湯浅監督が全話解説! 『ピンポン』無料配信特設サイトがすごい

第2話スマイルはロボット

――小泉とスマイルの勝負が描かれます。

湯浅 最初はインターハイ予選が始まる第3話までいかないと盛り上がらないかなと思っていました。でも、第2話は月本がロボットであることをはっきり打ち出すということと、小泉との勝負があり、作っているうちに意外と盛り上がりそうだなって手応えを感じました。原作と変えたのは小泉がバタフライジョーに言及するタイミング。ちょっと早すぎる気がしたので、もうちょっと後にとっておくことにしました。後で改めて実写映画版を確認してみたら、やっぱり実写映画版もバタフライジョーの話題を出すのは後回しにしていて、同じようなところを気に掛けたんだなと思いました。あと第2話は、演出の伊藤(秀樹)さんがスライド(キャラクターを動かさないままスライドさせる演出)を多用したんですよね。それを見て「あ、意外にスライド使える」と思ったので、そこからいろんな形でスライドを入れるよう意識的に絵コンテを描くようにしました。

――『ピンポン』では原作のコマの分割を参考にした画面分割の効果もよく使われます。

湯浅 画面分割は分割にする分、作業はめんどうになる部分もあるんです。でも、アクションそのものはあまり長く描かなくてすむメリットはあるんです。それから見せ方についても、コマを一つずつ消していくとか、逆に増えていくとか、いろいろな見せ方ができる。コマの中の動きについても、ずっと動かすのか、1回動いたきりなのか選択肢がいろいろあって、実験をしながら面白いと思った手法をよく使うようにしていきました。画面分割の見せ方は、ある程度は担当の各話演出にお任せしました。終わったコマが残っているのが嫌じゃなかったらそのままでいいし、嫌だったらフェイドアウトさせてもいいし。だから、いろいろな見せ方が出てきましたね。 第2話スマイルはロボット

第3話卓球に人生かけるなんて気味が悪い

――第3話ではインターハイが始まります。

湯浅 第3話は画面分割が一番ピークに達した話数ですね。第1話はそんなに分割していなかったんです。それで第2話で積極的に始めて、第3話はちょっと行きすぎた(笑)。なので第4話以降からはまたちょっと減っていきます。第3話では、トイレでドラゴンとアクマが会話するところで、ドラゴンのまわりにアクマの顔が次々出てきて喋るくだりは、画面分割がおもしろく使えたかなと思いました。マンガ的な見せ方というか。第3話の演出の荒川(真嗣)さんは、今動いているコマに視線を集めたいので、終わったコマは消したり色を抜いたりしてますね。インターハイが始まる時に全面にコマ並べてPANしたりと、3話は画面分割のピークです。

――カメラがトラック・バックしながら体育館で練習をしている風景をとらえるところは、Flashで制作したそうですね。

湯浅 Flashを担当したのはスペイン出身のファンマやアベルを中心にしたサイエンスSARUのチームです。以前、フランスの会社で仕事をした時に知り合いました。『ピンポン』に入る直前に『アドベンチャー・タイム』(カートゥーン・ネットワークで放送中のアメリカ製アニメ。湯浅監督はそのうちの1話「「食物連鎖(Food Chain)」を担当)を一緒に制作しました。Flashはシンプルなアニメーションをつくると、手描きよりきれいにできるんですが、難点は、パーツがバラバラで切り紙アニメっぽくなってしまうんです。でも、彼等の技術はそれが手描きにしか見えないんです。さらにチームの一人が卓球がうまい(笑)。それで参加してもらって、第1話のスマイルのメガネからカメラを引いていくところとか、今回の体育館でカメラを大きく引いていくところとかFlashでしか出来ないシーンを中心にやってもらいました。そういうカットは作画でやろうとすると難しいんです。動画の詰めがうまくいかないとスムーズに見えなかったり、体育館のようなカットでは物理的に相当大きな絵が必要だったり。それがFlashでは自然にできる。あとコピー&ぺーストでキャラクターを増やすこともできるので、モブシーンでも力を発揮してもらいました。

――キャラクターに目を転じると、江上くん劇場も第3話からですね。

湯浅 (笑)。それまでは原作に忠実に進んできたんですけど、第3話ラストで江上くんを持ってきたことで「これからは江上くん、フィーチャーするぞ!」みたいな気持ちになりました。この時点では最終回まで出すかどうかは決めていなかったけれど、とりあえず次は海で出そうと決めてました。

――第3話はほかに、チャイナにあっさり負けてしまうポーくんとポーくんの彼女も印象的です。

湯浅 あの2人は、荒川さんが特にこだわっていました。アフレコの時に「ギャグっぽくならないでほしい」という注文をさんざんいっていて。僕はOKかなと思うテイクでも、「もっと普通に」ってやり直しをお願いしてました。結果、よかったですね。実写によくあるやり過ぎ感をギャグにする方向とはまったく別ベクトルで、リアリティの中のギャグになっていましたね。 第3話卓球に人生かけるなんて気味が悪い

第4話絶対に負けない唯一の方法は闘わないことだ

――インターハイ予選後半戦です。

湯浅 僕は絵コンテを描きながら第4話が一番おもしろくなるんじゃないか、と思っていたんですよ。牛尾(憲輔)さんにドラゴンの音楽は笑えるくらい超人的にすごいやつにしてくれってお願いしたら、実際にそういう曲が上がってきたので(笑)、「これはいける!」と思いました。一方、制作状況でいうと、卓球を含めた作画とかは、慣れるまでまだちょっと苦戦していた時期でもありますね。

――アクマがペコに勝利するのもポイントです。

湯浅 このアクマ対ペコの試合は、独自に卓球の試合を組み立てられたと思います。あそこでアクマがロビングをやってペコを苦しめるというのは、卓球の勉強をしてきたかいがあって、すごくアクマっぽい戦い方になりました。
――海王の設備に言及され、すごく近代的な設備であることもわかります。

湯浅 第4話は実は時間が余ったんです。それで海王の設備を延々としゃべるみたいなことになって、ちょっとギャグみたいになっていますね。……というか、ふざけてはいないけれど「どんだけだよ!」と突っ込んでもらえればいいと思ってやってました。

――尺が余ることもあったんですね。

湯浅 各話ごと、一応ここまで描くっていうエピソードの区切りは決めているので、絵コンテを描きながら足したり引いたりして調整をしていったんです。それでもやっぱりばらつきは出ましたね。本当に尺が足りなくなったのはこの後の、第6話、第7話、第8話です。第4話はインターハイ予選終わりまでって決まっていたので、試合をやり終わったところで珍しく時間が余ってしまったんです。 第4話絶対に負けない唯一の方法は闘わないことだ

第5話どこで間違えた?

――第5話からはオリジナル要素も増えます。

湯浅 第4話で盛り上がったラストに百合枝が登場して、原作ファンが「アレッ?」ってなったあとに続く感じですね。“原作通りでおもしろい”っていってくれていたであろうファンがどう反応するかわからない、第5話、第6話、第7話の始まりでした。いちおう第5話の場合は、アクマがスマイルに勝負を挑みに行くところが原作のエピソードなので、そこが押さえになればなとは思っていました。

――ペコが女の子と海で遊んでます。

湯浅 やっぱ高校生だから、そこは女の子と遊びにいくようにしたいと思ったんです。ペコはたぶんあの子にそんなに気があるわけではないんでしょうけれど、遊びが好きでそっちに流れているという。ただ、後で聞いたらペコ役の片山(福十郎)くんは結構ゲームセンターでゲームやってたっていうんですよ。それを知っていれば、原作みたいにゲームセンターで遊んでいるペコが膨らんだかも知れないです。僕があまりゲーマーというのがわからなくて、舞台を海に変えたところもあったので。片山くんに合わせて、ゲームセンターもなくはなかったなって。

――ペコのモニタが割れた携帯というのもインパクトあります。

湯浅 前から出して見たかったんですよ。モニタが割れているのって、気にしない人は気にしないんですよね。たとえば、ウニョンさんの携帯もモニタがバキバキに割れている(笑)。ほかの人からみると「何それ?」みたいな状態なんですけれど。ペコもきっと気にしないだろうなと思ってそうしました。

――アクマが片瀬高校に乗り込む時に、片山さんの鼓が入ります。

湯浅 原作に、乗り込んできたアクマを小泉が新撰組の隊士にたとえるセリフがあるんですけれど、やや唐突かなぁと思っていたんです。それでどうしようかなと考えていたんですが、片山さんの鼓を使いたいと思っていたので、ここにハメればいけるかなって思ったんです。乗り込む前に鼓を使ってちょっと特別なシーンを作っておけば、そこが上がりすぎていることで、そのあとの会話の違和感が無くなるだろうと計算しました。 第5話どこで間違えた?

【次のページ】第6話〜第11話コメント掲載!
1
2
3
この記事どう思う?

この記事どう思う?

関連キーフレーズ

0件のコメント

※非ログインユーザーのコメントは編集部の承認を経て掲載されます。

※コメントの投稿前には利用規約の確認をお願いします。