作曲家「OHTORA」の技巧を探る ホロライブへの提供楽曲と新EPを繋ぐ共通点

OHTORAが引き出した、ホロライブ「ReGLOSS」の音楽性

OHTORAさんがプロデュースし、11月6日にリリースされたReGLOSSの1stアルバム『ReGLOSS』は、英米圏のエレクトロニックおよびダンスポップのスタイルを積極的に借用しながら、既存のホロライブ所属タレントのオリジナル楽曲とは異なるテクスチャーを示す。



筆者は、日本の音楽シーンにおいて、“都会の感覚”が重要な節を担ってきたと考えている(※)のだが、英米圏テクスチャーをVTuberの音楽に取り入れようとする挑戦は、バーチャル空間を都会化しようと試みているように見える。

(※)近年、海外でリバイバル・ヒットしていることが話題になっている「シティポップ」はまさに字のとおり。「渋谷系」も都心の地名を前面に出す。宇多田ヒカルさんの登場と共にJ-POPの中心となった「R&B」も、都会の香りを漂わせている。

閑話休題。1stシングルである「瞬間ハートビート」は、ReGLOSSがデビューする前に制作された楽曲ではあるが、夢うつつを歩くような雰囲気でチームの方向性を示し、適宜なボーカルパート配分でメンバーの魅力を際立たせている。

OHTORAさんによる「瞬間ハートビート」のセルフカバー

シンメトリー」「bvdiz」「LAKI MODE」のように、ヒップホップのリズムを用いた楽曲では、OHTORAさんのメインフィールドであるラップやR&B特有のグルーヴを発揮。

フィーリングラデーション」「SUPER DUPER」は、maeshima soshiさん(※)の編曲によるEDMアンセムが楽しめる。

泡沫メイビー」の繊細な夢幻性は、ReGLOSSの表現に深みを与えてくれた。

(※)maeshima soshiさんは、「瞬間ハートビート」「シンメトリー」「泡沫メイビー」「フィーリングラデーション」「bvdiz」の作編曲を担当。

ReGLOSS「泡沫メイビー」

同一のコンポーザーが制作したことが功を奏したのか、『ReGLOSS』の収録楽曲はドリーミーな感覚や世界観が通底している

歌詞は具体的な時空間を描写するというより、抽象的な言葉で心境を比喩するようなものが多く、作編曲面においても、音色がそこまで尖っていないシンセ・パッドがメインの音を支える。

では、そのドリーミーな感覚や世界観は、どこから生まれたのだろうか。『ReGLOSS』のリリースと同月に発表されたOHTORAさんのEP『共犯』は、そのヒントになるだろうか。

同じ運命を添い遂げる相手とは共犯関係にある──『共犯』

『共犯』は、“同じ運命を添い遂げる相手とは共犯関係にある”というコンセプトで制作されている。



『共犯』の幕を開く「感傷的前夜」で<“生きる”はevilのアナグラム>と歌われるように、恋愛感や死について罪や過ちを抱え、そして生にしがみつきながらもがき苦しみ、 葛藤している様子を、抽象的で比喩的な言葉を交えながら、生々しい歌詞で描いている。

「感傷的前夜」は<Ding Ding Dong>というオノマトペではじまるのだが、歌詞が進むにつれ、それは列車が訪れる音だと気付かされる。

<次の列車>というリフレインは、離別の後も続く人生と投身自殺予告を二重に想起させる──しかし「感傷的前夜」では、そんな両極性すらもポップなメランコリーさで包んでいる。

OHTORA「感傷的前夜」MV

もちろん、投身自殺は<nightmare>であったと、次の曲「Drowning Synchronized Swimmer」で明かされる。リバーブのかかったギターにファルセットを乗せたトラックは、闇に沈んでいく<キミとボク>の様子を音としてもよく表している。退廃的なイメージと甘味なメロディーが共存する、オルタナティブR&Bの肝を再現したと言える。

届かない相手を愛してしまった矛盾をダンサブルなリズムで昇華する「182」と、倦怠期を送るカップルの苦しい心境がエモラップに表れている「BLACK HIACE」。両者はともに『ReGLOSS』ではなかなか見れなかった具体的なシチュエーションや、「薬(ドラッグ)」や「死」など退廃的なキーワードが言及されるのも印象的だ。

HARD2RUG」はこの「薬」「死」というキーワードで、他のEP収録曲とテーマの繋がりを見せつつも、アップなテンションのジャージー・クラブ・ラップで、<本当の自分が何処の誰に忌み嫌われようが/愛を音で貫く未来>と、諦念と覚悟の言葉に急旋回を切る。

<いつだって死は身近にいる 断頭台/自ら望むべきじゃない too young to die>と、他のEP収録曲に垣間見えていた自殺願望にもアンサーしている(結局、最後には<盲目な生の亡者>と締め、命の価値を運命に隷属させてはいるのだが)。

『共犯』と『ReGLOSS』に共通するOHTORAの技巧

『ReGLOSS』とは打って変わって、OHTORAさん自身がアーティストとして生み出す音楽からは、決して清々しくはない、大胆なメッセージを読み取ることができる。

それは生と死の関係についてより、本質的な感情の根源に踏み込むための戦略なのだろう。

だからと言って、表現の術が劇的に変わっているわけではない。抽象的で比喩的な言葉に、具体的なシチュエーションのニュアンスや解像度を調節し落とし込み、全く異なるテーマを表現する技巧を見せている。

OHTORAさんの音楽をまとう抽象的な言葉は、ときに現実と夢の狭間を、またときには生死の狭間を行き来して、人を取りまく現象や想いを書き留める。

その踏み込みは、VTuberの音楽においては次元の狭間に生きる人の姿を見出し、自身の楽曲においては生死の狭間にある闇への希望を見出している。

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楽曲情報

『共犯』

1.感傷的前夜
作詞曲:OHTORA, 作編曲:maeshima soshi
2.Drowning Synchronized Swimmer
作詞曲:OHTORA, 作編曲:maeshima soshi
3.182
作詞曲:OHTORA, 作編曲:maeshima soshi
4.BLACK HIACE
作詞曲:OHTORA, 作編曲:maeshima soshi
5.HARD2RUG
作詞曲:OHTORA, 作編曲:maeshima soshi

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