“ボカロ文化の祭典”こと「The VOCALOID Collection ~2026 Summer~」(略称・ボカコレ2026夏)運営が8月24日、一部作品をランキング集計対象外とした措置を巡り、公式Xで声明を発表した。
運営は今回、投稿作品に対する利用規約の適用基準を厳格化していたと説明。一方、その方針について事前の周知が不足していたことや、対象のクリエイターへの通知や説明が適切に行われなかったことを謝罪した。
今回の一件で浮かび上がったのは、単なる規約運用上の問題だけではない。
二次創作や引用、既存の文化・プロダクトを取り込みながら発展してきた「ニコニコ動画」、そしてそこを起点に発展してきたボカロ文化。
その延長線上で生まれたオンラインイベント「ボカコレ」が巨大化する中で、イベントとして要求される権利処理の厳格さと、文化がもともと持っていた自由な創作性との間に、摩擦が生じた格好だ。
3DSをMVの演出に使用 ボカロPの楽曲がランキング対象外に
「ボカコレ2026夏」は、ドワンゴが主催するVOCALOID楽曲の投稿イベント。期間中に「ニコニコ動画」にタグをつけて投稿された動画を対象に、「TOP100」をはじめとしたランキング企画などが実施されている。
問題が広く知られるきっかけの一つとなったのが、ボカロP・奏さんによる8月23日のXへの投稿だ。
奏さんは「ボカコレ2026夏」のTOP100ランキングに楽曲「ツァイトガイスト」で参加。しかし、同作はランキングの集計対象外となった。
本人がボカコレ運営から受けた回答を要約して公開した内容によれば、理由はMV内で他社商品であるニンテンドー3DSを、単なる映り込みではなく「意図的・主体的なメイン演出」として使用したことだったという。
また、該当部分を修正して動画を再投稿した場合についても、TOP100ランキングでは「ニコニコ動画へ初投稿の楽曲」であることが参加条件となっているため、ランキングには復帰できないと説明されたという。
実際、ボカコレ公式のFAQでは、他のプラットフォームですでに公開されている楽曲でも参加できる一方、「ニコニコ動画に初投稿の楽曲」であることが条件として明記されている(外部リンク)。
なお、今回の措置について「3DSを映像に使用すること自体が権利侵害にあたる」と判断されたわけではない点には注意が必要だ。
奏さんが公開したのは、あくまで「ボカコレ」運営がランキング参加作品について下した判断であり、第三者の知的財産権を法的に侵害したと認定されたものではない。
ボカコレ運営、規模拡大などを受け「投稿規約の適用基準を厳格化」
こうしたランキング対象外の措置を巡っては、SNS上で「ボカコレ」に参加したボカロPたちからも疑問の声が上がる中、運営が声明を発表した。
運営によれば、今回ランキング集計対象外とした作品の大半について、コンテンツ投稿規約に抵触すると判断したという。
現在公開されている規約では、参加作品について、応募者自身が権利を持つか、利用についてすべての権利者から同意を得ていることを要求。また、著作権や商標権、意匠権、肖像権など「第三者の有する一切の法的権利」を侵害しないことを応募者が保証すると定めている。
「ボカコレ」投稿規約。該当箇所は「本コンテンツの条件」部分に記載されている/画像は公式サイトより
重要なのは、運営が今回、規約そのものを新設したとは説明していない点だ。
運営は、これらは「ボカコレ2026夏」のサイト開設当初から記載していた事項だとした上で、イベントの規模拡大に伴い「ランキング参加作品全体に対し、権利関係を含む確認をこれまで以上に慎重に行う必要がある」と判断したと説明。
そのため「投稿作品に対する利用規約の適用基準を厳格化」したとしている。つまり今回変化したのは、規約の文章というよりも、実際の作品に対して規約をどの程度厳格に適用するかという運用面だったことになる。
ボカコレ過去開催時との判断に差 運営が周知不足を謝罪
一方、運営は今回の発表で、一連の厳格化を十分に周知できていなかったことを認めている。
声明では、規約を厳格に適用することについての事前周知がXでの投稿にとどまり、「クリエイターの皆様への周知努力が不足しておりました」と謝罪した。
さらに、過去の開催では「当時の運用基準に照らしてランキング集計の対象」としていたため、今回の判断との間に差異が生まれ、それが参加者の不信感につながったとの認識も示した。
ランキング対象外となったクリエイターに対して、「事前の対象外通知や理由のご説明が適切に行えなかったこと、心よりお詫び申し上げます」と謝罪している。
つまり「従来と異なる厳格な基準を適用するのであれば、制作・投稿するクリエイターに事前に十分伝えるべきだった」という運用上の問題を認めた形だ。
二次創作と共に育ったボカロ文化 巨大化するボカコレとの摩擦
今回の問題が複雑となったのは、「ボカコレ」がそもそも二次創作と極めて近い場所で発展してきた、という文化的土壌を持つイベントというだからだろう。
2020年に立ち上げられた「ボカコレ」について、運営するドワンゴは当初から、ボカロ文化ならではの二次創作活動の活性化に寄与するイベントを目指すと説明していた。
これまでの開催でも、オリジナル楽曲だけでなく、REMIX、歌ってみた、踊ってみた、演奏してみたといった二次創作作品の順位を競うランキングも実施。2022年春にはそうした作品を含め約4400件が集まった。
そもそも“イベント会場”となっているニコニコ動画では、誰かが投稿した作品を歌い、踊り、演奏し、REMIXし、MMDやMADなど別の表現へと変換する営みが、長年にわたって文化を形成してきた。
現在の「ボカコレ」も、自らを「ボカロ文化をきっかけに生まれたインターネット等で活動するクリエイターやユーザー、企業など、ボカロに関わる全ての方が参加できるボカロ文化の祭典」と位置づけている。
一方、イベントの規模が大きくなればなるほど、主催者が作品を公式サイトやSNS、協賛企業を含む各種媒体で紹介する機会も増えていく。
「ボカコレ2026夏」でもランキング上位曲がゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』に収録されるなど、媒体を超えた企画なども実施。「ボカコレ」はユーザー間の投稿祭だけではなく、クリエイターが商業的なフィールドへと接続する機会にもなっている。
そういった立場からすれば、運営が第三者の権利が関係する作品について慎重になろうとする理由も理解できる。
しかし、その基準をどこまで厳しく設定するのか。そして、実在の商品や企業ロゴ、既存文化へのオマージュや引用などを作品へ取り込む表現と、どう折り合いをつけるのか──今回のランキング除外の判断は、「ボカコレ」が成長したからこそ直面した問題とも言えそうだ。
次回以降は「修正動画」の受付やガイドライン策定を検討
運営は今後、作品投稿に関する重要事項について、十分な猶予を持って事前に伝えるコミュニケーションを徹底するとしている。
さらに次回以降に向けて、ランキング対象外となる箇所を修正した動画の投稿を受け付ける仕組みや、チェック体制・システムの改善、投稿規約を解説するわかりやすいガイドラインの策定を検討するという。
また、各ランキングと「エキシビション」で投稿規約を分けることも検討すると説明。エキシビションは、ランキング制ではない自由な作品発表を楽しむ企画。2026年にはMMDや演奏してみたといった二次創作作品も対象となっており、ランキングとは異なる役割がより明確になっている。
「ボカコレ」エキシビジョンの投稿作品/画像は公式サイトより
「ボカロ文化の祭典」を掲げながら、巨大な公式イベントとして必要になるルールをどう設計するのか。
自由な創作を歓迎する場所であることと、そこで発表される作品の権利関係を厳格化することは、本来どちらか一方だけを選ぶ問題ではない。
だからこそ今後は、「何を禁止するか」だけではなく、クリエイターが制作に入る段階で判断できるほど具体的な基準を示し、修正する機会も含めて参加できる仕組みをどうつくるかだろう。
今回の混乱は、ニコニコと共に育ってきたボカロ文化と、その文化を背負うほどにイベントとして大きくなった「ボカコレ」との関係を、あらためて問い直す出来事になっている。
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