縦に画面をスクロールしながら読むことを前提に、日本や世界の漫画・アニメ・映画などの文化を吸収しながら新たな表現を生み出し、Netflixなどで実写ドラマも大ヒットしているが、それだというのになぜかナメられている。
KAI-YOUで“漫画コンシェルジュ”として活動している私、コバヤシは普段から「あのWebToonが面白いよ」と勧めることが多いのだが、むしろ熱心な漫画ファンから「なんか幼稚な感じがしない?」とナメたことを言われることも多い。
なぜナメられているのか? それは縦スクロール形式の漫画表現や「転生」「チート能力」系の作品が多いWebToonという文化への馴染みがないからだろう。
もしあなたがWebToonをナメているなら、そんなあなたにこそ読んでもらいたいのが『全知的な読者の視点から』だ。
ただのチートものでは物足りない人にこそおススメ
『全知的な読者の視点から』は、いわゆる「転生もの」「チート能力もの」の要素を取り込みながら、より壮大かつメタ的な物語を展開している作品だ。制作を行うスタジオは、エル・セブン。ともに株式会社レッドセブンを運営する『俺だけレベルアップな件』などで有名なRedice Studioもサポートを行っている。作画をSLEEPY-Cさん、脚色をUMIさん、原作をsingNsongがそれぞれ担当し、LINEマンガで連載中だ。 筆者は以前に『俺だけレベルアップな件』のレビューにて同作を、美麗なイラストや縦スクロールだからこそ楽しめる演出が詰まった、初めてWebToonを読む人におススメしたい作品だと紹介した。 『全知的な読者の視点から』は、美麗なイラストはそのままに、YouTubeやTwichの配信文化も織り交ぜてユニークな世界観をつくり出した作品だ。
だからこそ、ストレートな「転生もの」「チート能力もの」では物足りないという漫画好きにこそ読んでほしい。
世界の結末を、ドクシャだけが知っている
開始から10年が経ち、PVもドクシャが読んでいる分の「1」しか表示されなくなっていたある日、ついに『滅生法』は最終話の更新を迎える。ドクシャが最終話を読み終えると、突如謎の存在・トッケビやゲームのようなウインドウが出現。世界は一変してしまう。
しかし、その世界で始まった"シナリオ"(試練)の内容は、まさに『滅生法』で描かれているものと同じだった。
最後まで読んだ唯一の読者であるドクシャには特典として、特別な力と、予言の書ともいえる『滅生法』のテキストが与えられ、そのシナリオに挑むこととなる。
『全知的な読者の視点から』あらすじ
「ありえない...これは俺が知っている展開だ。」 10年以上読み続けた小説の最終話を読んだ日、世界は滅亡し小説の世界が現実となった。 平凡で冴えないサラリーマンの主人公・ドクシャ。 そんな彼の趣味はWEB小説『滅亡した世界で生き残る3つの方法』を読むこと。 ついに最終話を読み終えたかと思いきや、作者からのメッセージが届き小説のモンスターと登場人物が突如現れ、新たな世界が幕を開けた! 「俺は、この世界の結末を知る唯一の読者となった。」 たった一人だけが読み終えたファンタジー小説が現実に。 果たしてドクシャは滅亡した世界を救うことができるのか? 株式会社レッドセブン作品紹介ページより
視聴者は英雄や神、投げ銭とファンを獲得し強くなれ
『全知的な読者の視点から』で描かれるシナリオは、トッケビが出す指令に従いモンスターを倒したり、人間同士で争ったりするというもの。その様子は、ストリーマー(語り手)であるトッケビたちによって全宇宙に放映。様々な世界の偉人や神、超常の存在たち”星座”がそれを視聴している。 星座たちは人間の行動が気に入れば投げ銭を行うことができ、人間たちは試練を突破した報酬や投げ銭で得たコインによって自分を強化していく。
また、より気に入った推しが生まれれば、星座たちはその推しの”後見星座”となり、自身の持つ力の一部を与えたり、直接コインによって支援することもできる。
人間を掌の上で踊らせているように見えるトッケビたちにも、チャンネルの登録者数などで序列があり、どうしたら星座たちが喜ぶ展開がうまれるのかを四苦八苦しながら試練をだしていたりと世知辛い実情がある。
上記のように、『全知的な読者の視点から』は、神や偉人から力を授けられるといったチート能力ものやデスゲームもののあるあるをうまく織り交ぜ、ユニークな世界観をつくりだしている。
『滅生法』のドクシャと主人公ユ・ジョンヒョク
『全知的な読者の視点から』には、「主人公だけチートかよ!」と言われないようにするためか、様々な力を持ったキャラクターが登場する。『滅生法』の読者だというアドバンテージも彼だけのものではなく、途中まで読んでいたという他の読者たちが未来を知る「使徒」として勢力を形成したり、『滅生法』をパクった小説を書いていたために疑似的にテキストを所有している人物が登場。
同じく未来を知る人物にして、死とタイムリープを繰り返しながら戦い続ける『滅生法』の主人公、ユ・ジョンヒョクの存在もあり、様々な壁がドクシャには立ちはだかる。
さらには倒すべき敵として、ある日神のような存在に見いだされ、チート能力を授けられ、他の惑星で行われた試練のモンスターとして”異世界転生”を果たし、その星を滅ぼして帰ってきた”帰還者”たちも参戦。
チート能力を持った強大なキャラクターたちが跋扈する中で、ただのドクシャ(読者)が何を成すのか?
余談ではあるが、筆者が気に入っている点として、ドクシャとユ・ジョンヒョクの服装がある。 彼らは途中からいかにもライトノベルなどの主人公が来ていそうな没個性的なロングコートを着ることになるのだが、実はそのコートのデザインが没個性的であることにすら、世界観に絡んだ設定が存在する。
執拗なまでに世界観の構築と設定の合理性にこだわられた、「転生もの」「チート能力もの」とは一味違ったWebToon『全知的な読者の視点から』をぜひ読んでみてほしい。
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1件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:5985)
>LINEマンガと電子書籍販売サービス・ebookjapanの月間取引額が100億円を突破したとの発表がされたが、それでもナメられている。
これ取引額の大半が日本の漫画ですよね。あと数字を多く見せるために「月間売上」じゃなく「月間取引額」を使ってるあたりがなんかせこいです。
>なぜナメられているのか? それは縦スクロール形式の漫画表現や「転生」「チート能力」系の作品が多いWebToonという文化への馴染みがないからだろう。
「転生」「チート能力」系の作品が多いWebToonという文化への馴染みがないからナメられているというのは逆でしょう。「転生」「チート能力」系の作品ばっかだからナメられているんでしょう。あとは「悪女」「学園復讐」「王と王妃」系ばかり。
>もしあなたがWebToonをナメているなら、そんなあなたにこそ読んでもらいたいのが『全知的な読者の視点から』だ。
「ウェブトゥーンは『転生もの』『チート能力もの』ばかりとナメるな」と言いながら提示するのがちょっと上質な「転生もの」「チートもの」ではますますナメられるでしょう。なろうファンが「このなろうは他のと違って凄い」とよく言うのと一緒。