連載 | #4 カイユウクリエイターズファイル

hima://KAWAGOEインタビュー イラストレーターによるブランド「性的殺意」の真意

自分のなかのコンセプトをしまえる場所が性的殺意

性的殺意のアイデアを描いた創作ノート

──そもそも性的殺意という名称にはどんな意味が込められているんですか?

hima:// 性的殺意は生きることについて、ものすごい肯定しているんです。ネーミングに関しては、文字通り性的の「性」であり、生きるって意味や要素を兼ね備えた人間の泥臭い「生」でもあり。

そして人を傷つけたり、自分を傷つけたりするような「殺意」。そんな「行き場のない殺意」を持つ人が日常生活を送ると、ドロップアウトするか全部隠して普通のフリするかという、0か100かしかないじゃないですか。それは大変だろうと思って。

でも、本の裏側に「みんな死ね」って書いてても、ブックカバーがあれば別に誰も気付かないし、自分だけが発散できてる。そういう気持ちを人の目の前に隠し持つことで、暴走を止められる可能性があるんじゃないか。そういった自分のなかのコンセプトをしまえる場所にしてほしいんです。

──人間賛歌というよりは、個人が感じている生きづらさを肯定したいというブランドなんですね。

hima:// だから必要なくなったら捨ててくれていいんです。あるいは、一生それを守り続けてても全然良くて。もう「中二病は治らないから」って諦めて、カッコよく中二病やるっていう。

性的殺意「COLLECTION BLUE」花束のワンピース

──商品名やキャプションにもそういったメッセージを込めているんでしょうか。

hima:// 性的殺意は、「コピーから入ってるのか」と聞かれるくらい商品名が良いと言われるんです。商品に名前があって、ちょっとしたキャプションがあるだけで、私はそれ以上の説明は一切しない。

そんななかで、なんで自分はこれを買うのかってことを考えられる人に性的殺意を身につけてほしい。ある程度高い値段が付いているなかで、自分がお金を払う意味について考えられる人にしか向けていないので、なかなかハードルとしてはキツめではあるんですけど。

──イラストも性的殺意も同じだと先ほどおっしゃっていたのは、「自分を投影できるか」を考えて欲しいという点なのでしょうか。

hima:// そうですね。私が意味を出しちゃったら、その人が持ってる本来の「殺意」について、私の意見に頼っちゃうじゃないですか。

でも、自分が強い意思をもってないと守るものがないから、「殺意」の理由だけは自分だけで見つけなきゃいけない。人の言葉で埋め尽くされたものじゃだめなんです。

はばたくための性的殺意」というシリーズが過去にあったんですけど、その時も「自分にとって何のための羽なの?」という考えの余白を残しています。

性的殺意「はばたくための性的殺意」

あえて水野しずの個性を消した「COLLECTION BLUE」

──8月に発表されたコレクション「COLLECTION BLUE」で、一番必要だったのは『ミスiD2015』グランプリに選出された水野しずさん起用のビジュアルだったんですよね。

hima:// 話してきた通り、私が性的殺意でつくってるものは私の絵と本質的には同じものなんですけど、伝わりづらくて。だから、間口をちょっとだけ広げて「プロダクトの形だけど、hima://KAWAGOEの絵じゃん」ってなるまで、わかりやすく性的殺意を表現する二次元的なグラフィックが必要だったんです。

撮りたかったのは青バックで、二次元イラスト的な写真。写真に写るひとつひとつのパーツにもキチンと意味があって、実はストーリー性もある。そこが重要で、水野しずさんそのものを見せたかったわけではない。だから意図的にしずさんの個性は消しています。

性的殺意「COLLECTION BLUE」

──確かに、モデルから人間らしさはあまり感じられないですね。

hima:// わざわざしずさんを使ったのに、贅沢なことだとは思います。でもモデルさんの要素をフィーチャーしたいわけではなくて、性的殺意のコンセプトをリアルな手法で表現したんです。

この画面が性的殺意の今であり、ベース。どうだわかったか! みたいな(笑)。

創作は音楽/イラストレーション/性的殺意をつなげる研究

──イラストを軸にしながら、多彩な活動をされているhima://さんが、今後どういったことをされたいのかを聞かせていただけますか?

hima:// より絵描きとしての自分を固めるために、性的殺意をどう立ち回らせるか、というのが一番やっていきたいことです。

制作のアイディアは、いつでもどんな時でも出てきて。それに対応するフローとかすぐにそれを具現化する力やシステムをつくっておくことで私はもっと絵が描ける。絵が描ければもっと見えるものがあってそれをまた性的殺意に落とし込むことができる。その繰り返しなんです。とにかくその純度をどんどん上げていく作業ですね。

最終的には音楽/イラストレーション/性的殺意が確実にリンクした状態っていうのが私自身の目標ではあるんです。性的殺意自体は、そのテーマに、より総合性をもたせる役割です。

──3点のなかで、音楽はどういう立ち回りになるんですか?

hima:// ロックバンドの挫・人間のジャケットでは、「性的殺意のネックウォーマー付けてる子を描いてほしい」と向こうから要望をいただいたり。

私は、直接的に音楽を聴いてる人を増やしたいというよりは、自分が音楽に救われてきたんで、性的殺意から音楽が聞こえてきて、自分が大事にしてる音楽をより深められるシステムにしたいのかな、と。

それは、性的殺意で言いたいことそのものなんですよ。「音楽が私の血なんだよ」って。そうじゃないと、しんどくてしょうがないっていう人に向けて、アピールできるようにしたいんですよね。

性的殺意「COLLECTION BLUE」ミュージックドリップ

hima:// とにかく研究研究。正直、なんか成功しようとか、成し遂げたいって感じじゃなくて、一生研究し続けてきたいんですよ。自分が追ってるものはなんなのか、ずっと研究費用を稼いでそれを研究材料にして、ずっとその繰り返し。止まったら死ぬ。っていう感覚だけしかわかんないですね。

いつかサイクルそのものに名前が付いて、真ん中に座れたらいいですね。それが夢です。私は本当にこの3つをやってぐるぐる回っていることはわかるんですけど、名前がないんですよね。名前が見つかったら落ち着くかもしんないですね。

──やりたいことがなくなっちゃうかもしれない。

hima:// そしたら死んじゃうかもしんないですけど。いやー、死ぬまでにその名前を見つけたいですね。
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