9月9日・10日、群馬県・桐生市で行われた「第6回きりゅう映画祭」にて初公開されたこの作品は、桐生市を舞台に無口な織物職人・耕平が、ふとしたきっかけでローカルアイドル・めめたんにハマっていく過程が描かれています。
アイドルを追いかけたことがある人間ならば、思わず「あるある!」とうなずいてしまう細かい描写があり、アイドル好きの筆者にも思い当たる節がちらほら……。
また、主人公が一目惚れしてしまうソロアイドル・めめたんを、アイドルグループ・Luce Twinkle Wink☆のメンバーとして活動する現役アイドルの錦織めぐみさんが演じることで、なんとも生々しいアイドル像が生まれ、作品に説得力をもたせています。
さらには、ほぼしゃべらない孤独な中年の主人公を実力派俳優・中村まことさんが好演。仕事一筋のさみしい生活にアイドルが介入したことで、日常がうるおいをとりもどしていく物語がコミカルに、しかし切実に紡がれていきます。 今年で31歳になってしまった筆者は、作品最大の山場であるラスト付近で、自分の娘であってもおかしくない年齢の女の子にガチ恋してしまったおじさんの末路を目の当たりにし、あまりにも苦しく切な過ぎる姿に胸が打たれ、身につまされてしまいました。(これから作品を観る予定のドルヲタは、少々覚悟しておいていただきたいです!)
「きりゅう映画祭」で上映された際は、好意的な意見がありつつも、同業者からは批判的な声も受けたよう。しかし、SNSではたちまち話題になり、実際に観た方からは「主人公の堕ち方がおもしろい」「いままで見てきたアイドル界隈のリアルが描かれている」など、特にアイドルファンからの評価は上々。また、中には現役アイドルからの鑑賞報告もありました。
『堕ちる』は、これまで「きりゅう映画祭」でしか観る機会がありませんでしたが、10月30(日)に、東京・渋谷のLOFT9で上映会が開催。10月1日(土)には、その前売り券が販売開始となります。映画『堕ちる』は主役のオタク(新規)がライブ会場入って「何曲目にこれ振ってください」っておまいつにサイリウム配布されたり、主役のオタク(地蔵)が「手の動きがないんだよな」と古参に怒られたり、オタクあるあるシーンが多くてぐっときたよ!https://t.co/W08r1Z2UTu
— 絵恋ちゃん (@erenism) 2016年9月10日
そこでKAI-YOU.netでは、今作が映画初監督となり、これまでに乃木坂46やNMB48のMVをディレクションしてきた経歴を持つ村山和也監督にメールインタビューを行いました。重要なネタバレはないので、鑑賞前にお読みいただければ、さらに楽しんでいただけるかと思います。
真面目な織物職人が1人の女の子にハマっていく
──ローカルアイドルとそのオタクを映画の題材に選んだ理由はなんでしょう?村山和也(以下、村山) 今はどの地方にもローカルアイドルがいる時代ですし、これまで男女問わずアイドルと仕事をしてきたので、「アイドル」を題材にしたほうが、自分がつくる意味があると思いました。
「オタク」というと少しニュアンスが違うかもしれないですが、職人のような真面目で周りから尊敬されているような人間が、1人の女の子にハマっていくという感じは描きたかったんです。
プライドや世間体が邪魔することもあるんでしょうが、それを超越するほど、その子のことが好きで好きでしょうがなくなっちゃう、恋のどうしようもなさみたいなのは、経験したことある人も多いでしょうし、やっぱり人間っぽくて面白いなと思いますね。
アイドルファンが観てリアルだと思うのは最低限必要
──地下アイドルの現場(ライブやイベント)やオタクたちがとてもリアルに描かれていましたが、監督ご自身はアイドルは好きですか?村山 まったく興味がないというと嘘になりますが、アイドルにハマったことはないですね。もちろんライブを観たらすごいなと思いますし、敬意もあります。
作中の描写は、取材をしていく中で得たものを反映していて、ちょうど今年3月にAKB48の高橋みなみさんの卒業ライブに行きまして、初めてペンライトを触ったぐらいなので、ペンライトの色の変え方がわからないという場面は、実体験からきています。 ──作品のために地下アイドルのライブにも行かれたのでしょうか?
村山 取材でAKB48のファンミーティングに行ったんですが、そこで知り合った方がちょうど「Sからはじまる」というアイドルの運営にいた方で、ライブに行かせていただきました。
物販や握手会の感じとか、お客さんの雰囲気など、その時の強烈な印象が映画にも反映されています。ライブハウスの入り口でサイリウムを配ってる人がいたりとか、ファンからの祝い花が飾られていたりとかですね。
──私のようなアイドル好きが『堕ちる』を観ると、「あるある!」と思いつつ、アイドルファンのデリケートな部分にまでタッチしている印象を受けます。そのあたりのバランスは意識されていますか?
村山 アイドルファンの方が観てリアルだと思うのは最低限必要だと思いまして、取材に行ったりアイドル好きに脚本を読んでもらったりしてつくり込みました。その上で、映画として面白くする、ということを意識しています。また、3幕というベーシックな構成にしてます。
編集のテンポ感はMVっぽさがある
──これまで乃木坂46やNMB48などのMVの監督をされてきましたが、その経験が特に活きたシーンはありますか?村山 ライブシーンでめめたんが客席に「みんな、飛ぶよー!」と呼びかけるところがあるんですが、そこはRayさんというアニソンアーティストがライブで実際にやっていたのを引用してます。もちろん、いろんなアーティストがやられてると思うのですが、イメージはそのライブのシーンです。あとは、全体的に主題歌が流れているシーンが多いので、編集のテンポ感はMVっぽさがあるのかなと。
MV監督って実はファンの方が思っているほど、アイドルと距離感が近くなくて、ちょっと指示するぐらいの感じなんです。
MVは企画の面白さだったり、世界観をどうするかということが大きな要素を占めているので、『堕ちる』の設定が面白いと言ってもらえるのは、今までの仕事があったからこそなのかなと思います。 ──地下アイドル・めめたん役を起用するにあたり、どうして現役アイドルである錦織めぐみさんを選ばれたのでしょう?
村山 彼女の所属グループ・Luce Twinkle Wink☆のMVを監督したことがありまして、その時のアイドルらしい動きとかアニメ声の感じが役にハマりそうだなと。あとは、名前の響きが気に入っていて、実際、彼女の愛称も「めめたん」なんです。
──めめたんが作中で歌う曲「wonderland」が、アイドルソングとしてかなり秀逸な曲かも…! と思った瞬間、観ていた私も映画に引き込まれました。楽曲はどのようにつくられたのですか?
村山 音楽を担当してもらった前口渉※は古くからの友人で、具体的には、松浦亜弥さんなどソロのアイドルが盛り上がっていた時代っぽい楽曲のイメージでお願いしました。歌詞は映画のあらすじを見て書いてもらってるので、主人公の心情も反映された曲となっています。
※前口渉…作編曲家/音楽プロデューサー。『絶対可憐チルドレン』『ハヤテのごとく!』などのアニメ音楽や、SMAP、嵐、NMB48、A応Pなどのアーティストの楽曲にも携わっている。 ──中村まことさん演じる主人公・耕平が、ほとんど声を発さない描かれ方が印象的でした。モデルにした人物はいるのでしょうか?
村山 わりと自分の性格も反映しつつ、名前は一緒に暮らしていたのにほとんど言葉を交わさなかった叔父からもらっています。父親も極度に無口だったので、そのあたりはけっこう身内と自分を混ぜていますね。
人の人生を変えてしまうぐらいのパワーを持った存在
──アイドルと無縁だった男が、ちょっと怖いくらいに加熱的にめめたんにハマっていく過程がまさにタイトルどおりだと思ったのですが、タイトルにはどのような真意が込められているのでしょう?村山 「恋に落ちる」「堕落する」など、いろんな「おちる」があります。人から見たら堕ちていても、本人にとってはハッピーなことだったりしますよね。 ──では最後に、村山さんにとって「アイドル」とは、どういう存在ですか?
村山 「人の人生を変えるぐらいのパワーを持った存在」ですかね。
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イベント情報
映画『堕ちる』上映+トークショー
- 場所
- LOFT9渋谷
- 日程
- 10月30日(日)
- 時間
- 第1部OPEN 18:30/START 19:00(END 20:00予定)
- 第2部OPEN 20:30/START 21:00(END 22:00予定)
- 料金
- 前売¥1000/当日¥1300(税込・要1オーダー500円以上)
- 第1部・第2部は別公演(入れ替え制)となります。
- 前売券は10月1日(土)正午12時よりe+にて発売
トークショー
【出演】村山和也(映像ディレクター/『堕ちる』監督)
【第一部ゲスト】錦織めぐみ(Luce Twinkle Wink☆/「めめたん」役)
【第二部ゲスト】ジェーン・スー(作詞家/コラムニスト/ラジオパーソナリティー)
【進行】大坪ケムタ(ライター)
関連リンク
村山和也
映像ディレクター
1982年石川県生まれ。
CM制作会社を経て2008年よりMV・CMを中心に映像ディレクターとして活動をスタート。
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