「今自分がつくりたいもの」を再確認する同人活動
──改めてにはなりますが、お品書きは同人誌即売会ではお馴染みの存在です。すでに商業でも活躍されているsakiyamaさんにとって、同人活動はどのくらい重要なものなんでしょうか?sakiyama 同人活動(個人制作)はすごく大事だと思っています。普段いただくアニメMVやイラストなどのお仕事は、クライアントさんの希望を叶えよう、喜んでもらおうと思って取り組んでいます。
一方で、同人活動では、自分のやりたいことが100%できるので、好きな絵を自由に描こうと思っています。今自分がつくりたいものは何か? その模索も含めて定期的に向き合うのがいいのかなって。
──2021年5月に開催された初個展「【最終問題】」でも、当時のイラストレーターとしての自分の現在地を問うことをテーマとされていました。
sakiyama いろんなことを経験していく中で新たに描きたい絵も出てくるので、一度作品を世に出したからOKではなくて、今表現したいものを問い続けながら活動しています。
そういった自分の作品を出す場が、同人誌即売会であるコミティアだったり、デザフェス(デザインフェスタ)だったり、あるいは個展なんじゃないかなって。 ──参加されたことのある展示・即売会イベントは、コミティアとデザフェスですか?
sakiyama そうですね。さっきも言った通り、はじめて行ったのは2018年5月のコミティアでした。
前々から気になっていたので、ふらっと一般参加したんですけど、自分の好きなことを堂々と表現する人たちがたくさん参加していてすごく素敵だなと思ったんです。それまで私は、自分の作品を発表することに後ろめたい気持ちがあったので、とても勇気と刺激をもらいました。
──会場で頒布される作品には、すでにSNSで公開済みのものもあると思います。実際に足を運ぶことの魅力は何だと思いますか?
sakiyama 実際に作品を発表している人を見ると創作意欲が刺激されるし、一般参加者側にも独特な熱気があるというか。
私の好きなクリエイターの方とも、お互いのスペースに足を運んで、直接お話できるので、得られるものは大きいですね。
──デザフェスはいわゆる同人誌即売会とは異なりますが、どういった部分を魅力に感じているのでしょうか?
sakiyama デザフェスはライブペイントがしたくて出ています。大きな壁一面に、衝動的に絵を描くことってなかなかできないじゃないですか。すごく気持ちいいんですよ。
個人的には、同人誌を頒布したい場合はコミティアで、当日その場で絵を描くことも含めてグッズを売るのがデザフェスですね。
あとコミティアはアニメや漫画が好きな人が目的のものを買いに来るイメージですけど、デザフェスはイベント自体を楽しむファミリー層も多いんですよ。
お客さんの層も会場の雰囲気も全然違います。私のフォロワーさんだと、コミティアに行ったことのある人が多くて、私経由でデザフェスの存在を知るという方も多いですね。
退廃的なイラストは周囲からのイメージを取り込んだ結果?
──そもそも小さい頃から現在まで、ずっと絵を描いてこられたんでしょうか?sakiyama 絵は小さい頃から好きでした。学校の図工や美術の授業で褒められることも多くて、自信もあったんですけど──高校卒業したあたりで描くのを辞めて以降、しばらく描いてなかったんです。その後、2016年ぐらいからsakiyamaという名前でまた絵を描くようになりました。 ──一度絵を描くことを辞めた理由を教えてください。
sakiyama 高校3年生のころ進路に迷っていて、絵には多少自信があったので、「じゃあ美大でも行くか〜」と、軽い感じで予備校に通い始めたんです。
でも、当時予備校にいた人は、基本的にみんな高校1年生くらいからずっとデッサンを勉強していたんですよ。だから、私が通い始めた時点で実力差がめちゃくちゃあって。自分は下手だったんだと思い知らされました。
それに当時の予備校の先生が「絵って誰でも上手くなるから」と言っていたのを聞いて、「誰でも上手い絵が描けるんだったら自分が描く意味って何なんだろう……」と、急に冷めてしまって……1か月で挫折して予備校を辞めました。思い返すとすごく生意気ですね(笑)。
今思えば、デッサンは基礎体力みたいなものなので、練習しなくちゃいけないのは当たり前なんですけどね。今でも、あのときちゃんと続けていればなと後悔することがあります。
──それから2016年からまた描き始めたのは、何かきっかけがあったんですか?
sakiyama 当時は会社員だったんですけど、実はストレス解消のために描き始めました(笑)。
2016年にpixivに投稿し始めて、ある程度の作品数を描いたタイミングで、2017年にTwitterを始めて絵を投稿するようになりました。
あくまでも個人的な趣味だったので、友人や家族にも一切教えていませんでした。最初の頃はフォロワーも少ないし、イラストに対して「いいね」も全然つかなくて。でも2018年に、初めて行ったコミティアで買い漁ってきた廃墟の写真集からインスパイアされて、廃墟のイラストを描いたら一気にたくさんの人に見てもらえるようになったんです。 ──当時の廃墟のイラストにも通じますが、sakiyamaさんは退廃的な世界観が魅力的だと思います。色使いやデザインなどで、特に意識していることはありますか?
sakiyama 「あまり派手な色を使わない」と言おうとしたんですけど、今回のつくったお品書きに使ったイラストは、めちゃくちゃ色を使っていました(笑)。
基本的には、線をたくさん描きたいのと、モノクロに差し色を使う表現が好きなんです。私にとっては線が重要で、色はおまけみたいというか。 ──そういった作風に影響を与えた出来事や物はあったのでしょうか?
sakiyama 小さい頃は可愛いものが好きだったんです。
──い、今とはかなり方向性が違うような……?
sakiyama そうなんです(笑)。でも、例えばピンクが好きでも、周りからは紫が似合うと言われたり、小さい頃から見た目が大人びていたのもあったのですが、自分自身の好みと、周りから見た“自分”のギャップが大きかったんです。
昔から周りの目を気にする性格だったので、絵に関しても自分の描きたいものではなく、周りから褒められる綺麗なものばかりを描いていました。これは絵を挫折した原因の一つでもありますね。
ただ、松本大洋さんの漫画『鉄コン筋クリート』と、今敏監督のアニメ『妄想代理人』を観たときにすごく気持ちを揺さぶられたことを覚えています。
直接今の画風に影響を与えているわけではないですけど、少し仄暗かったり、意味がわからなかったり、そういう雰囲気は、昔から一貫して好きなんだろうなと思います。
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