連載 | #1 カイユウクリエイターズファイル

次世代ポップセンスのカタマリ──イラストレーター・きぬてん インタビュー

次世代ポップセンスのカタマリ──イラストレーター・きぬてん インタビュー
次世代ポップセンスのカタマリ──イラストレーター・きぬてん インタビュー

「ネオロマンサー」

唯一無二のキャラクター造形と色彩感覚で独自の立ち位置を持つイラストレーター・きぬてんさん。星海社より刊行されている『ワニ』『夜跳ぶジャンクガール』、そして記念すべき第一回星海社FICTIONS新人賞受賞作『ブレイク君コア』イラストを担当している(いずれも著作は小説家の小泉陽一朗さん)。

2012年には Google がコミックマーケットに出展するということで大きな話題となった「Google+ Cover Project」への参加や、高島屋の広告イラストの制作、さらに2013年に入ってからはオリジナル・グラフィグ「はるかぜちゃん」の発売など、その多岐に渡る活動で注目を集めている。

連載企画「カイユウクリエイターズファイル」では、編集部が自信を持っておすすめするあらゆるジャンルの様々な作家と作品を紹介していく。今後、回を重ねていくことで、現在のクリエイティブシーンの最前線がどうなっているのか、どういう人たちがつくりあげているのかを解き明かしていきたい。その第一回目として、まだメディア露出をあまりされていないきぬてんさんにお話を伺った。

どこにも属さないポップさ

──きぬてんさんといえば、まずその一度見たら忘れられないようなポップかつ特殊な絵柄が目を惹きます。どのようなものから影響されたのでしょうか。

きぬてん ASIAN KUNG-FU GENERATIONのCDジャケットなどの仕事で有名な、イラストレーターの中村祐介さんや、ロッテの「小梅ちゃん」や漫画『赤色エレジー』で知られている林静一さんからはとても影響を受けていると思います。実際、絵柄で見るとまったく似ていないのですが、ああいったイラストならではの、独特の平面表現や塗りが好きでした。なんでハマっていったのか、パっと感覚的に出てきたものなので、理由を言葉で説明するのは難しいのですが、ずっとこのスタイルでやってきました。 「ワニ」

──現在、イラストレーターと呼ばれる人の数はとても多く、プロ・アマの境界を抜きに年齢や国籍すら関係なく、皆さんとても上手です。様々な媒体で活躍されているきぬてんさんですが、イラストを仕事にするということについて、どう考えていますか?

きぬてん 最近では「パズドラ」の大ヒットが話題になっていますが、ああいったソーシャルゲームの隆盛などで、かなりイラストそのものの需要が伸びているなという印象は受けます。けれど、自分の絵柄だと、そういった成長市場に関わることができないので、実は「痛いなー」って思ったりしていますよ……(笑)。
どんなにイラストの需要が高まったとしても、イラストレーターが毎月発注されるような安定した仕事を得るには、何かの雑誌やWebといった媒体に連載を持つといったことしかありません。そういう意味でも、ソーシャルゲームのイラストは定期的な発注も実はあるので、現在イラストで食べたいと思っている人や、これからイラストレーターになろう! と思っている人にとって重要だし、見逃せないものだと考えています。

──たしかに、きぬてんさんはオタク文脈にもアート文脈にも属さない、もしくはどっちにも属しているかのようにも見える特殊な作風だと思います。

きぬてん 大学の研究室では広く「イラストレーション」と呼ばれるものを研究し、学んでいたのですが、所属している人の9割がアート志向でした。なんか絵の具をぶちまけたような抽象的な作品から、写実的な風景画まで、いろんな作風の人がいましたが、ただ単に自分の描きたいものを全部アート的な方向や文脈にして発表する場だったように思います。自分ももちろん、そういったものに影響されているのですが、いま自分が仕事で描いているイラストは、やっぱり少し違うんだなと思うような気がします。 「夜跳ぶジャンクガール」

「イラスト」「デザイン」そして「キャラクター」について

──きぬてんさんにとってのイラストレーションとはなんなのでしょうか

きぬてん 広告や商品のパッケージだったり、本の表紙などのデザインの一部に使われる……ある種、素材の一部だと考えています。イラストは、文字や装飾というものと同じ土俵と位相にある。だから当然、クライアントの注文はしっかりと受けますし、こういう風に描いてくれと言われたら、全力をかけてそれを実現させています。幸いなことに、依頼される段階で、自分の絵はこういうタッチだと知られているので、あまりに外したような絵柄は求められませんが(笑)。イラストって、すべてのものに必要なものでは絶対ないけれど、あったら多くの人から嬉しがられるし、求められる。日常生活で、楽しいとかキレイとか、そういう嬉しいことをプラスするような要素だと思っています。

──今後はどのようなお仕事をなされていきますか?

きぬてん イラストの中でも、特にキャラクターというものにもともと興味があって、先日、pixiv Zingaro というギャラリーで開催された「グラフィグ展」でも「はるかぜちゃん」というオリジナルキャラを制作させていただきました。他にも、とあるキャラクターのオリジナル衣装のデザインにも挑戦したり。今後、ゲームやアニメといった方面でも、キャラクターなどのデザインがきたらすごく嬉しいなと思います。
自分には絵を動かすような技術はまったくありません。アニメーターという職業はイラストレーターとはまったく別の職業だと思います。だから誰かに自分のキャラクターを動かしてもらえるだけでも、すごく嬉しいんです。IMAGICAさんが展開されている『空想活劇』という音楽とイラストのプロジェクトがあるのですが、第二弾のプロモーション・ビデオの中で少しだけ自分の絵を動かしていただきました。いま思うともっと素材を描いておけばよかったなと思います(笑)。まだあのころは、素材を描く力というか、動画に対して意識的に絵を描くことを知らなかったので……。絶対また挑戦したいと考えています。 「ブレイク君コア」

きぬてんさんは5月5日に開催される自主制作漫画誌即売会・COMITIA104にて、ポストカードやイラストポスターの他に、冬をテーマにしたイラスト集「WINTLE」(既刊)を頒布される予定だ。是非とも足を運んで欲しい。


きぬてんさんのTwitter
https://twitter.com/kinuten

きぬてんさんのpixiv
http://www.pixiv.net/member.php?id=99775

きぬてん // kinuten

イラストレーター

1986年生まれ。東京工芸大学芸術学部卒業。ハイセンスな画面構成が光るイラストレーター。2011年、星海社から刊行の小説『ブレイク君コア』(著・小泉陽一朗)のイラストを担当。「世界と遊ぶ!展」「グラフィグ展」といった展覧会に参加するほか、渡辺麻友の3rdシングル「ヒカルものたち」や「Google Cover Project」へのイラスト提供、同人即売会への出展など、ノンジャンルで形に捉われない活動を続ける。

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