連載 | #19 漫画百景 いま読むべき漫画たち

『だんドーン』ほど笑えて怖い歴史漫画は無い! “日本警察の父”を描く新鮮な幕末

何かとドン引きされる川路に笑ってしまう

歴史モノこそ人の描き方。その点で泰三子さんが生み出したキャラクター・川路は、本当に生き生きと誌面を踊っています。

キラッキラした瞳で西郷を虚像の英雄にして、大衆心理を動かしましょう!と斉彬に進言してドン引きされる川路。

本職の密偵にファーストインプレッションで「あ…こいつヤバイ奴だ」とドン引きされる川路。その後もなんやかんやドン引きされる川路。最高に面白い。

どこを切り取っても血なまぐさい幕末ですが、泰三子さんによる川路を通して見ると、なんともコメディチックになるので不思議です。

それでいてシリアスなパートはゾッとするほど怖い。『ハコヅメ』連載時から特有の、シリアスとコメディの高低差に酔ってしまう。これが癖になるんですよね。

人間ドラマとラブロマンスの桜田門外の変

冒頭に“「桜田門外の変」──親からも先生からも、こんなふうには教わらない”と書きました(『ハコヅメ』『だんドーン』公式Xの投稿から一部文言を引用させていただきました)。

本作における「桜田門外の変」は、敵対する両陣営の人間ドラマとラブロマンスを前段で丁寧に拾っていたこともあり、随分と血の通った出来事に感じられました。いつだったか、教科書の平易な文字列で見た出来事とは、良い意味でも悪い意味でも全く違ったのです

そしてそれは、本作における幕末という時代の描き方も当てはまります。歴史の影に隠れていた川路を真ん中に据えると、これほどまでに見え方が変わるのか、という驚きがある。

これまでにない、新鮮な幕末モノ。こんなに笑えて、冷や汗をかいて、たまに目頭にジンと来る幕末モノ、筆者は知りません。

桜田門外の変以降も激動の時代を生きていく川路を先頭に、新しい視点から見る動乱の歴史、これからも楽しみにしております。

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