イラストレーターでありながら、プロダクトブランド・性的殺意を手がけるなど、その活動は多岐にわたるhima://KAWAGOE(以下、hima://)。
9月21日(水)にリリースされたロックバンドである挫・人間のミニアルバム『非現実派宣言』でジャケットイラストも担当したが、以前からタイムカプセルレコーズというレーベルの主宰をつとめるなど、アーティストとしての側面は実に多彩だ。
今回はそんな彼女のイラストレーターとしての原点を探るとともに、象徴的なアパレルプロダクトを制作し続ける性的殺意の真意を聞いた。
企画・編集・取材・写真:ふじきりょうすけ
hima:// 絵は独学で、全く勉強してないんです。デッサンもやってないし、基本的に漫画を描く知識でやってますね。雑誌の『小学◯年生』のオマケに付いていた描き方講座の小冊子とかからです。
そのせいか、いまだにペンで主線を描かないと、絵が生きてる気がしなくて。トレス台、原稿用紙、ペンを使ってイラストを描いています。
デジタルだけで仕上げたイラストってまったく絵として認識できないんですよね。清書の作業はペンでしないと、私のなかで絵として認められないんです。
──漫画の知識で描かれているということですが、イラストに大きな影響を与えた作品などがあるのでしょうか? hima:// 『HUNTER×HUNTER』と『ポケットモンスターSPECIAL』(ポケスペ)しかないくらいの勢いです。特に『ポケスペ』は絵柄の基礎になっているくらい、ものすごい影響を受けてますね。
ただ、漫画は、次のコマに視点移動させるために筋肉の動きがあるせいで、キャラクターやアングルが動的なんですよ。それだと漫画っぽすぎると思って、創作に切り替えるタイミングで、動きからくる熱いものを失くしたんです。筋肉の引き算ですね。そうやって今の絵はできていきました。
──作家によっては1枚の絵のなかで、どれだけ動きを想像させることができるかが個性になったりすると思うんです。どうして引き算の表現になっていったんでしょうか?
hima:// 動きがあると「どこから来たのか」って想像するじゃないですか。例えば、なんでジャンプしようと思ったのか、そういう性格なのか、それとも足腰が強いのかとか。それを一瞬で見せるのがキャラクター性の強いイラストだと思うんです。だけど、自分ではやりたくない。 hima:// たとえ自分で描いたイラストでも、負けず嫌いだからキャラクター的な存在にしたくないんですよね。イラストには私が好きなものを詰め込むので、キャラクター化してしまうとライバルになっちゃう。
いきなりそこに存在させたいというか、前後関係をすべてなくしたいんですよね。性格や人生を知りたくないんです。 ──人をメインに描いているものの主役というわけではないんですね。
hima:// ちゃんと血は通ってるんですけど、人生がないマネキンですね。人の形をしているけれど、一瞬の志とか執念、強い気持ちみたいなものだけが詰まった概念なんですよ。
性別も中性のつもりで描いてます。発達のいい中学生とか、ちょっと幼い男の子。なるべく性別に関して意識したくないんです──というか、普段の生活の中でも意識していないのがフラットな状態ですね。 ──人や性別の要素を削いでいく一方で、ヘッドフォンや楽器を持たせたり、身体は傷だらけだったり。むしろ個性、キャラクターたらしめようという意思があるのかなと思っていました。
hima:// キャラクターにしたいわけではなくて、なんでこれを選んだかってことだけを伝えたいんです。例えばベースの「リッケンバッカー」を持ってる子だったら音楽を武器にしているってとこだけをフィーチャーしたい。だから、人間性は排除されているんです。
傷は努力の結果ですね。キャラクターがどうこうしてきたとかじゃなくて、傷ついても立ち上がりたいっていう意思をフィーチャーしたいんです。 ──以前、別のインタビューで「七転八倒が私の座右の銘だ」ということを言っていたのですが、イラストに表れる意思と共通していますね。
hima:// これはあんまり言いたくないんですけど、イラストはほぼ自己投影なんです。自分が一番主張したい意思が強く出ますね。
「誰か助けて」みたいな精神状態のただ病んでる絵は嫌いです。そうじゃなくて「やっぱ戦わんと」って。傷に関しても、やっぱり培ってきた辛いこととかをなしにはできない、という過去の自分に対するアンサー。ある日、いきなり過去の自分をテーマにできた瞬間があって、創作もそこからできるようになったんです。
hima:// 本当は服である必要性もないんです。だけど、ブランドだと全身で表現できるのが強いなって。
まずイラストレーターの私としては、見た人が「(これは)自分かもしれない」って思わせる絵を描きたい。その人のライフスタイルというか、中身を尊重してるんです。
性的殺意も同じで、つくったものにハマる人を探してる。だからプロダクトは入れ物に過ぎないんですよね。つくり方は絵と同じなんです。
──イラストレーターの方が服をつくる場合、イラストをプリントしたプロダクトを発表することも多いですよね。性的殺意が、直接的にイラストを扱わないのはなぜなんでしょう。
hima:// 絵の内容をプロダクトとして表現したいだけなんです。だから性的殺意に対して、私がファッションデザイナーやプロダクトデザイナーだと思って臨んだら全然だめ。肩書きはイラストレーターじゃないといけないんですよ。
本当に大事なのは絵そのもの。私のイラストを見た時に「ボロボロで戦ってるのは私かもしれない」って思いながら、待ち受けにしてくれたりする(受け手の)気持ちなんです。 hima:// だけど、私のイラスト観というのは、キャラクターたちが乱立して個性的に生きてワールドを構築しているものではない。それなのに服にイラストがプリントされてたら絶対やりたいことと違うし、かっこ悪いって思ってしまう。私の伝えたいことから一番離れてしまう気がしているんです。
──イラストの中で着せている服をつくっていくというわけでもないですよね。
hima:// イラスト全体を見たときに、そこで描かれている「殺意」だとか強さだとか。フェチ的な部分を抽出した結晶みたいな。
イラストに描いた服のディテールの場合も、「ここを守りたいから、ここは大きく、あるいはタイトに見せたい」という情報ですよね。つまり伝えたい世界観の核をもとに、イラスト/キャラクターグラフィックを一切入れずに制作したプロダクトが性的殺意なんです。
9月21日(水)にリリースされたロックバンドである挫・人間のミニアルバム『非現実派宣言』でジャケットイラストも担当したが、以前からタイムカプセルレコーズというレーベルの主宰をつとめるなど、アーティストとしての側面は実に多彩だ。
今回はそんな彼女のイラストレーターとしての原点を探るとともに、象徴的なアパレルプロダクトを制作し続ける性的殺意の真意を聞いた。
企画・編集・取材・写真:ふじきりょうすけ
イラストをキャラクターにしたくない
──hima://さんのイラストについて中間色を中心にした淡い色使いや、過剰とも言えるほど平面的な画風が印象的だと思っていました。どうやって今のテイストに行き着いたのかうかがいたいです。絵はどこかで学ばれたんですか?hima:// 絵は独学で、全く勉強してないんです。デッサンもやってないし、基本的に漫画を描く知識でやってますね。雑誌の『小学◯年生』のオマケに付いていた描き方講座の小冊子とかからです。
そのせいか、いまだにペンで主線を描かないと、絵が生きてる気がしなくて。トレス台、原稿用紙、ペンを使ってイラストを描いています。
デジタルだけで仕上げたイラストってまったく絵として認識できないんですよね。清書の作業はペンでしないと、私のなかで絵として認められないんです。
──漫画の知識で描かれているということですが、イラストに大きな影響を与えた作品などがあるのでしょうか? hima:// 『HUNTER×HUNTER』と『ポケットモンスターSPECIAL』(ポケスペ)しかないくらいの勢いです。特に『ポケスペ』は絵柄の基礎になっているくらい、ものすごい影響を受けてますね。
ただ、漫画は、次のコマに視点移動させるために筋肉の動きがあるせいで、キャラクターやアングルが動的なんですよ。それだと漫画っぽすぎると思って、創作に切り替えるタイミングで、動きからくる熱いものを失くしたんです。筋肉の引き算ですね。そうやって今の絵はできていきました。
──作家によっては1枚の絵のなかで、どれだけ動きを想像させることができるかが個性になったりすると思うんです。どうして引き算の表現になっていったんでしょうか?
hima:// 動きがあると「どこから来たのか」って想像するじゃないですか。例えば、なんでジャンプしようと思ったのか、そういう性格なのか、それとも足腰が強いのかとか。それを一瞬で見せるのがキャラクター性の強いイラストだと思うんです。だけど、自分ではやりたくない。 hima:// たとえ自分で描いたイラストでも、負けず嫌いだからキャラクター的な存在にしたくないんですよね。イラストには私が好きなものを詰め込むので、キャラクター化してしまうとライバルになっちゃう。
いきなりそこに存在させたいというか、前後関係をすべてなくしたいんですよね。性格や人生を知りたくないんです。 ──人をメインに描いているものの主役というわけではないんですね。
hima:// ちゃんと血は通ってるんですけど、人生がないマネキンですね。人の形をしているけれど、一瞬の志とか執念、強い気持ちみたいなものだけが詰まった概念なんですよ。
性別も中性のつもりで描いてます。発達のいい中学生とか、ちょっと幼い男の子。なるべく性別に関して意識したくないんです──というか、普段の生活の中でも意識していないのがフラットな状態ですね。 ──人や性別の要素を削いでいく一方で、ヘッドフォンや楽器を持たせたり、身体は傷だらけだったり。むしろ個性、キャラクターたらしめようという意思があるのかなと思っていました。
hima:// キャラクターにしたいわけではなくて、なんでこれを選んだかってことだけを伝えたいんです。例えばベースの「リッケンバッカー」を持ってる子だったら音楽を武器にしているってとこだけをフィーチャーしたい。だから、人間性は排除されているんです。
傷は努力の結果ですね。キャラクターがどうこうしてきたとかじゃなくて、傷ついても立ち上がりたいっていう意思をフィーチャーしたいんです。 ──以前、別のインタビューで「七転八倒が私の座右の銘だ」ということを言っていたのですが、イラストに表れる意思と共通していますね。
hima:// これはあんまり言いたくないんですけど、イラストはほぼ自己投影なんです。自分が一番主張したい意思が強く出ますね。
「誰か助けて」みたいな精神状態のただ病んでる絵は嫌いです。そうじゃなくて「やっぱ戦わんと」って。傷に関しても、やっぱり培ってきた辛いこととかをなしにはできない、という過去の自分に対するアンサー。ある日、いきなり過去の自分をテーマにできた瞬間があって、創作もそこからできるようになったんです。
イラストの世界観をもとにプロダクトを制作する性的殺意
──イラストレーターであるにもかかわらず、ブランド・性的殺意を立ち上げた理由は?hima:// 本当は服である必要性もないんです。だけど、ブランドだと全身で表現できるのが強いなって。
まずイラストレーターの私としては、見た人が「(これは)自分かもしれない」って思わせる絵を描きたい。その人のライフスタイルというか、中身を尊重してるんです。
性的殺意も同じで、つくったものにハマる人を探してる。だからプロダクトは入れ物に過ぎないんですよね。つくり方は絵と同じなんです。
──イラストレーターの方が服をつくる場合、イラストをプリントしたプロダクトを発表することも多いですよね。性的殺意が、直接的にイラストを扱わないのはなぜなんでしょう。
hima:// 絵の内容をプロダクトとして表現したいだけなんです。だから性的殺意に対して、私がファッションデザイナーやプロダクトデザイナーだと思って臨んだら全然だめ。肩書きはイラストレーターじゃないといけないんですよ。
本当に大事なのは絵そのもの。私のイラストを見た時に「ボロボロで戦ってるのは私かもしれない」って思いながら、待ち受けにしてくれたりする(受け手の)気持ちなんです。 hima:// だけど、私のイラスト観というのは、キャラクターたちが乱立して個性的に生きてワールドを構築しているものではない。それなのに服にイラストがプリントされてたら絶対やりたいことと違うし、かっこ悪いって思ってしまう。私の伝えたいことから一番離れてしまう気がしているんです。
──イラストの中で着せている服をつくっていくというわけでもないですよね。
hima:// イラスト全体を見たときに、そこで描かれている「殺意」だとか強さだとか。フェチ的な部分を抽出した結晶みたいな。
イラストに描いた服のディテールの場合も、「ここを守りたいから、ここは大きく、あるいはタイトに見せたい」という情報ですよね。つまり伝えたい世界観の核をもとに、イラスト/キャラクターグラフィックを一切入れずに制作したプロダクトが性的殺意なんです。
この記事どう思う?
関連リンク
連載
KAI-YOUがおすすめする気鋭のクリエイターのインタビュー連載。 イラストレーター、小説家、デザイナー、トラックメイカー、映像作家、アニメーター、エンジニアなどなど、次世代のカルチャーを担う要注目のクリエイターをいち早く、紹介していきます。 ポップと未来がここにある!
0件のコメント