お笑いコンビ・キングコングのツッコミであり、絵本作家の西野亮廣(ペンネーム:にしのあきひろ)さんが、制作に4年半を費やした絵本『えんとつ町のプペル』が10月21日に発売された。
2015年4月、制作と同時に発表された「超分業制」という前代未聞の制作体制は、多くの批判にさらされながらも、制作資金を調達。
さらに完成を間近に控えた今年9月、絵本の個展を入場無料で開催するために、クラウドファンディングサービス・CAMPFIREで資金募集を開始した。 そのプロジェクトは、国内クラウドファンディングでは最多となる5734人という支援者数を達成。またCAMPFIRE史上最高額となる4154万9800円(達成率2308%!)もの資金調達記録も樹立した。最終日を目前に控えた10月24日(月)現在も更新を続けている。
記憶に新しい6月の芸人引退宣言をはじめ、しばしば炎上でネット上をにぎわせ、叩かれ、嫌われ者というイメージを抱かれることも多い一方で、今回の成功に代表されるように、熱量のあるファン・賛同者も数多く存在するにしのさんに直撃。
絵本の制作スペースでもある彼の自宅に迎えていただき、現代社会にも通じる新作絵本の世界観や、分業制の先に見据えた絵本の拡張について話を聞いた。
構成 恩田雄多/写真 市村岬/取材・編集 ふじきりょうすけ
にしの 周囲を高い崖に囲まれた「えんとつ町」は、その名の通り、街中が煙突だらけで、頭上には朝から晩までもくもくと煙が立ちのぼっています。そこに住む人たちは青い空も輝く星も知らない。彼らには「空」という概念がないので、空を見上げるなんてこともしない。
そんな中、主人公の2人だけは、煙の先にある何かを嗅ぎ取って、行動を起こします。でも、えんとつ町の住人たちは空の存在が信じられず、「そんなものあるわけない」「空気を読め」などなど、執拗に2人を叩く……という、ファンタジーの世界観で繰り広げられる現代的な物語ですね。
──周囲からの批判にさらされてもなお、2人の主人公はめげずに挑戦を続ける。そんな現代社会をテーマにしようと思ったのはなぜですか?
にしの やっぱりインターネット界隈を中心に、ここ数年でずいぶん閉塞感が増した気がしていて、何らかの形でこの閉塞感を面白おかしく描きたかったんです。
そう考える中で、空という僕らにとって当たり前の存在がない=“見上げる”という概念すら理解されず、むしろ見上げたら叩かれるというシチュエーションに行き当たったんです。 にしの 作品世界の構築にあたっては、台湾・九份(きゅうふん)の提灯だらけの街並みや、山口県の周南コンビナートなどをモデルにしているんですが、渋谷もその1つとして挙げられます。
地理的に見ると谷底の街だったり、ゴミ処理場の大きな煙突があったりと、「えんとつ町」と共通する要素もあったんですけど、決定的になったのはハロウィンですね。
──『えんとつ町のプペル』自体もハロウィンのお祭りがお話の中心として登場しますね。
にしの ここ数年で急速に市民権を得たハロウィンは、いまや一大コスプレイベントになっていて。特に渋谷では海外からの参加者もいて、とんでもない騒ぎになっているじゃないですか。
そして、コスプレ同様に日本の……というか、渋谷のハロウィンの象徴になっているのが、騒いだあとに残される大量のゴミです。 にしの 偶然にも、作品内でハロウィンのお祭りを描いているし、主人公はゴミが集まってできたゴミ人間だし、これは絶対に絡めたほうがいいなと。それに、ハロウィンはあれだけ外国人も集まるイベントなのに、お土産がないんですよ。
だから、渋谷のハロウィンのお土産になってやろうと思って……途中からずいぶん商売っ気が出てきちゃったような感じです(笑)。
にしの 絵本に限らず、僕の活動の根底には「誰も見たことがないものを生み出したい」という思いが常にあるんです。実は、『えんとつ町のプペル』も描き出した当初は、今までと同じ手法──ボールペン1本で書いていたんですけど、果たしてそれで「誰も見たことがないもの」になるのかなと。
同時に、ふと「どうして絵本は1人でつくることになっているんだろう?」という疑問がわいてきて。映画だったら、監督・脚本・音響・照明など、いろいろなスタッフが、自分の得意技を持ち寄って1つの作品をつくる。
世の中の多くのエンタメが分業制なのに、絵本はずっと1人、あっても絵と文の2人体制。クリエイターの中には、「空を描かせたら誰にも負けない」という人や、「キャラクターデザインなら右に出る者はいない」という人もいるだろうと。
それなら絵本でも、背景や建物、キャラクターなど、作品を構成する要素ごとにプロフェッショナルを集めて、1つの作品をつくったら、どんなものが生まれるのか見てみたいと思ったんですよ。 ──具体的な体制づくりはどのように進めていったんですか?
にしの なぜ分業制の絵本がないのか。突き詰めて考えると、やっぱりお金。そもそも、5000部や1万部でヒットと呼ばれる市場なので、売り上げが見込めないから制作費がかけられない。
そこで、クラウドファンディングで資金を集める一方、クラウドソーシングで人材も集めていきました。
──関わるスタッフの選定は非常に重要、かつ難しい部分だと思います。
にしの 選定については、イラスト特化型のクラウドソーシングサービスを展開しているMUGENUPさんに協力してもらいました。
分業制について考えた時期と前後して、当時MUGENUPの代表だった一岡亮大さんと会って話をする機会があって。すごく魅力的な方だったんですよ。会った当日に、「一緒に仕事しましょう!」というくらい。
クラウドソーシングで人を集めると決めたあと、MUGENUPさんに直接行って、サービスに登録している約3万人のイラストレーターの方々から、実際に絵を見て選んでいきました。結果的に、背景の六七質(むなしち)さんをはじめ、総勢33人が参加することになりました。
実は今回、出版社と装丁家の方にわがままを言って、参加してくれた全スタッフの名前を2ページにわたって載せてるんです。それこそ映画のクレジットみたいに。 ──多くのスタッフが関わる分業制では、従来の制作以上に大変な面もあったのではないでしょうか?
にしの スタッフ全員が作品の世界観や構造を把握しないといけないので、どうやって認識の統一を図るかは苦労しましたね。
絵のタッチはもちろん、カメラの位置に応じた背景の見え方など、細かなつじつまは緻密に考えました。作品がファンタジー(=嘘)なので、それ以外の部分はきちんと整合性を取りたいと思って。
そのために、PCでえんとつ町の地図をつくって、空間を把握して、ページごとに「そのシーンではこうだ」とか、毎晩のように話し合いましたね。
そういった作業を繰り返していたので、分業制が決まってから実際にペンで描き始めるまでに、1年くらいはかかったかもしれませんね。
2015年4月、制作と同時に発表された「超分業制」という前代未聞の制作体制は、多くの批判にさらされながらも、制作資金を調達。
さらに完成を間近に控えた今年9月、絵本の個展を入場無料で開催するために、クラウドファンディングサービス・CAMPFIREで資金募集を開始した。 そのプロジェクトは、国内クラウドファンディングでは最多となる5734人という支援者数を達成。またCAMPFIRE史上最高額となる4154万9800円(達成率2308%!)もの資金調達記録も樹立した。最終日を目前に控えた10月24日(月)現在も更新を続けている。
記憶に新しい6月の芸人引退宣言をはじめ、しばしば炎上でネット上をにぎわせ、叩かれ、嫌われ者というイメージを抱かれることも多い一方で、今回の成功に代表されるように、熱量のあるファン・賛同者も数多く存在するにしのさんに直撃。
絵本の制作スペースでもある彼の自宅に迎えていただき、現代社会にも通じる新作絵本の世界観や、分業制の先に見据えた絵本の拡張について話を聞いた。
構成 恩田雄多/写真 市村岬/取材・編集 ふじきりょうすけ
窮屈な今の時代を投影する絵本『えんとつ町のプペル』
──原画展の無料開催に向けたクラウドファンディングが、国内最高記録を更新した『えんとつ町のプペル』。まずは自身4冊目となる絵本の世界観を教えてください。にしの 周囲を高い崖に囲まれた「えんとつ町」は、その名の通り、街中が煙突だらけで、頭上には朝から晩までもくもくと煙が立ちのぼっています。そこに住む人たちは青い空も輝く星も知らない。彼らには「空」という概念がないので、空を見上げるなんてこともしない。
そんな中、主人公の2人だけは、煙の先にある何かを嗅ぎ取って、行動を起こします。でも、えんとつ町の住人たちは空の存在が信じられず、「そんなものあるわけない」「空気を読め」などなど、執拗に2人を叩く……という、ファンタジーの世界観で繰り広げられる現代的な物語ですね。
──周囲からの批判にさらされてもなお、2人の主人公はめげずに挑戦を続ける。そんな現代社会をテーマにしようと思ったのはなぜですか?
にしの やっぱりインターネット界隈を中心に、ここ数年でずいぶん閉塞感が増した気がしていて、何らかの形でこの閉塞感を面白おかしく描きたかったんです。
そう考える中で、空という僕らにとって当たり前の存在がない=“見上げる”という概念すら理解されず、むしろ見上げたら叩かれるというシチュエーションに行き当たったんです。 にしの 作品世界の構築にあたっては、台湾・九份(きゅうふん)の提灯だらけの街並みや、山口県の周南コンビナートなどをモデルにしているんですが、渋谷もその1つとして挙げられます。
地理的に見ると谷底の街だったり、ゴミ処理場の大きな煙突があったりと、「えんとつ町」と共通する要素もあったんですけど、決定的になったのはハロウィンですね。
──『えんとつ町のプペル』自体もハロウィンのお祭りがお話の中心として登場しますね。
にしの ここ数年で急速に市民権を得たハロウィンは、いまや一大コスプレイベントになっていて。特に渋谷では海外からの参加者もいて、とんでもない騒ぎになっているじゃないですか。
そして、コスプレ同様に日本の……というか、渋谷のハロウィンの象徴になっているのが、騒いだあとに残される大量のゴミです。 にしの 偶然にも、作品内でハロウィンのお祭りを描いているし、主人公はゴミが集まってできたゴミ人間だし、これは絶対に絡めたほうがいいなと。それに、ハロウィンはあれだけ外国人も集まるイベントなのに、お土産がないんですよ。
だから、渋谷のハロウィンのお土産になってやろうと思って……途中からずいぶん商売っ気が出てきちゃったような感じです(笑)。
自分一人で「誰も見たことがないもの」がつくれるのか?
──およそ2、3年に1作のペースで刊行されていた過去3作に比べ、今回は完成までに4年半かかっています。その要因の一つとして、昨年4月の発表当初から大きな話題になっていた「超分業制」という制作体制にあると思いますが、どういった意図があるのでしょうか?にしの 絵本に限らず、僕の活動の根底には「誰も見たことがないものを生み出したい」という思いが常にあるんです。実は、『えんとつ町のプペル』も描き出した当初は、今までと同じ手法──ボールペン1本で書いていたんですけど、果たしてそれで「誰も見たことがないもの」になるのかなと。
同時に、ふと「どうして絵本は1人でつくることになっているんだろう?」という疑問がわいてきて。映画だったら、監督・脚本・音響・照明など、いろいろなスタッフが、自分の得意技を持ち寄って1つの作品をつくる。
世の中の多くのエンタメが分業制なのに、絵本はずっと1人、あっても絵と文の2人体制。クリエイターの中には、「空を描かせたら誰にも負けない」という人や、「キャラクターデザインなら右に出る者はいない」という人もいるだろうと。
それなら絵本でも、背景や建物、キャラクターなど、作品を構成する要素ごとにプロフェッショナルを集めて、1つの作品をつくったら、どんなものが生まれるのか見てみたいと思ったんですよ。 ──具体的な体制づくりはどのように進めていったんですか?
にしの なぜ分業制の絵本がないのか。突き詰めて考えると、やっぱりお金。そもそも、5000部や1万部でヒットと呼ばれる市場なので、売り上げが見込めないから制作費がかけられない。
そこで、クラウドファンディングで資金を集める一方、クラウドソーシングで人材も集めていきました。
──関わるスタッフの選定は非常に重要、かつ難しい部分だと思います。
にしの 選定については、イラスト特化型のクラウドソーシングサービスを展開しているMUGENUPさんに協力してもらいました。
分業制について考えた時期と前後して、当時MUGENUPの代表だった一岡亮大さんと会って話をする機会があって。すごく魅力的な方だったんですよ。会った当日に、「一緒に仕事しましょう!」というくらい。
クラウドソーシングで人を集めると決めたあと、MUGENUPさんに直接行って、サービスに登録している約3万人のイラストレーターの方々から、実際に絵を見て選んでいきました。結果的に、背景の六七質(むなしち)さんをはじめ、総勢33人が参加することになりました。
実は今回、出版社と装丁家の方にわがままを言って、参加してくれた全スタッフの名前を2ページにわたって載せてるんです。それこそ映画のクレジットみたいに。 ──多くのスタッフが関わる分業制では、従来の制作以上に大変な面もあったのではないでしょうか?
にしの スタッフ全員が作品の世界観や構造を把握しないといけないので、どうやって認識の統一を図るかは苦労しましたね。
絵のタッチはもちろん、カメラの位置に応じた背景の見え方など、細かなつじつまは緻密に考えました。作品がファンタジー(=嘘)なので、それ以外の部分はきちんと整合性を取りたいと思って。
そのために、PCでえんとつ町の地図をつくって、空間を把握して、ページごとに「そのシーンではこうだ」とか、毎晩のように話し合いましたね。
そういった作業を繰り返していたので、分業制が決まってから実際にペンで描き始めるまでに、1年くらいはかかったかもしれませんね。
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