「自虐は免罪符になる」貧乏一家の生存戦略
「自虐は免罪符になるんだよ 貧乏とかブスとかデブとかチビとかハゲとか こいつが自分からネタにしてるんだから 笑っていいしイジっていいしバカにしていいんだって こいつはそういう存在なんだって 見てる奴らの罪悪感を鈍らせる その鈍った感覚を親近感と勘違いしたバカがお金を落としてくれんの」
出典:松尾あき『ファミリー・ショー』4話より
これは美言がファミリーチャンネル「ファミリー・ショー」を運営する方針として、最初に家族に伝えた言葉です。キレッキレですね。
人気商売において親近感が無視できない要素なのは誰もが頷くところでしょう。YouTuberも例外ではありません。
美言は悲しいかな、自虐に徹することで歪な親近感を持ってもらえることを、同級生の前で道化を演じていた経験から知っていました。
そしてこれが動画制作においてもヒットします。家族総出で貧しさを売りにする「ファミリー・ショー」は巷で話題になり、始動からまもなく登録者数は1万を突破。収益化も果たします。順風満帆です。
しかし、活動の中で2つの爆弾を抱えることになります。
主人公の“美言”という名前に込められた皮肉
爆弾の一つ目は元クラスメイトでストーカー気質の反転アンチ・脇森太郎の存在で、もう一つは精神的に追い込まれていく母の動向です。
脇森は家族に危害を与える可能性すらあるアンチとして登場します。現状は美言が上手いこと言いくるめ、金銭を貢がせる形に落ち着いていますが、何かきっかけがあれば暴発するのは明白で、不気味。
母は「ファミリー・ショー」の運営に疑問を抱き続けたストレスで魔が差し、よりによって美言の学校の教師と不倫に及んだ末、それを美言に目撃されて親としての立場が形無しになってしまいます。
ここで何より恐ろしいのが、美言が母の不倫を半ば確信しながら泳がせて、決定的な現場に撮影しながら乗り込むという行動を起こしたことです。面白い動画を撮るためなら、家族の不貞すら利用する美言の振り切れっぷりが空恐ろしい(あるいは、「ファミリー・ショー」の運営に後ろ向きだった母を脅して従わせる意図があったのかもしれません)。
何にせよ、脇森も母も掌の上で転がしている美言の人心掌握術が恐ろしいです。単純な脇森には都合の良い甘言をささやき、気弱な母には薄っすらと脅しをかけて従わせる、言葉で人を操る能力がエグい。“美しい言”という名前は皮肉たっぷりです。
他にも実質的にチャンネルを指揮している美言に思うところがある父・信行、姉と両親の言いなりのように見えて何を考えているのか不明瞭な弟・礼と、火種はそこら中に転がっています。
美言はいつか、坂道を転げ落ちるように転落していくのではないか──危うい綱渡りに目が離せません。
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