作者の力量が表れる、失恋した登場人物の描写
筆者が本稿の冒頭に、“恋に敗れた登場人物の描写にこそ、恋愛漫画の真価がある”と書いた理由。
それは、失恋という手痛い経験をその登場人物の成長に繋げられるか否かに、作者の力量が表れると考えているからです。
一方が幸せになり、一方が不幸になるだけであれば、単純に物語としても片手落ちでしょう。読後感にも大きく関わってきます。
この点において『覆面系ノイズ』は完璧な結末でした。
『覆面系ノイズ』が描く、美しい恋の終わりとはじまり
主人公のニノは最終的にモモを選び、ユズは失恋します。一方でニノは、イノハリのボーカル・アリスとして、いつまでもユズがつくる曲を歌い続けると誓います。
ユズとイノハリの一員として苦楽を共にし、支え合い成長してきたからこそ出る言葉でした。ある意味、告白のようなこの誓いを受けて、ユズは恋が叶うより嬉しいと感じ入ります。
そして、混じり気なしの笑顔で「すきになってよかったよアリス」と言い、恋の終わりを受け入れ、失恋を糧にして未来に向かって歩みはじめます。最高に美しい失恋でした。
恋愛漫画やラブコメで、恋が叶わなかった登場人物を指し、“負けヒーロー”、“負けヒロイン”と呼ぶことがあります。
作中で恋愛を扱えば必然的に生まれる両者ですが、どうしてもその登場人物のファンが悲しむことになります。納得がいかないこともあるでしょう。ゆえに作品の評価にも直結します。先ほど失恋した登場人物の扱いに作者の力量が表れると書いたのは、これも理由です。
翻って『覆面系ノイズ』は、負けヒーローに当たるユズが、恋が叶うよりも嬉しいと幸せに満ちた笑顔を読者に向けてくれます。
ニノが恋のパートナーにモモを、音楽のパートナーにユズを選ぶ結末は、恋愛と音楽の要素を高次元で合致させた、本作らしい、秀逸すぎる三角関係の決着でした。
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イベント情報
創刊50周年記念 花とゆめ展
- 会期
- 2024年5月24日(金)〜6月30日(日) 会期中無休
- 会場
- 東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)
- 時間
- 10:00〜22:00(最終入館21:00)
- 主催
- 白泉社、産経新聞社
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連載
テーマは「漫画を通して社会を知る」。 国内外の情勢、突発的なバズ、アニメ化・ドラマ化、周年記念……。 年間で数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事とリンクする作品を新作・旧作問わず取り上げ、"いま読むべき漫画"や"いま改めて読むと面白い漫画"を紹介します。
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