『バクマン。』が採用した、映像技術を駆使した漫画表現
映画において漫画を描くという描写は、ただ机に向かってペンを走らせるだけではエンターテインメント性に欠け、地味になりがちです。本作品でも漫画を描くシーンをどのように描くのかが最大の難点だったのではないでしょうか。その問題をクリアするために大根監督が用いたのが、プロジェクションマッピングです。プロジェクションマッピングは映像をダイレクトに人や空間に投射する技術。それを大胆に使って演出することで、原作さながらに躍動感あふれるシーンを再現しています。
描いている漫画や頭の中で考えているネームが、登場人物からみるみるあふれ出しているようにプロジェクションし、壁や天井全体に映像がダイレクトに映し出されるシーンでは、映画を観ているにも関わらず、まるで漫画を読んでいるような感覚におちいります。
ペンで描いたり線を引く音にリズムを付け、ロックバンド・サカナクションによる劇中音楽によって臨場感と疾走感がさらに場面を盛り上げます。
また、サイコー・シュージンのコンビと新妻エイジによる心理バトルでは、CGを駆使し、巨大なペンを武器にトーンやインク、台詞が浮き出すなど、スピーディーに相手を攻撃。このシーンは劇中の音楽と相まって爽快感すら感じられます。
こういった映像技術がふんだんに盛り込まれている点も本作の魅力となっています。
リアルなジャンプ編集部の裏側!
本作の撮影では、ロケ地に本物のジャンプ編集部が使用されたことでも話題となりました。新人が原稿を持ち込む様子や編集部員の構成など、普段見ることのできない裏側を知ることができます。そこで垣間見えるジャンプ最大の特徴のひとつとして、読者アンケートを重視している点が挙げられます。集計結果によっては、人気作家でも作品が打ち切られることも……。
そんなシビアな業界にただの高校生である2人が身を投じ、はじめて編集部に原稿を持ち込んでから読者アンケートで1位を獲得するまでもわかりやすく描いていて、本作はある意味、漫画家のドキュメンタリーという側面もあるかもしれません。
『週刊少年ジャンプ』はその長い歴史の中で数々の人気作品を生み出してきました。その歴史の裏側には、漫画家だけではなく担当や編集部の果てなき努力があります。本作品ではその歴史の片鱗をみることもできます。
高校生が少年漫画界の頂点である週刊少年ジャンプで連載し、そのうえ読者アンケートで1位を獲るというのは、現実的には不可能に近いファンタジーのようなことです。しかし劇中では、高校生漫画家を実現させるために編集部をはじめとする多くの大人が登場します。
連載途中にサイコーが過労で倒れ、編集長から休載を命じられたときも、サイコーは周囲の人々と力を合わせて漫画を描き続け、見事ライバルの新妻エイジを抑え、読者アンケートで1位を獲得。『週刊少年ジャンプ』の頂点に立つのです。
漫画家ひとりでは読者に届けることはできません。ひとつの作品を完成させるには担当者をはじめ多くの協力が必要です。傑出した才能と色々なものを犠牲にするがむしゃらな努力、だけではなく、夢の実現のためには長い道のりがあり、多くの支えがあってこそだということを、『バクマン。』は描いています。
最後の最後まで見逃せない! エンドロールに注目!
サカナクション / 新宝島
棚に並ぶ歴代ジャンプ作品の単行本が次々と映し出されますが、よく見るとそこにもとある工夫が施されています。通常、エンドロールといえばただスタッフの名前が流れていくだけのものが多いですが、『バクマン。』は最後の最後まで観客を飽きさせることはありません。
そのアイデアは、多くの人を驚嘆させています。どのような細工が施されているのか、実際に劇場で確かめてみてほしいです。
執筆者:こがかなえ
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