初心者に向けた登山のコツや安全性の描写も充実
肝心の登山のシーンはどうかと言えば、これまた詳しく丁寧です。
特に油断すれば大怪我や死のリスクすらある登山をテーマにする作品だけに、登山におけるコツや安全性については、シチュエーションを変えて繰り返し言及されます。
「その場の雰囲気に流されて行動しない事 街じゃ人の同調に流されても何とかなるが 山じゃ取り返しのつかない時がある」(出典:9話「ホームマウンテン」より)というような、印象的な言葉も多いです。
具体的なエピソードとしては、山岳部の6人が揃って初めての活動で訪れる高尾山編。
新入生組へのアドバイスとして、山の歩き方の基本である歩幅を狭くする歩法(膝の上げ下げを最小限にすることで疲労を抑える)や、疲れていても顔を上げて空気を肺に取り込みやすい姿勢を意識することなどが語られます。
あるいは新入生組だけでの登山で、経験と知識不足からあわや遭難かと冷や冷やする展開は、先輩組に人災と喝破されたり(反面教師にしましょう)。
では、先輩組がいつでも正しく動けているかと言えば違います。難所の岸壁への登攀では、安全のために欠かせない支点がなかなかつくれない場面があり、新入生たちの前では常に頼れる先輩たちが苦戦する様子が印象的です。
また、悪天候を理由にゴール目前で引き返す決断を下す場面では、登頂成功への切望を押し殺してでも、安全を絶対的に優先する原則が、重要な心構えと共に描かれています。
未経験者も山好きも楽しめる登山漫画の名作
登山のシビアな面を忘れずに、本質的には山を登る楽しさを教えてくれるのが『山を渡る』です。
みんなで登山の計画を立てるためにワイワイと議論を交わす準備から、実際に山を登って景色や食事を楽しむところまで、登場人物たちの笑顔が尽きません。
できなかったことができるようになる喜び。新しい道具を試したくなる好奇心。四季の移り変わりを肌で感じる爽快感……!
山を登ることにまつわる喜びにフォーカスを当て続ける本作は、未経験者を山へ誘い、山好きを得心させる、山への愛情が全編に詰まっている名作です。
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連載
テーマは「漫画を通して社会を知る」。 国内外の情勢、突発的なバズ、アニメ化・ドラマ化、周年記念……。 年間で数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事とリンクする作品を新作・旧作問わず取り上げ、"いま読むべき漫画"や"いま改めて読むと面白い漫画"を紹介します。
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