんですけど。

そうした活動を続けていき、2010年に「アンコールワット国際ハーフマラソン」という大会で3位に入ったのをきっかけに、本格的に「カンボジア人になってオリンピックを目指そう」と考え始めましたね。

──堀江さんの番組で、国籍を変える国としてカンボジアが選ばれたのはなぜでしょうか?

猫ひろし スタッフの方がカンボジアで仕事をされていたのと、あとは単純に(国内マラソン選手の)タイムが日本ほど速くないことですね。

──しかし猫さんが国籍を変更された直後、2012年のロンドンオリンピックでは出場資格が満たせず代表になることはできませんでした。

猫ひろし 僕が引っかかってしまった新ルール(※国籍取得1年未満の人は1年以上の在住経験が必要)は、選手の引き抜きを防止するためのものと聞いていますが、まさか僕が世界で初めて抵触するとは思いませんでしたね(笑)

カンボジアのオリンピック委員会の方々は、「わざわざ日本から来てくれたのに、走れなくなってしまい申し訳ない」「しかし、新ルールに引っかかった第一号がカンボジア人というのは逆に誇らしい」と温かく励ましてくれました。誇らしくはないだろ、と思いましたけど(笑)。

──2012年のオリンピックを逃し、次の大会までは4年もの期間が空きます。モチベーションを保つことは困難だったと思いますが。

猫ひろし 出場不可が決まった当初は、「4年後目指そうよ」と励まされましたけど、そういう気持ちにはまったくなりませんでした。決まった当日は悔しくて悔しくて、後輩を呼び出し、自転車で伴走させながら40km走りましたよ。

ただ、後輩と走りながら思ったんです。『オールスター感謝祭』に始まり、マラソンが自分の人生を変えてくれた。コーチやカンボジア人の仲間とも出会えた。オリンピックは出られなくなったけど、それでマラソンまでやめてしまうのは少し違うな、と。

だから、ロンドンオリンピックが終わってからもマラソンは続けていたんです。そしてその年の秋、復帰戦として出走した「ちばアクアラインマラソン」で好タイムが出たことをきっかけに、4年後のリオデジャネイロオリンピックを目指すことに決めました。

念願のオリンピック! ブラジルに「カンボジア」コールが巻き起こるも…

──腐らず練習を続け、ついにリオオリンピックに出場が決まったときの心境はいかがでしたか?

猫ひろし 最終選考になったカンボジア国内の最終レースで1位になったのですが、前回のこともあり安心はできなかったですね。正式に決定した後まず思ったのは、リオのスタートラインに立つまで絶対にケガしないようにして、完走すること。オリンピック選手といえども、出場選手の1割ぐらいは棄権するんですよ。

──やはりオリンピックで走るレースは特別なものなのでしょうか?

猫ひろし スタート地点のプレッシャーは確かにすごいものがあります。ランナーが150人くらいいて、僕は1列目のど真ん中。世界記録が狙えるケニアやエチオピアの有力選手だけは優先的に1列目に回されるのですが、後は先着順なんですよ。

「TVに確実に映るのはスタート時しかない!」と思って(笑)、僕は真っ先に1列目を獲りにいきました。1列目の並び順がケニア・エチオピア・ケニア・猫・エチオピア……と、“迷い猫”みたいな状況になってしまいましたが。

しかし150人もランナーがいるので後方はぎゅうぎゅう詰め。そのなかに、選手村で知り合った北朝鮮のランナーが見えたので、「俺の横に来い」って声をかけてあげたんです。そしたらそのランナー、図々しくも僕の前に来たんですよ! そいつがすごく背が高かったので、僕はほとんどTVに映ることができず……「オリンピックに優しさはいらない」と思いましたね。

──リオでの成績は完走者140人中139位でした。

猫ひろし 順位よりも、目標タイムをオーバーしてしまったことが悔しかったですね(※2時間45分でフィニッシュ)。日本と同じようにはいきませんでした。

走ってる最中は普段のレースと変わりませんでしたが、当日は雨が降っていて湿度が高く、僕のコンディションも悪かったので、最後の5kmが本当にきつかった。

正直「早く終わらないかな」とネガティブな考えもよぎったのですが、ラスト300mの直線に入ると、満員の観客が出迎えてくれたんですよ。現地の実況の方が、「カンボジアのクニアキ・タキザキ選手と、ヨルダンのメスカル選手が最下位争いをしています! ラストみんなで盛り上がりましょう!」と観客を煽っていて、ものすごい熱気でした。

ゴールの瞬間には観客から「カンボジアコール」を10分間ぐらいずっと送られました。観客からはサインや記念撮影を求められるし、ゴールシーンはBBC(英国放送協会)で放映されるし、閉会式でも出待ちされて、ものすごい反響に驚きました。僕、お笑いライブでも出待ちされたことないのに。

──注目を集めた結果、選手村でのロマンスなどはなかったのですか? 委員会がコンドームを無料配布するほど開放的になる選手が多いと聞きますが。 猫ひろし 確かにそうなんですけどね。オリンピック選手はみんな、自国のピンバッジを一人100個ぐらい持っていて、他国の選手と交換して交流する「チェンジピン」という風習があるんです。競技を終えた選手は開放的になってチェンジピンをしつつ仲良くなったりするので、僕も選手村を時間をかけて徘徊したりしたんですが、全然収穫なかったですね! 僕には妻もいますし。

1
2

SHARE

この記事をシェアする

Post
Share
Bookmark
LINE

0件のコメント

※非ログインユーザーのコメントは編集部の承認を経て掲載されます。

※コメントの投稿前には利用規約の確認をお願いします。

コメントを削除します。
よろしいですか?

コメントを受け付けました

コメントは現在承認待ちです。

コメントは、編集部の承認を経て掲載されます。

※掲載可否の基準につきましては利用規約の確認をお願いします。

POP UP !

もっと見る

もっと見る

よく読まれている記事

KAI-YOU Premium

もっと見る

もっと見る

エンタメの週間ランキング

最新のPOPをお届け!

もっと見る

もっと見る

このページは、株式会社カイユウに所属するKAI-YOU編集部が、独自に定めたコンテンツポリシーに基づき制作・配信しています。 KAI-YOU.netでは、文芸、アニメや漫画、YouTuberやVTuber、音楽や映像、イラストやアート、ゲーム、ヒップホップ、テクノロジーなどに関する最新ニュースを毎日更新しています。様々なジャンルを横断するポップカルチャーに関するインタビューやコラム、レポートといったコンテンツをお届けします。

ページトップへ