湯浅監督が全話解説! 『ピンポン』無料配信特設サイトがすごい

第6話おまえ誰より卓球好きじゃんよ!!

――チャイナにカラオケをさせたのはどういう理由だったんですか。

湯浅 辻堂のみんなと仲良くなっていくというシーンを作りたかったんです。本当はカラオケにいくまでの、積み重ねも描きたかったんですが、時間の都合で全部カットしてしまって。かろうじて一緒にワンタンを作ってるシーンが残っているんです。それでこのあたりの絵コンテを描いているうちに、クリスマスを舞台にすればいいんじゃないかと思い付いたんです。でチャイナに2コーラス目まで歌わせて、その時にキャラクターを全員スケッチすればうまくまとまるだろうって。やっぱりクリスマスって、『ピンポン』の卓球ばっかりやっているキャラクターたちからすると対極にあることなんで、そこで対比をつくるのがいいんだろうなって。

――点描されるキャラクターの中に、大田が入っているのがいいですよね。

湯浅 大田も、若い頃はそんな興味なかったキャラクターなんですけれど、改めて見ると『プレイボール』の田所と似たポジションなんですよね。田所は弱小野球部のキャプテンなんだけれど、ほどほどに楽しんでやりたいと考えてた田所と、入部してきやり手の主人公と意見が合わなかったりするんです。「俺たちあそこまでやれないよな、うちの手伝いもあるし」って、そういうところに共通したリアリティがあるなって思ったんです。大田はきっと片瀬の中で田所みたいなんだろうなって思ったら理解できたんです。

――一方、真田のカットではベッドの脇にティッシュがころがってました。

湯浅 高校生が主人公だし、もっと性的なニュアンスも入れたいと思ったんです。とはいえ、松本さんのマンガだからなって自粛していた部分もあって。でも、お会いした時に「湯浅さんならやるんですよね?」って言われて(笑)、期待されているなって思ったんです。ただ入れようと思っても、実際にはなかなか入れづらかったんです。それで目をつけたのが真田。真田には申し訳ないけど、真田が一番普通の高校生だろうって、そういうカットを作りました。ただもともとのキャラとはちょっと違ってはいるんで、心配になって松本さんにメールを送ったりして。

――返事はどうだったんですか?

湯浅 アニメはアニメ、原作は原作なので自由にしてください、というお返事でした。ドラゴンは卓球だけに集中できてますけど、やっぱり好きな女の子もいて、部活もあって、そこを行ったり来たりしているのが普通の高校生かなと。ああいう入れ方するとギャグっぽくなってしまうんですけれど。でも入れないよりも何かあった方がいいと考えました。

――第6話は人気のある話数ですよね。

湯浅 前後ではっきり別れて、クリスマスのシーンとアクマとペコのいいシーンがセットになってる構成なんですよね。一番この話数が、ふわっと松本作品から外れている雰囲気もあるんですけど。でも、それがいいと思ってもらえたらうれしいですね。それがアニメ『ピンポン』のバランスのような感じがします。

――海に入ったアクマが叫ぶところは顔がおもしろいですよね。

湯浅 原作でああいうコマがあるんですよね。松本さんって、たまにわざと崩れた絵を描く時があるんです。最終話でオババが、出かけていくスマイルがドラゴンに「オーイ」って声をかけているところなんかも、わざと絵を崩して描いてる。ほかにもオババが急にタヌキみたいになっていたり、月と星のマーク同士が会話しているみたいなコマ割りとか。松本作品を読んでいても、なかなかそういう部分は見落としちゃうところを、推していこうというのが今回のテーマでもあるので。『ピンポン』って真面目なばかりじゃないんだよって。

――川を流れていくペコを矢印で指しているのも笑えました、

湯浅 原作は橋で飛び降りるシーンと海へ行くシーンの二つあるんですよね。それ一個にしちゃったので、川から海へ流れていくっていう流れが必要になったんですよね。で、流れているところは矢印をつけないとわからないだろうなぁと。もともと、橋の上でしてる会話は、原作では海でしている会話なんですよね。 第6話おまえ誰より卓球好きじゃんよ!!

第7話イエス マイコーチ

――スマイルと小泉のエピソードです。

湯浅 なぜスマイルがコーチのところへまた戻ってくるのか。最初に原作読んだ時は何も違和感がなかったです。でも改めて監督するにあたって読み直すと、ちょっとよくわからなかったんですよ。で、いろいろ考えたんですが、スマイルはペコを待っているんだけれど、それだけじゃないんだよなって思い至りました。スマイルの中に父性を求める部分もあるよなって。そう思って読み直すと、オババがちゃんとセリフで説明しているんですよね。両親は早くに別れて、母親も夜も遅くにしか帰らないし、力強く愛してやらなきゃ不安になるって。セリフでさらっと触れられているだけだから、全然意識に残らなかったんだなと。それで第6話で家に帰って一人でいるスマイルを前もって絵にしておいたんです。絵にするとベタな印象にはなりますが、深く残りますから。

――小泉はどうでしたか?

湯浅 小泉も面白いんですよ。子どもがいるって原作で言ってるけど、とても子どもがいるようには見えないんですよね。月本に対するオドオドした態度の取り方は。そこがおもしろかった。あとは小泉とオババの関係ですね。オババが小泉に「愛してやる気がないなら、一切手を引くんだね」なんていうところは、ちょっと昔を感じさせますよね。アフレコの時はサラっと聞いてしまったんですが、聞き直すと、そのサラっとしている分だけいろいろ感じられて野沢さんすごいなと思いました。

――ベタというお話が出ましたが、今回は間口の広い語り口を目指したのでしょうか。

湯浅 ポピュラリティあるものを作りたいっていうのは『ピンポン』に限らないですけどね。だんだんそういうふうに考えるようになってきました。僕も原作が好きだから、本当は原作のままでいい気もするんです。でもやっぱり新たにTVアニメで見る人のことを考えると、もっと見やすい方がいいし、今の感じになってた方がいいし、新しいものが入っていた方がいいと思うんですよね。 第7話イエス マイコーチ

第8話ヒーロー見参

――オリジナル要素の多かった第5~第7話を経ての第8話です。

湯浅 松本さんに第6話、第7話のプロットを見せた時、「これ、入らないですよね?」って言われたんです。自分でも盛り込みすぎかなとは思っていたんですが、そうしたら案の定やっぱり入らなかった(笑)。それで第8話の冒頭で百合枝が怒っているシーンがありますが、あれは第7話のバレンタインのエピソードの続きなんです。話数をまたいだので、なんで怒っているか、ちょっとわかりにくくなってしまいました。

――第8話からクライマックスに向けて、映像もぐっと力が入ってきます。

湯浅 第8話は、演出の許さんがすごく安心してお願いできる人でした。エピソード的には、チャイナにすぐには負けてほしくなくて、1回かっこいいところを作ってあげたかったんです。でないと1年前に負けて、ワンタン作ったりカラオケばっかりして、結局また負けちゃう、みたいに見えちゃうので。チャイナにもチャンスがある感じにしたかったんです。そういう意味では試合もちゃんと盛り上がって。ちょっとお母さんの件も入れられたし。原作の展開の中でうまく足し算できたのかなと。

――素朴な質問ですが、指先でボールを回したり、回したボールをラケットにはわせたりするのは、よくやられることなんですか。

湯浅 練習方法でボールを回転させて動体視力を鍛える、というのがあるそうです。やり方は卓球取材に協力してくれた北脇(慶亮)さん選手から教えてもらいました。ただ、練習としてはすごくポピュラーな感じではないので、チャイナが教えるぐらいがいいのかなと思って採用しました。回転は僕も練習しましたけど短い間ならできますよ。時々落としたりするんですけど(笑)。やってみるとわかるんですが、本当にラバーって強烈な回転がかかるんだというのが実感できます。あとボールをラケットにはわせるのは、世界ランク1位だったティモ・ボル選手がやっているCGっぽい動画があるんですよ。簡単に移動させるなら北脇さんもできるっていうので、ならばやらせようと。アニメなんでちょっと盛り気味にはなっていますが。あいいう技を最初に見せて、相手を威圧するらしいです。 第8話ヒーロー見参

第9話少し泣く

――第9話は準決勝の様子を軸に進展します。

湯浅 第6話で、僕の予定しなかった曲が選曲されてすごくよかったので、第9話の後半もそれを前もって意識出来てたのでうまくいきました。第9話の後半ラストです。ペコの回想から会場へ向かう流れ。6話の最後、自分だったらあんなに短いシーンで意気揚々とした曲はつけられないだろうと思っていたんです。もうちょっと感動系で引っ張ったんじゃないかと。でも、その短い中で上手く上がる音楽を入れて勢いをつけるんだっていうのがすごくいいと思って。ここでよくイメージを切り替えてきたなぁって。それ以外のところでも盛り上がる曲とか、早めからガンガン行っちゃうとそれで意外とシーンが立つということがわかりました。そのあたりの選曲の仕方は、すごく勉強になりました。 第9話少し泣く

第10話ヒーローなのだろうが!!

――湯浅監督も第10話を演出したかったそうですね。

湯浅 『ピンポン』は、やっぱり第10話というか、ドラゴン戦でしょう(笑)。試合シーンももうここまできたら、大変だけどやるしかないという状況ですし。第10話の試合については、早い卓球を意識しました。ただアニメで早くみせようとすると、実際よりも速く描かないとそう見えないんですよ。それで何カットかは、ものすごく速いストロークを入れました。スマイルのセリフのところに鼻歌も敷いて、その後オオルタイチさんのヒーローのテーマを持ってくるのは最初から決めていて、これで完璧と思ってやってました。

――ドラゴン側にドラマの比重がありますよね。視点がありますよね。

湯浅 ドラゴンって人が、何から解放されて、何がヒーローなのかをはっきり描くことが第10話の目標でした。実写映画版はペコに感情移入させて、ペコと一緒に気持ちがぐっと入っていって勝つって感じに構成してあったんですけれど、アニメ版はやっぱり敗者の視点だろうなって。それで、ドラゴンから見たペコを描くのがいいだろうなと思ったので。音楽も前半はドラゴン寄りでべったりやって、後半はペコ寄りでベタッと流していくプランをたてました。演出してくれたウニョンさんもすごく頑張って、時間のない中で絵をたくさん描いてましたね。ドラゴンなんかは、結構ウニョンさんのタッチが入ってます。あとだんだん色が抜けて白い世界になっていくといのも手間がかかる要素でしたけど、うまくやってくれました。

――ウニョンさんとはいろいろ一緒にやられていますが、やりやすいのはどこですか?

湯浅 合っているところはやりやすいですね。あのパース感とか絵の感覚は近いですね。一緒に仕事している中で一番近いくらい。でも、合ってないところは、どうしようもないくらい違う(笑)。彼女も主張が強いですから。だから、やりやすいだけじゃないんですけれど、今回もいろんなことを考えていろいろやってくれていました。 第10話ヒーローなのだろうが!!

第11話血は鉄の味がする

――サブタイトルの言葉は第1話から出ているセリフです。

湯浅 原作の最初から言われていた「血は鉄の味がする」の意味を自分なりにずっと考えていたんです。初見では分からなくて混乱しました。それがやっているうちにだんだんはっきりしてきて、『ピンポン』という物語はロボットになったスマイルが、血を取り戻す話なんだろうっていうことが見えてきました。あのセリフは、ロボットだと思っていても、本当は血が通っているんだよ、血だって鉄の味がするんだから皆と同じだよ、っていうセリフなんだって。ロボットになったスマイルがペコに救済されるというか、ペコは救済のつもりはないんだけれど、本人が楽しんでやっていることが、スマイルのいろんなものを解放するというか。

――第10話、第11話でペコがなぜヒーローなのか具体的に描かれます。

湯浅 ペコは遊びでやってるのに、めちゃくちゃ強い。それが彼がヒーローたる由縁だろうと思います。ペコはもともと、いいやつなんですよね。子供のころはいじめっ子とかをたしなめたり。正義の人なんですよね、どこか。高校生ぐらいになるとあんまりそうでもないけれど(笑)。

――『手のひらを太陽に』はとても印象的でした。

湯浅 第11話がドラマ的に一番盛り上がるのはやっとペコと出会って、握手して、一発目が決まるところまでなんですよ。そこでもう実質的にお話は終わっているんですよね。だからあとは月本の気持ちに乗せて一曲『手のひらを太陽に』を流して締めくくろうと考えました。このアイデアは松本さんから褒められましたね。「それはいいと思います」って。月本の血の話にもぴったり合うような歌詞だし、意味にも広がりがあるし、皆知ってる歌だし。原作ではクライマックスで子供時代が出てくるのはペコとスマイルとアクマなんですが、ほかのキャラクターもいたほうがいいだろうと、アニメではメインキャラクター全員の子供時代を登場させました。 第11話血は鉄の味がする

1
2
3

SHARE

この記事をシェアする

Post
Share
Bookmark
LINE

関連キーフレーズ

0件のコメント

※非ログインユーザーのコメントは編集部の承認を経て掲載されます。

※コメントの投稿前には利用規約の確認をお願いします。

コメントを削除します。
よろしいですか?

コメントを受け付けました

コメントは現在承認待ちです。

コメントは、編集部の承認を経て掲載されます。

※掲載可否の基準につきましては利用規約の確認をお願いします。

POP UP !

もっと見る

もっと見る

よく読まれている記事

KAI-YOU Premium

もっと見る

もっと見る

アニメ・漫画の週間ランキング

最新のPOPをお届け!

もっと見る

もっと見る

このページは、株式会社カイユウに所属するKAI-YOU編集部が、独自に定めたコンテンツポリシーに基づき制作・配信しています。 KAI-YOU.netでは、文芸、アニメや漫画、YouTuberやVTuber、音楽や映像、イラストやアート、ゲーム、ヒップホップ、テクノロジーなどに関する最新ニュースを毎日更新しています。様々なジャンルを横断するポップカルチャーに関するインタビューやコラム、レポートといったコンテンツをお届けします。

ページトップへ