なぜ、ぬいぐるみなのか──?
特撮×中川翔子「ヌイグルマーZ」 フルトレーラー
──今回の映画化に先立って発表された、原作の『縫製人間ヌイグルマー』は、どんな経緯から生まれた作品なんですか?大槻 えっとね、『縫製人間ヌイグルマー』を発表する前に、『ロッキン・ホース・バレリーナ』っていうバンドをテーマにした長編小説を書いたんです。でも実は、その時に『縫製人間ヌイグルマー』を先に書こうか『ロッキン・ホース・バレリーナ』を書こうか、〆切の3日前まで迷ってたんですよ。それで結局『ロッキン・ホース・バレリーナ』の方を書いたんだ。でも執筆に2年くらいかかっちゃった。その後、次の作品として『縫製人間ヌイグルマー』を『ダ・ヴィンチ』で連載し始めたんですが、あれは大変だったなあ……。
月に原稿用紙25枚くらい書くんだけど、他の連載もやってたから、なかなか書けない。なんとか連載を終えた後も、書籍にするために加筆しようということになって、編集部にカンヅメになって書いてたんです。最初のうちは、ホテルを取ってくれて、ご飯とかも頼んでいいんですよって言ってくれたの。すごくうれしかったんだけど、あんまり時間かかるもんだから、最終的には社内の小さな会議室みたいなところで書いてた(笑)。
中川 人間技とは思えない……。 大槻 でも、それ以降僕は長編小説書いてないんですよ。疲れちゃったの。マラソンと一緒で、小説っていうのは一回止まっちゃうとなかなか再スタートさせるのが難しいんです。ステージで歌ってダイレクトにお客さんの反応をもらう快感を知っていると、孤独に原稿に向き合っていく世界になかなか戻れないんだよね。
中川 そうやって全ての活動をなんとか両立させながら、『縫製人間ヌイグルマー』は生まれたんですね……すごい……!
大槻 いやあ、頑張ってたなあ、僕も。よし、もう今日は、お互いの褒め殺し大会にしよう! しょこたんもすごいよ。テレビをつけるといつも映ってるし、ガラパゴス諸島とか深海とかにも行ってるんでしょ?
中川 色んなところにいく番組を担当していたので、すごくいい経験をさせてもらいました。ただの中野のひきこもりだった私が、様々なカルチャーから力をもらって立ち上がれたから、色んな世界を見させてもらえるんだなって思えてうれしかったです。深海は特にすごくて、5000メートルまで潜ったんですよ。
大槻 いいなあ。イカとかは見れたの?
中川 イカは1000メートル付近に1番多いらしく、5000メートルは深すぎてあまり生き物はいないんです。1000メートルおきに生物の流行りが、ゲームのキャラの分布みたいに変わるんですね。5000メートルのところには、すごくセクシーな色をしたなまこがいました。おもしろかったのが、潜った場所が研究者の方の間で「しょこたんサイト」っていう通称で呼ばれているみたいで。というのも私が潜った後、そこに地割れができて、ゲル状の何かがたくさん噴出して生き物が集まり始めたらしいんですよ……。
大槻 それこそ映画みたいな話だなあ。聖域に踏み込んだために地面が割れて……ってなんだオカルト雑誌みたいな話ですねえ。
──気になる話ですが、話をむりやり戻しますね(笑)。一連の「ヌイグルマー」作品についてなんですが、そもそもなんで大槻さんはぬいぐるみをモチーフにつくられたんでしょうか? プライベートでも快獣ブースカのぬいぐるみを溺愛しているそうですが、それがやはり関係してるんですか?
大槻 そうなんです。「ヌイグルマー」って存在が生まれたのは、快獣ブースカのぬいぐるみと話をしはじめたのが、たぶんきっかけですね。ちょうどその頃30代で、僕、すっごく寂しかったんです……。男30代、寂しいっすよ。 中川 えっ、そうなんですか??
大槻 そうですよ。30代とは、寂しくわびしいものなんです。40代になると逆にどうでもよくなってきたんだけど、当時はとにかく寂しくてさあ。でも人といるのも疲れるし、犬や猫を飼うっていうのは責任を伴うでしょう? じゃあちょっとだけしゃべってくれるキャラクターみたいなものが、そばにいてくれたらなあって思ってて。それで、部屋にあった快獣ブースカのぬいぐるみ相手に問わず語りみたいなことをしていたら、そいつが語りだしたんです! まさに『TED』状態ですよ! あ、これね、宣言しますけど『TED』より『縫製人間ヌイグルマー』の方が先ですよ(笑)! ある高名なマンガ家の人が言っていたんだけれど、ハリウッドには日本のマンガを訳しておいしいところだけ使うブローカーみたいな人がいるんだって。そいつらにヤラれたんだ! って思ってます。
まあそんなことがあって、ぬいぐるみと人との関係やぬいぐるみの持つ哀愁を描きたい、って思って「戦え!ヌイグルマー」という曲をつくり、小説にまでしちゃったって感じなんです。
この記事どう思う?
0件のコメント